絵画に”入り込む”美術鑑賞<豊島区立池袋本町小学校>

体験型美術鑑賞用システム実証授業

大日本印刷株式会社(DNP)は美術作品を体験的に鑑賞できる学習システムを開発しており、5月11〜14日に豊島区立池袋本町小学校で6年生3クラスを対象に実証研究授業を行った。児童は国立西洋美術館訪問の事前学習として体験型システムで様々な美術作品に「入り込む」鑑賞を経験した。本システムは、ルーブル美術館との共同プロジェクトで蓄積したノウハウを活かしたもの。教材化における共同開発者は美術デジタル教科書研究会代表・安東恭一郎教授(香川大学)。

”最後の晩餐”に参加
じっくり鑑賞 協働学習も

ウォークビュー
画面に近づくとテーブルや人物が近づく「ウォ
ークビュー」
見どころルーペ
タッチし続けると拡大するので細部まで観察で
きる「見どころルーペ」

鑑賞した作品は、マールテン・ド・フォス「最後の晩餐」。既に学習済みのレオナルド・ダ・ヴィンチ「最後の晩餐」と比較していく。タブレット端末をタッチすると拡大する「見どころルーペ」、人感センサーによりスクリーンの絵の中に入り込む疑似体験ができる「ウォークビュー」によりインタラクティブな美術鑑賞が展開した。

授業者は竹谷摩維子教諭。授業目標は「主体的に鑑賞する態度を育む」「多角的に鑑賞し自分と違う視点を共有する」「美術をより身近にとらえ、愛好する態度を育む」の3点だ。

初めは2人1組、次に班長を中心に4人で語り合い、全体で意見を共有。タブレットPCは2名につき1台使用した。

キリストや裏切り者とされるユダの存在など、「最後の晩餐」の設定を振り返った後、子供たちは誰が裏切り者なのかを推理しながら作品を観察。2人1組で印刷された既習のダ・ヴィンチの絵と比較して気づいたこと、疑問に思ったことを付箋に記入して該当か所に貼り、班で話し合う。「袋を持っている人がいる」とユダの存在に迫る気づきや作品の特徴の一つとされる目線の工夫に気づく班もあった。

竹谷教諭は、中心にいるのがキリスト、袋を持った人物がユダであることを知らせ、ダ・ヴィンチの描き方が伝統的なものであることを説明。「フォスの工夫点を探そう」と鑑賞の観点を提示して、さらに細かく観察するため、電子黒板で「見どころルーペ」の使い方を説明した。

「見どころルーペ」では、全員が気になる箇所を拡大し、競い合って発見を伝え合う。ユダの金銭の入った袋を拡大した児童は「袋に黄色っぽい色が見える」と幾重にも色を重ねる画家の筆跡を発見した。

「ウォークビュー」による観察は、より体感的だ。立つ位置と動くスピードに応じてスクリーンの絵に入り込む感覚が味わえる。スクリーンから離れるとキリストは遠ざかり、近づけばキリストと向かい合うことができる。細部の描写を詳しく見たい場合は、そこに向かって近づくとその部分が拡大される。

児童からは「見どころルーペとウォークビューで詳しく見ることができた」「窓の外や洋服、建物も詳しく描かれていることがわかった」「あやしい人がこの絵にはいっぱいいる。誰がユダなのか、敢えてわからないようにしているのでは」という感想が上がった。

竹谷教諭は「1枚の絵を2時間いっぱい使ってじっくりと観察できた。普段あまり発言しない児童も主体的にコミュニケーションを取り、作品の本質に迫る児童もいた」と話す。

■共同開発者・安東教授

美術という教科は正解がなく失敗がない教科。児童の素直な感覚を引き出しやすく、協働学習に適している。本システムは三次元を二次元に変えた画家の世界を逆に体験し、画家が見た三次元の世界を感覚的に想像し味わうことができるもの。協働的学びを推進し、新時代に求められる想像力・発想力を育成するツールとして期待できる。

【2015年6月1日】

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