「平成25年度青少年のインターネット利用実態調査」(内閣府)によると、青少年の8割以上が、ゲーム機、タブレット端末、携帯音楽プレイヤーのいずれかを使用しており、そのいずれかの機器において、約4割がインターネットを利用している。
情報モラル教育の必要性が重要視される中、全国で展開されている研究会や公開研究授業などでも情報モラル教育の好事例が増えている。
その取り組みは小中学校、高等学校と学校種によって異なっており、企業との連携や教育委員会体制での取り組み、学校全体での取り組み、児童生徒の主体的な取り組みなど事例は多岐にわたっている。
低学年からの情報モラル教育の事例が増えているのも最新の傾向のひとつだ。情報モラル教育の最新事例を「JAET京都大会」分科会発表事例と、総務省「インターネットリテラシー・マナー等向上事例集」からピックアップする。(写真は事例集より)
相模原市では、職員室にコンテンツサーバを設置し、各教室にある50インチの大型モニタでコンテンツを利用できる環境だ。
情報モラル教育については、平成21年度からネットパトロールを開始して、市内小中学校のプロフやブログ、SNS等の監視を行っている。
しかしインターネットの匿名性から、誹謗中傷や個人情報の書き込みという問題は解決に至らず、学校での情報モラル教育の充実が求められていた。
そこで、平成23年に情報安全モラル推進検討会を立ち上げ、市独自の情報モラル教育カリキュラム「情報モラル『相模原プラン』」(小1〜中3までの9年間)を策定した。
内容は「心をたがやす」カリキュラムと「知識を身につける」カリキュラムの2つで、前者は主に道徳教育で各学年1時間、後者は学級指導などで各学年2時間行っている。
市の検討会ではさらに、「相模原プラン」を元に「情報モラルハンドブック」と「情報モラルハンドブック解説書」を作成して各校に配布。情報モラルハンドブックは、授業で活用できる読み物資料だ。「解説書」には、指導案、授業に役立つ教材の紹介、資料集などが収められおり、9年間のカリキュラムで系統的に指導できる。
各校職員室のコンテンツサーバには、授業パッケージを格納。「事例で学ぶNetモラル」(広島県教科用図書販売)の動画を使い、発問も順番に画面に出てくるように、全てを1つのフォルダにまとめてパッケージ化。情報モラル指導に不慣れでも指導できるようにした。
「心をたがやす」カリキュラムの実際の授業では、教材動画を使って「文字だけで伝える難しさ」「誤解の生じやすさ」について共通認識し、それについて生じるトラブルの可能性や回避方法などを考えていく。市では、どれくらいの児童がメールやスマホ等を使っているのかなど児童の実態によって、動画コンテンツの視聴する部分やワークシートの使用を決めるなど授業内容を変えるように指導している。
「知識を身につける」カリキュラムでは、携帯電話など通信機器の使い方、メール等コミュニケーション方法の種類を知り、危険やトラブルを回避するためのルールやマナーを知識として身に付ける内容など。
各校では、情報モラル週間や情報モラル月間を設定して、保護者に伝える機会を増やすことに努めている。
「ネットパトロール便り」を保護者にも提供し、講演会や懇談会でも情報提供を行っている。
今後の課題は、「心をたがやす」テーマをより心に響く内容とするための[藤場面の設定の検討と、児童の実態が日々変わることから、それに対応した内容の見直しだ。
小1:コンピュータを使う時の約束を守ろう
小2:友だちの作品に落書きをしないで
小3:このことばで相手に気持ちが伝わるかな?
