教育委員会対象セミナー・大阪 ICT機器の整備計画/校務の情報化
教育家庭新聞社では10月10日、第19回教育委員会対象セミナーを大阪で開催、定員を上回る85名の参加申込があった。関西圏はタブレット端末の整備・活用が進んでいるが、ICT整備・活用に関する3本の講演について、教育委員会参加者からはいずれも「非常に参考になった」というアンケート回答が多く、教員の参加者からも同様の関心が寄せられた。校務支援システムや無線LAN、電子黒板についての関心も高い。今年度は、今後東京、福岡、名古屋、岡山で本セミナーを実施していく。
堺市教育センター 浦嘉太郎氏 |
堺市教育センター 藤本慎也氏 |
堺市では平成17年度ごろから様々な整備を行ってきた。モデル校指定によるICT機器・校内LAN整備や校務支援システムやCMS整備も行った。
22年度からは、教育用PCと大型デジタルテレビを全校の普通教室に導入しICT機器の教科での活用を図った。大きく映し出すことで子供たちの理解が深まる、通常では得られない情報をインターネットにアクセスして提示するなど様々な活動が行われ、一定の成果を得た。
しかし、全学校全学級で活用されるにはいたらなかった。
その原因について先生方に伺うと、電源やLAN、音声・VGAケーブル類の接続が煩雑で、PCの起動時間が長い。また、ノートPCを操作する際にマウスやキーボードを操作しなければならないといった不便さがあった。こういった課題をクリアするには、授業スタイルの変更や入念な教材研究や準備が必要であった。
こうした中、全国的に各市町村でタブレット端末導入の検討が進んでいた。タブレット端末は、(1)持ち運びがしやすい、(2)操作が簡単、(3)起動が早い、(4)カメラ機能が付属、などのメリットがある。こうしたタブレットの特性を生かした最も効果的な整備について検討した結果、教員がタブレット端末を授業の指導で活用するという結論にいたった。
文科省の教育情報化の手引きで、従来の授業の展開との融合、ICTによる情報提示と黒板が連携しやすいようにする、といったことが重視されている。しかし、では、どうすればいいか、は書かれていない。そこで、堺市ではタブレット端末を教員が指導用として活用することにより、これまで実現しえなかった全教員がICT機器を使った授業を行う施策を推進している。
具体的には、タブレット端末を教室の大型デジタルテレビに画像伝送のできる無線アクセスポイントで接続する。従来は教卓からしか指導できない、起動時間が長い、ICT機器を活用した授業ではなく、ICT機器を使うための授業にならざるを得なかった状況を改善する。つまり、タブレット端末を無線で大型デジタルテレビに接続することで、教員がもともと授業で実践していた机間指導を取り入れて子供たちに寄り添った授業をする。
この部分が教員に非常に説得力のあるものだったと思う。
具体的には、25年度に小学校で支援学級を除く全普通教室にタブレット端末と無線アクセスポイントのセットを約1500、26年度に支援学級及び特別教室に約500セット整備。
1つの小学校で先行実施したところ、非常に効果的なツールである、との使用感を得た。このシステムの効果は、(1)適切な教材使用ができる、(2)個別指導が充実、(3)子供の考えを即時効果的に表示できる、(4)子供の積極的な意見発表を導く、など。
指導者が片手にタブレット端末を持って机間指導しながら、必要に応じて子供のノートをカメラで撮って大型テレビに映し、児童にその場で説明させたり、前に出て発表させる。授業の中で撮ったビデオを振り返りとして流すこともできる。
教員が児童のところに行って発表させるため、発表時間が短縮され、児童の発表回数も増える。
研修は「整備前」の夏季休業中に活用方法と操作体験の研修を39回実施、また校内研修などを含め約1000名が受講。「整備後」には全校に専門のインストラクターを派遣し実際に整備されたタブレット端末を使って操作研修を行った。
1月17日に整備完了後、学校を視察すると、ほとんどの学校でタブレット端末を活用していた。
その後、今年2月と6月にタブレット端末が整備されれた小学校の全ての教員を対象にアンケート調査を実施した。2月と6月の2日間の総授業時数の内、2月は44%の授業で、6月は52%の授業で活用されていた。
ほぼ半分以上の授業で使われていることになり、非常に高い結果である。教員の活用率別の分布を見ると、50%から70%の教員が多い反面、一度もタブレットを使っていない教員(2月116人=8%、6月65人=4・5%)がいることに注目している。
また、学校の規模別の活用率を見ると、比較的規模の小さい学校の活用率が低い。その理由は、相談をする同学年の教員がいない、刺激も受けられないといったことが考えられる。逆に20学級以上の規模の大きい学校では活用率が高く、小規模校にいかに働きかけるかが課題になる。
教科では算数の活用率が高く、活用内容ではデジタル教科書、次にカメラ・ビデオ機能の活用率が高い。デジタル教科書は学校が独自に整備した条件下での数字であり、市としてのデジタル教科書の全校一斉整備が求められる。
活用促進のため、「タブレット活用プロジェクト」を開始している。放送大学の中川一史教授との共同研究で、管理職・教員19名に参加頂き9月から11月まで19本の研究授業を行い、堺スタイルでの効果的な活用方法を研究している。普段の一般的な授業でいかに活用すれば効果が高いか。研究授業で得られた成果は動画や電子データにして全校全教員で共有していく。
整備後の課題として、4月に学級が増えたときにタブレット端末等セットをいかに補充するかが課題だ。教委では2学期までに用意して使えるようする予定だったが、複数の学校長から「整備されていない学級について保護者にどう説明すればいいのか」という要望が寄せられた。少人数教室実施の場合の対応も求められる。
来年度以降、小学校の効果検証をしっかりした上で、中学校の整備に着手する。校務支援システムも順次整備しているが、来年度は指導要録の電子化に取り組む予定だ。
加えて、教室で出欠をタブレットで記録し、同時に職員室でもリアルタイムで確認できるようにするシステムを検討している。
(講師=堺市教育センター総括指導主事 藤本慎也氏、主任指導主事 浦嘉太郎氏)
【教育委員会対象セミナー・大阪:2014年10月10日】
【2014年11月3日】
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