教科書から図形が飛び出す
グループに1台タブレット端末を 配布。個人所有のiPhoneやandro id端末も使って回転体を確認した |
「教科書AR」で図形の回転体を確 認 回したり大きくしたりして確 認できる |
東京書籍では、AR(Augmented Reality・拡張現実)」により紙面とCG・アニメーション・動画などが連動する無料アプリ「教科書AR」を教科書に導入している。これによりiPadやiPhone、Android端末などを教科書紙面にかざすことで、関数のグラフや書写の筆運びなどのアニメーションを見たり操作したりすることができるようにした。山梨県立甲府西高等学校(小川巌校長)では数学でこのARコンテンツを活用している。3年理系クラス「数学3」の授業を取材した。授業者は諏訪めぐみ教諭。
「数学3」習熟度別授業のこの日の内容は、2次関数のグラフと直線y=xで囲まれた図形を直線y=xの周りに1回転してできる「回転体」の体積を積分で求めること。
まず、「どのような回転体ができるのか」について個別で考えをまとめ、班ごとに考えを出し合い、全体で発表。その後、ARを起動して、どのような回転体ができるのかを実際に目で確かめた。
諏訪教諭はグループごとに1台のタブレット端末(iPad)を配布してから、プロジェクターにタブレット端末を接続して生徒に使い方を説明した。このほか、個人所有のiPhoneやAndroid端末も使い、生徒たちが教科書の該当ページにかざすと、図形アニメーションが起動し、画面にグラフが飛び出した。
背景を白く設定してより見やすくする。再生ボタンを押すと、2つのグラフで囲まれた図形が回転。その軌跡が残り、どのような図形になるかを見ることができる。
一時停止したり、できた回転体を拡大したり、動かして上や横、斜めからも確認できる。座標軸を消して見やすくするなど、様々な方法で確認した。
回転体を確認した生徒は、「ラグビーボールのように上下左右対称の形をイメージしていたが、実際の回転体は少し歪んでおり、涙型だった」と発見を述べた。
その後生徒は、涙型の回転体の体積を求める積分の解法に挑戦。さらに別解も考えた。
イメージできれば立式しやすくなる
諏訪教諭は教科書ARについて、「動点がどのように動くかがわかれば、教師の説明も理解しやすくなる。正確な回転体を生徒が自分でイメージできれば、より簡単な計算方法を思いつきやすくなり、問題を解く時間も短く、正しい結果を導きやすくなる。大学入試で難問を解く必要がある生徒にとって、図形の軌跡をイメージできる力は、身につけたい力の一つ」と話す。
たとえ図形をイメージできなくても解法に従って積分することはできるが、計算式が長くなりがちで、そうなると時間がかかり、結果計算ミスもしやすくなるという。「難関大学の受験数学」を乗り切るための力の一つが「イメージできる力」であり、それがあれば、立式しやすい。
「ARコンテンツはイメージ力を身につけやすくする可能性がある。楽しい点も良い。図形を動かす楽しさが、理解できる楽しさ、難問を解く楽しさにつながっていけば。家庭学習でも教科書ARによって予習・復習しやすくなり、定着しやすくなる」という。
現在、東京書籍の数学3では「立体の体積」「円環体の体積」「直線の周りの回転体の体積」などで教科書ARのコンテンツを追加している。
諏訪教諭は「東京大学や京都大学、東京工業大学などの入試問題、特に空間図形に対応したARコンテンツがあれば、さらに生徒の理解が深まりそう」と、より高度な問題に挑戦するための「才」を育む可能性を期待している。
約200種類がARコンテンツに
教科書ARは、教科書のページそのものを読み込んで起動する仕組みとしているため、教員の要望によりコンテンツを追加しやすい点もメリットだ。
東京書籍では現在、英語、数学、化学、技術家庭科、情報、書写(小中学校)などの教科書でARコンテンツを提供しており、その数は現在200種類ほど。主に高校の理科や数学の教科書が多い。
東京書籍は「デジタル化のメリットがあるものを中心にコンテンツ化を図っている」と話す。なお対応ページは、教科書ARをダウンロードすることで分かるようになっている。
【2015年7月6日】