京都市立嘉楽中学校(井上浩史校長)は昨年度、京都市の「豊かな学びリーディングスクール」推進事業の指定校として、デジタルペン授業支援システム「Open NOTE(オープンノート)」(大日本印刷)を導入。主に理科で活用しており、今年度は言語活動の充実を研究テーマに取り組んでいる。7月15日、1年生の理科の授業の様子を取材した。授業者は和田正裕教諭。
ワークシートの一部を焦点化して一覧で表示 |
「シャープペンシルの芯は金属?非金属?」
ワークシートに記入された各班の考えは、プロジェクター投写画面にリアルタイムで表示されていく。「芯は木炭だと思うので非金属」、「砂鉄が入っているかもしれないから金属」、「電気が通らないから非金属」と考える班もある。
A4大のワークシートには、3つの設問と実験結果の記入欄がある。提示画面に表示されているのは、教員が選択した該当部分のみだ。オープンノートは、用紙の一部を選択し、そこだけを焦点化して一覧表示できる機能がある。
ワークシートはオープンノート用紙印刷ソフトウェアで印刷したもの。この用紙とデジタルペンを使うことで、「紙とペン」の記入内容がデジタル化される。各班にはこの用紙とデジタルペンが1セットずつ配布されている。
デジタルペンでワークシートに記 入した内容はすぐに全体で共有で きる |
オープンノートで実験結果を即共有
この日の授業は「金属の性質」だ。
鉄、銅、プラスチック、竹、アルミニウム、シャープペンシルの芯について「電気が通るか」「磁石につくか」「ハンマーで叩いたときの形状」などについて調べる実験を20分間で行う。和田教諭はタイマーを教室上方のアナログテレビ画面に提示して時間管理を意識しやすくした。
実験結果を記入すると、提示画面に他班の進捗状況が映る。オープンノートを活用して間もない1年生だが、記入内容を提示画面で確認しながら修正する様子も見られるなど活用はスムーズだ。ほぼ全ての班が20分間で実験を終えることができた。
和田教諭がオープンノートに注目したのは一昨年だ。
紙に記入した内容をデジタルデータとして共有できる点に興味を惹かれ、市の教育推進事業「豊かな学びリーディングスクール」に採択された際に導入した。
理科の実験はグループで行う場合が多い。実験結果をグループでまとめ、全体共有するために、前に出て黒板に書く、各班でミニホワイトボードにまとめて前に置く等を行っていたが「生徒の動線が煩雑になり、非効率な時間が生じる」と感じており、実験・考察から結果、まとめを50分間の授業時間内で行うため、より効率的な方法を求めていた。
オープンノート専用ソフトで印刷 したワークシート。紙とペンなの で「現物をなぞって記録」できる |
そこに「オープンノート」を活用。デジタルペンを使って手元で考察や実験結果をまとめ、その内容を教員も生徒もリアルタイムで共有。実験がよりスムーズに進めやすくなった。生徒たちにとって、各班の実験結果を視覚的に画面で確認できることは実験結果及び考察の理解を大きく助ける。ペンなのでタブレットPCを活用するよりも微細な表現が可能な点も評価している。
再生機能で理解を促す
昨年度は担当学年であった中学校3年生の理科で試行錯誤を重ねながら年間で20回以上活用。年度末に生徒にアンケート調査を行ったところ、理科に苦手意識がある生徒から「理科が好きになった」という感想が得られたという。
実際にどのような活用を行ったのか。
「天体と月」の模擬実験では、それぞれの見え方についてスケッチして表にまとめた。オープンノートは記入順序も記録され、動画として再生できる。スケッチのポイントについて理解できなかった生徒も、他の生徒がスケッチした順番を見ることで理解しやすくなったという。
また、見えないように袋に入れた肉食・草食動物の骨(レプリカ)の触感から、デジタルペンでその形状を書くという授業を展開。リアルタイムに画面提示される形を見てイメージをふくらませ、自分が実際に触ったときに納得する、という流れを作った。
オープンノートには「クリッカー」機能もあり、実験結果の「予測」の意見分布を集約する際などに活用。このほか、記入内容の一部をプレゼンソフトなどで加工して前時を振り返る、他クラスの実験結果を提示するなど、1年間で様々な活用を展開した。
「教員の仕掛けによって授業の流れも子供の理解度や興味関心の持ち様も変わっていく。少しでも生徒が互いの意見を交流し合う場面や観察・実験の時間を増やせるかを試行錯誤し、毎回1時間で導入・展開・まとめがすべて完結する授業構成を考えてきた結果では」と、理科好きが増えた理由を推察した。
和田教諭を始め、本年度も同校では公開授業を行う。日時は11月20日(金)午後の予定だ。
【2015年8月3日】