特集:産学連携で「チーム学校」を実現
文部科学省は平成27年度補正予算で「地域未来塾」に係る学習支援を促すICT機器等の整備を進める。これは「学校を核とした地域教育力強化プラン」における取組メニューの1つで、3万円以上の物品(タブレット端末・PCや工事を要さないLAN設備、プロジェクター、ドリル教材など)が想定されている。一時利用として、学校の通常の授業時間内で実施することも可能。中学生及び高校生の支援を対象としているが小学生でも申請は受け付ける。平成27年度「土曜日の教育活動」を実施しているのは、全国の公立小・中・高等学校の約50%・約1万6千校だが、現在、放課後学習で地域人材を活用した取組を実施している自治体の多くがICT活用に関して情報不足の状態である。実際に放課後学習ではどのような学びが行われており、どこにICT活用の可能性があるのか。神奈川県横須賀市の放課後学習の様子を取材した。
児童はすぐに宿題に取組み始めた 百ます計算やリズム漢字など 横須賀市では、放課後学習「横須賀市学力向上放課後教室・サポートティーチャー事業」として試行期間を含めて平成23年度からスタート。サポートティーチャー(以下、サポートT)は小学校もしくは中学校の教員免許を有する教職経験者で、早期退職者もしくは60歳以上の退職者が中心。市による非常勤採用のため派遣回数は1回4時間以内。小学校では週5、6回、中学校では週2回を原則として年間35週間が上限だ。運用は学校に任せている。
市では希望する小中学校を対象に配置しており、希望校は年々増加。ニーズが最も高いのは算数・数学。平成26年度からは小学校46校、中学校23校と全校で実施しており、平成26年度からは午前中の運用も可能として授業内のTTや取り出し指導、放課後学習が難しい低学年への授業内サポート強化にも対応できるようにした。平成27年度の実施派遣回数は小学校46校に週258回、中学校23校に週48回を派遣。サポートTの総数は116名。
粟田小学校では3人のサポートTが週2回、放課後教室・取り出し指導を支援している。取り出し指導とは、通常授業での学習が難しい時間に図書室で学習を行うもの。国語の読み書きや算数問題など、個別の課題に合わせた指導を1対1でじっくりと行う。
放課後になると雰囲気はがらりと変わる。総勢30人弱の児童が次々とやってきて、自分の放課後学習用ファイルが置いてある席につくと、すぐに各教科の宿題をスタート。宿題プリントはサポートTに提出し、間違った箇所はサポートTが指摘してやり直す。宿題が終了した児童は百ます計算や各種計算プリント、リズム漢字の読み下しと書き取り、百人一首の暗誦などを次々に行っている。リズム漢字とは、熟語を読みやすく五七調または七五調で並べたもので、児童はそれをリズム良く読んでいく。読み終わったらその書き取りを行うというもの。百人一首の暗誦に次々と取り組む児童もいる。
これらの指導内容は、同校に派遣された3人のサポートTが話し合って決めているという。リズム漢字や百人一首の暗誦を熱心に行っているグループの児童はおそらく次年度は、「放課後教室メンバー」ではなくなっているだろう。
同校では、放課後学習・取り出し指導が必要な児童を年度当初に教員で話し合い、保護者と相談の上で参加者を決めている。運営面の課題について横須賀市教委では「人材確保が課題。毎年一斉に退職者リストに電話をかけて依頼している。スムーズな指導には学級担任や教科担任との連携が必要だが、その時間の確保が難しい。サポートTが高齢者であることもあり、ICT活用の検討は未定だが情報は得たい」と語る。
文部科学省では地域未来塾事業について、「地域人材による学習支援が本事業の中心ではあるが、より高度な内容となった場合に、タブレット端末等を活用した学習支援も有効。学習支援に対応できる地域人材の確保が難しい場合も想定され、それを補う役割もある。山間部や離島など、塾等に通うことが難しく、ICT活用の実効性が高い地域については、特に活用を積極的な検討を」としている。このほか、さらに学習を進めたい児童生徒への対応も期待されている。
なお平成28年度は「地域未来塾の充実」に2・7億円が予定されており、主に高校生への支援を強化する。未実施地域における取組の加速化を図るため、各都道府県市町村に統括コーディネーターも配置する(6億円)。▼学校と地域でつくる学びの未来=manabi‐mirai.mext.go.jp/▼土曜学習応援団=doyo.mext.go.jp/
小学校2校、中学校1校の長野県喬木村では、平成27年度文部科学省補整予算「地域未来塾」事業補助金に申請している。これにより、次世代交流施設「こども学遊館」にタブレット端末30台、学習ソフトを整備して学習の遅れがちな児童生徒や不登校児童・生徒を対象とした支援を放課後や土曜日に行う。
現在喬木村では、中学校に生徒用タブレット端末1人1台・全200台、教員用タブレット端末1人1台・全15台、全普通教室に電子黒板を整備済。デジタル教科書も整備した。小学校では、遠隔合同授業ができるようにテレビ会議システムも整備している。
これら整備は、平成27年度「人口減少社会におけるICTの活用による教育の質の維持向上に係る実証事業」やふるさと納税、地方創生補助金(総務省地方創生事業タイプ2を教育環境整備に活用)によるもの。教育環境整備を地方再生につなげる考えだ。
【2016年3月7日】
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