考える力を高めたり思考を深めたりする手段の1つとして、授業における「思考ツール」の活用が増えている。「思考ツール」は新たな「基礎学力」として認識し始められているようだ。「ポケタッチ」はこの「思考ツール」を教材アプリに取り入れて楽しみながら身につけられるようにした。その開発や検証に係わったプロジェクトチームの一人である岩崎有朋教諭(岩美町立岩美中学校・鳥取県)に開発意図や活用効果について聞いた。
岩美町立岩美中学校 岩崎有朋教諭 |
理科において「比較する」活動は小学校3年生で既に色濃く出る学習です。学齢が上がるに従い、4年生「関連付け」、5年生「条件制御」、6年生「推論」など、求められる問題解決能力は高度になります。
一方、「ポケモン」にはキャラクターごとに様々な属性があります。それを生かしてこの「比較する」「分類する」といった問題解決能力を身につけられるのではないかと考えました。そこで、思考ツールの1つである「ベン図」「マトリックス表」に焦点を当て「比較する」「分類する」課題の難易度が段階的に増していく工夫を盛り込みました。例えば、最初は「Aとそれ以外」、次に「AまたはB」、そして「AかつB」が加わるといったステップです。
さらに、授業における思考ツールの活用イメージを持ちやすいように、3〜6年生の国語・算数・社会・理科・総合の5つの教科でモデル指導案を提供しています。
いくつかの小学校で昼休憩やモジュールの時間で検証したところ、予想以上に「情報の比較・分類」が身についていく様子が分かりました。「ベン図」「マトリックス表」を活用した学習に苦手意識を持ちやすい児童も、人気キャラクターの力によってそのハードルが下がるようです。特別支援学級でも一部試したところ、意欲が持続しやすく、比較・分類の規則性が次第に理解できているようでした。
ベン図やマトリックス表は、日常の授業で頻繁に出てくるものではありません。しかし教材アプリを使って日常的に目にしていると、授業でベン図などが出てきたときに理解がスムーズに進み、学習にも前向きに取り組む様子が見られました。
3校が1つに統合された学校では「総合的な学習の時間」で「それぞれ昔の3校の学校の良さをさがそう」というテーマでグループ学習をしていました。「ポケタッチ」で学んでいた児童たちは、3つの「ベン図」を使って3校の特徴を分類しており、ベン図を「思考ツール」として使えるようになっていました。
「ポケタッチ」には、「表バトル」というマトリックス表の活用力を鍛える内容もあります。ここには、さらに高度な学習が盛り込まれています。表バトルの初歩的な問題は、行列の項目に対し、あてはまるキャラクターを1つずつセルに配置するもの。行列の項目を手掛かりにあてはめていけば正解できる簡単なものですが、難易度が上がれば、マトリックス表の各セルにあらかじめ配置されている複数のキャラクターの要素を勘案しながら行列の項目を考えるという初歩的な問題とは考え方が逆向きの問題が出題され始めます。
ある女子児童は「ポケタッチ」の表バトルの経験からヒントを得て、マトリックス表を使って動物と植物の酸素・二酸化炭素の出入りについてまとめていました。それを見た他の児童も、その手法を真似し始めました。
マトリックス表は様々な教科で使われますが、多くは「項目」が既に与えられている言わば受動的な学習です。しかし、ベン図やマトリックス表が事前に理解できていれば、それらを作ることに終始して力尽きるのではなく、その先の情報の読み取りや、それをもとにした議論に時間をかけることができます。マトリックス表を活用する力がついてくれば、理科の実験内容をもとに、どのような表を作ればまとめやすくなるのか、即ち「軸」や「課題」を自ら見つける、という学習の深まりにもつながります。
重要なことは、ベン図やマトリックス表にまとめることではなく、そこから何を読み取り、表現・説明できるのかということです。そういった学習の経験は、一生涯において知的な財産につながるのではないでしょうか。
「情報モラル教育」につながる仕掛けもあり、課題をクリアすると、ゲームマスターが「パスワードを教えて」「ゲームのコード番号を教えて」「一緒にとった写真をネットにアップしてもいいかな?」などと身近な問題に係わる問いかけをします。誤った選択をすると正しい行為についての解説が聞けるので、普段の自分の行動を見直す気づきにつながります。これらの質問は文部科学省の「情報モラル指導モデルカリキュラム」に準拠しており、ログイン時の学年選択により学齢に適合しています。
【2015年3月2日】