電子黒板と連携した授業が定着した |
2014年9月、東京都・杉並区立小学校3校の高学年児童に1人1台のタブレットPCが導入された。そのうち最先端の活用・導入を検証しているのが、今年度創立8年目を迎える杉並区立天沼小学校(福田晴一校長 東京都)だ。同校には5・6年生の全児童に1人1台のタブレットPCが計約200台配備され、無線LANアクセスポイントも高学年には各教室に整備されており、授業や学級活動、休み時間も活用されている。6年生の卒業を目前に控えた2015年3月、同校のタブレットPC活用について福田晴一校長に聞いた。
学級会でも電子黒板でまとめる |
特別支援学級ではiPad |
学級会で「タブレット活用」が議題に
同校では休み時間の自由なタブレットPC活用を推奨している。休み時間の様子を見ると、ある女子グループは、タブレットPCで動画サイト(YouTube)を見ながら卒業イベントのダンスの練習をしている。自由にインターネット検索やゲームを楽しむグループもある。
ある男子はタブレットPCを使って卒業文集の下書きをしていた。卒業文集では手書きした原稿を印刷するが、下書きはタブレットPCで作成、それを印刷して校正したものを手書きで清書するという。廊下にはプリンターがクラス分並んでおり、タブレットPCをつないで印刷できる。
福田校長は「様々な活用を積極的に行うことで、授業中や15分間のモジュールタイム、特別支援教育での活用を始め、その使い方を自ら考えるきっかけにもつながると考え、休み時間も制限を与えず、自由な活用を推奨している」と話す。
■習熟度別学級でも特別支援学級でも
5年生算数「割り算」の習熟度別授業では、それぞれの段階に合わせた課題「4/5÷2」や「4/5÷3」を提示して、児童1人ひとりの考え方をタブレットPCで図にまとめ、それを教員が電子黒板に提示しながら児童に考え方を説明させていく、という授業を展開していた。この授業手法は既に定着しており、福田校長は「児童は明らかに発表の機会が増え、いろいろな考え方で解決にたどりつくことができる実感、体験が増えた」と話す。
特別支援学級では、タブレット端末(iPad)を1人1台活用。平仮名や漢字の練習をする児童、塗り絵や迷路、パズル、間違い探しなどのゲームアプリをする児童など、個の発達段階に応じたアプリケーションが活用されている。充電保管庫はiPad専用のものを設置するなど運用にも工夫が見られた。
休み時間も自由に活用 |
プリンターは1クラスに1台廊下に 並んでいる |
■学級会の議題はタブレットPC活用
高学年クラスの学級会の議題は「休み時間のタブレット活用の是非」だ。 「外遊びをする」ことが学校全体の月目標に設定された際、休み時間にタブレットPCで遊ぶ児童もいることから、「休み時間のタブレットPCの活用はこれで良いのか」という疑問が生まれ、学級会の議題になったという。書記の児童は電子黒板を使って、意見を整理・分類しながらまとめている。議題が変わると電子黒板上で新しいノートを出して記入するなど活用ぶりもスムーズだ。
「タブレットPCを自由に活用するべき」、「制限すべき」というそれぞれの意見とその理由には、大人が想定する問題点がほぼ網羅されていた。「Webを見るときは必ず2人以上で見ることにする」「調べ学習や卒業文集作りでは休み時間の活用を制限しない」などの新しいルール作りに関する意見、「天沼小学校は区の実証校として先行してタブレットPCを活用しているので、制限し過ぎないほうが良い。他の学校ではできないことを失敗も含めて取り組んでいくべき」という意見が出るなど、課題に前向きに解決しようとする話し合いが進行していた。
福田晴一校長 |
タブレットPCの本格的な活用は2学期が始まってからだが、高学年の授業が半年で一気に変わった。その変化を見た低・中学年の教員にもタブレットPCを始めとするICTの授業活用に対する関心が広がり、グループに1台の活用など協働学習の試みが広がっている。
平成25年度に各校に配備されたタブレットPC9台は当時、台数の少なさから活用はそれほど進まなかったが、今はその9台の出番が増え、主に4年生以下の教員を中心に活用されている。
短期間でここまで活用が進んだのは、1人1台の配備であったこと、児童の自由な活用を推奨したこと、授業では電子黒板と連携して活用できる環境にあったこと、ICT支援員が常駐していることなどがある。電子黒板機能付きプロジェクターや書画カメラ、プリンターは全普通教室に整備されている。
インフラを短期間である程度そろえることができた点も大きい。高学年からの導入の場合、1人ひとりのスキルやリテラシーの差は大きく、それらを短期間である程度まで足並みをそろえる必要がある。タブレット・パソコン入門教材アプリ「ポケタッチ」で15分程度のモジュールタイムなどを活用して短時間で効率的にキーボードや情報モラルなどのITリテラシーを身につけることができた。
教具は学校が用意するもの。文具は保護者負担で用意するもの。タブレットPCは、教具から文具への移行期にあるのではないか。
セキュリティに守られている学校という場でこそ、多くの失敗ができる場所。1人1台配備になった際にどの学校でも起こり得る、失敗事例も含めた先行事例を積極的に出していきたい。学校で起きた様々な問題ついて話し合い自ら解決する、という訓練を繰り返していくことが、本当の情報モラル教育であり情報教育であると考える。
【2015年5月4日】