「高大接続改革」について下村博文文部科学大臣は「単なる入試改革ではなく、小中高を含めた教育における明治以来の大改革」と表現している。3月21日、高校教員向けフォーラム「大学入試改革の先にあるもの〜高校教育の本質を考える」が都内で開催され、全国の高校教員が多数参集した。主催はNPO法人NEWVERY。
文部科学省・大学振興課 橋田裕室長
橋田裕氏は、本年1月に決定した「高大接続改革実行プラン」について解説した。世界のGDPに占める日本の割合は、2015年には1・9%まで下落するという予測がある。この最大の原因が、生産年齢人口の著しい減少だ。今後は一層、1人ひとりが担う責任が大きくなることから、これを解決するための人材育成に取り組む。それが大学入試及び高大接続における改革であり、これにより今まさに求められている学力や能力を育み、測定できる仕組みを構築。課題の発見と解決に向けた主体的・協働的なアクティブラーニングを「飛躍的に充実」する。
具体的には、「思考力・判断力・表現力」を中心に評価する新テスト「大学入学希望者学力評価テスト(仮称)」を平成32年度から、基礎力を測る「高等学校基礎学力テスト(仮称)」は平成31年度から段階的に行う。「高等学校基礎学力テスト」はついては大学入試センターを改組した新センター組織として作成にあたり、平成28年度中に作問イメージを提供していく。実施時期は夏から秋を予定。
英語力の育成・評価については外部団体による資格・検定試験を積極的に活用していく。
各大学での個別入試では、前記のテスト結果に加えて、小論文や面接、集団討論やプレゼンテーション、活動報告書などを含めて多面的・総合的な評価により「丁寧な入試」を行う。大学は、どんな学生が欲しいのか、どんな能力を高校時代に伸ばしてほしいのかについてアドミッションポリシーなどで明確にしていく。それに伴い高校でも多面的な学習と評価を導入していく必要がある。真に必要な力を伸ばすことが大学入試につながるように取り組んでいく。既に「高大接続部会」や「英語力評価及び入学者選抜における英語の資格・検定試験の活用促進に関する連絡協議会」が実施され、検討が始まっている。
■大学入学希望者学力評価テスト(仮称)=「教科型」「合教科・科目型」「総合型」の問題を出題。年複数回実施。記述式・CBT(Computer Based Testing)方式での実施を前提に検討中。
■高等学校基礎学力テスト(仮称)=高校で身につけるべき基礎的な知識を習得できているかどうかを測定。複数回の受験が可能。
「丁寧な大学入試」とはどのようなものか。既に大学入試改革に着手し成果を上げている筑波大学と追手門学院大学が事例を紹介した。
「選抜型」ではなく「育成型」を目指す同学の大学入試の「丁寧さ」は徹底している。「大学で学ぶ意味を考え、学ぶ意欲と姿勢を持つ学生」を育むために受験前から「アサーティブプログラム」を実施している。平成26年度の大学教育再生加速プログラム(AP)で採択されており、前年度比で40%以上受験生増を達成した取組だ。
この取組の目的は、「分厚い中間層」である学生の自己肯定感の低さの解消だ。入試前に「基礎学力」を身につけ、意欲的に進路を考えて前向きに決定できる仕組みを考えた。
基本は事務職員が担当する「丁寧な個別面談」だ。前年度は30人の職員が対応し、1人あたり十分に時間をかけて面接を行い、問題点や今後の取組について考え、同学独自の学習システム「MANABOSS」に取り組む。
「MANABOSS」には「基礎学力適正検査」と「バカロレアバトル」がある。「基礎学力適正検査」は、PC上で行う同学版SPI検査を応用したもの。言語能力問題と非言語能力問題があり、達成度が分かり、何度も行うことができる。「バカロレアバトル」は、あるテーマについてSNS上で討論するもの。「あるテーマについて大賛成した後、猛反対する」といった「1人ディベート」も行う。この2つのプログラムにより、基礎学力を身につけると共に、討議力やコミュニケーション力を身につけていく。
これらの成長を記録する「アサーティブノート」で、自らの成長を振り返り、アイデンティティの形成につなげる。これらプログラムを経て「同学を受験したい」という生徒が増えたという。
本プログラム後に行われる「アサーティブ入試」1次試験はグループディスカッションで、主体性、協調性、論理性などを評価する。先の入試で「動物園の動物は幸せか」をテーマに話し合ったあるグループでは、持ち時間30分間で環境問題にまで話が展開したという。
2次試験は、基礎学力適正検査と個別面談だ。学力検査はMANABOSSと同様の問題をペーパーで実施。面接は、教員と職員がペアになって行う。
同学では5年後、入学定員数の3割に当たる500人をアサーティブ入試としたいと考えている。そのために面談職員の増員と研修、アサーティブ入試により入学した学生の追跡調査とその分析を計画しており、大阪府下の高等学校との協力関係も構築中だ。
広大なキャンパスに24の教育組織を有する「筑波大学」では、多様な人材を受け入れることを目的に、多様な14種類の入試を行っている。
全入学定員の61%を占めるのが、前期の個別学力検査等だ。センター試験の科目・配点は学類・専門学群ごとに設定。試験内容は求める人材のメッセージとなっており、例えば社会の学力検査では、論述問題が4問で、この形式は40年間継続している。
筑波大学として新設された当初からスタートしたのが、公募制推薦入試だ。全入学定員25%を占めており、出願要件A段階を満たすことで小論文と面接により選抜する。高等学校の成績が良好であることは、入学後もそれを維持しやすい学生であるという点を期待している。一方、研究意欲についてはそれほど旺盛である割合が多いとはいえない。
そこで、研究意欲が旺盛である学生の受け入れ窓口として、アドミッションセンター(AC)入試を平成12年度から導入。自己推薦型で、課題発見・解決能力を重視しており、推薦入試とは異なる評価基準を設けた。最も重要なのが、形式・分量自由の「自己推薦書」で、到達度ではなく、自分で設定した問題解決のプロセスから「学ぶ力」を評価する。
AC入試は現在16の学類で実施しており、個別面接は約30分。筑波大学では、優れた研究に取り組んだ学生を表彰する「学生表彰」を行っているが、AC入試による学生の受賞率は高く、研究マインドにあふれる学生の獲得につながる方式であると考えている。AC入試には選考まで1か月半程度と時間がかかるため、全入学定員の4%としていることから実現できる入試であると報告した。
「グローバル化に向けた入試改革に向けて昨年度より「国際バカロレア(IB)特別入試」をスタート。「探究心を持って主体的に学び、世界的に活躍する人材」を求め、育成するための入試で、IBスコアと高校の成績のほか、外国語による課題論文や活動報告書を提出。第2次選考も英語で行う。
現在、スーパーグローバル大学として、TOEFL等外部試験の導入100%実施に向けて議論が進んでいるところだ。
現在、高等学校における進学校の14人に1人が、中間校の8人に1人が、進路多様校においては5人に1人が大学を退学する。また、大学進学した100人のうち、就職できるのが50人であるという統計もある。
文部科学省中央教育審議会・高大接続特別部会で委員を務める生重幸恵氏は、NPO法人スクール・アドバイス・ネットワーク(S.A.Net)を立ち上げ、学校と地域・企業をつなぐ教育コーディネートに携わっている。その経験から「学校の勉強に自信を失うと、様々なことに自信を失う。そんな子供たちが地域活動や体験活動を通して自信を取り戻し、伸びていく様子を見てきた。自分なりの考えを持ち自信をもって取り組めるようになるには、その学校に合った様々な体験活動が必要。体験活動の充実は多様な大人と関わる機会の創出にもなり、信頼できる大人に出会う可能性が増える。アクティブラーニングも協働学習も、基礎学力が土台になる。成績が振るわない子も、諦めを装っているだけで、やり遂げることができてうれしい、という体験があれば次の一歩を踏み出すことができ、低学力化に歯止めをかけることができる。進路多様校においてアクティブラーニングに取り組むには高校教員が全てを担うことには無理があり、外部との連携を意識していかなければならない」と話す。
SANetでは、高校生を対象とした福祉の視点からのキャリア教育や、学力低位層を対象にした土曜学校のコーディネート、各種企業と連携した授業をサポートしている。「高大接続特別部会では、子供たちの人生を前向きなものに変えていきたいとう安西祐一カ委員長(独立行政法人日本学術振興会理事長)の強固な意志を感じた。この改革の成功のためには、義務教育の学力定着が必須。NPO法人としてサポートしていきたい」と述べた。
【2015年4月6日】