小4:クラスのマーク"ピーチくん"
小5:情報の広がりについて考えよう
小6:インターネットには間違った情報も存在する
中1:気をつけて!それもチェーンメール
中2:女の子だと思っていたら
中3:無料(ただ)ほど高いものは…
宮崎県三股町では、低学年から情報モラル教育に取り組んでいる。
インターネットの活用やスマートフォンの利用について、児童はどこまで知っており、あるいは知らないのか。その傾向は毎年一律ではなく、予測しきれない面があった。
そこで三股町では、「ネットモラルけんてい」(広島県教科図書販売)を町内全ての学校で行い、児童の実態を把握。
重点的に指導すべき箇所を理解してから指導計画を立てた。さらに、学習前後でもネットモラルけんていを実施し、学習効果も測定している。
「ネットモラルけんてい」は、15分間程度の検定で、PCに触れたことがない児童でもすぐにできる。低学年指導の難しさとしてPCスキルのばらつきがあるが、数時間の補習で解決している。
今年度、三股西小の2年生にネットモラルけんていを行ったところ、1〜2年生の内容については4月当初の正答率80%が、「事例で学ぶNetモラル」を利用した重点的な指導により、9月には100%になった。
また、児童の家庭での実態を把握すると、3〜4年生の内容とされている学習を行う必要があることがわかった。
情報モラル教育で必要とされている内容は、年々低年齢化しているという。
2年生に行った3〜4年生の学習前後の比較では、4月当初は60点程度であった児童が、9月には80点を取ることができるようになったという。
原圭史教諭(三股西小学校)は、「低学年にも理解しやすい教材で、低学年からの情報モラル教育に成功した。自分で必要な教材を見つけて指導ができる教員もいるが、共通教材の活用で、全校的に安定した指導が可能になる」
指導のポイントについては「低学年という素直な時期に系統的な指導を行うこと。
指導の際には教員の感覚で指導するのではなく、発達段階に合わせること。また、先を見越した教育を常に意識していく必要がある」と報告した。
沖縄県内57高等学校の生徒代表者は3つの討議テーマ「ちゅらマナーハンドブックの活用法」「自校の抱える問題」「深夜はいかい防止に向けた取り組み」について事前に各学校で討議、本年7月の大会で班別に討議、全体意見等の取りまとめを行い、全員で宣言した。
当日の参加者は県内57校の140名。討議結果を反映して「高校生ちゅらマナーハンドブック」を作成し、県内の全高校へ配布。
配布されたハンドブックは、各学校で活用され、次年度の代表者会議へ反映される。
京都 青少年スマホ宣言を発表 |
京都府下の中学校高等学校(京都府立宮津高校、京都府立園部高校、京都府立鳥羽高校、京都府立乙訓高校、私立洛南高校、私立立命館宇治高校、舞鶴市立城南中学、京都府立園部高校附属中学、京都市立西院中学、八幡市立男山東中学、私立洛南高校附属中学、私立立命館宇治中学)は本年7月、スマホ時代の子どもを守る「ALL京都シンポジウム」を開催。中高生が主体となって、アンケート調査を行って企画、中高生が自ら考えた行動アピール「京都 青少年スマホ宣言」を発表した。
スマホアンケートに基づき、生徒が京都府下の中高生の携帯電話等の所持率やガラケーとスマホの利用実態の比較などを中・高校生がプレゼン。総括として、中高生による「京都 青少年スマホ宣言」を発表し、その発表を受けて大人による行動アピールを京都府知事、京都市長、京都府警察本部長が発表するという流れ。
京都府下の中高を巻き込み、生徒から大人に向けたメッセージを発する試みとなった。
セキュリティすごろくで情報安全に ついて学ぶ |
本年6月、弥富市立弥生小学校(愛知県)では小学校5・6年生の児童203名が、セキュろくと呼ばれるすごろくを使用してインターネットの脅威について学び、その後にビデオ教材でウイルスとはどのようなものかを学習。Web教材を使用して架空請求などを仮想体験し、その対策やPCだけでなくゲーム機やスマートフォンでも同様の事柄に注意が必要なこと、インターネットを安全に利用する方法などを学んだ。
実施事業者は日本電気とNPO法人イーパーツ。
■セキュリティすごろく「セキュろくver8」=情報セキュリティ初心者向けの内容。インターネット詐欺、ウィルス感染、情報漏洩、スマートフォントラブル、プライバシー侵害、著作権侵害などとその対策をケーススタディで学ぶことができる。6人で約30分。送料込み500円
詳細 www.eparts‐jp.org/project/2013/01/securoku130118.html
敦賀市立気比中学校(福井県)の保健委員会では、生徒間でのスマーフォン利用を巡るコミュニケーショントラブルの多発を問題視し、調査を行った。
調査内容は、校内でのスマーフォン等の情報ツールの所有状況と利用内容等だ。その結果、平日利用の5時間以上が約8%、休日利用の5時間以上が約29%であることがわかった。
保健委員会では、成長期における生徒たちの健康面(身体とネット依存)への影響が懸念されると考え、本年8月、気比中学校(生徒保健委員会)の生徒が講師を担当した研修を行った。
当日の参加者は、敦賀市内の中学校1〜3年生の生徒保健委員と教職員計49名。
研修では、同校でのスマートフォン利用の調査結果と考察について問題を提起。コミュニケーションアプリの校内での利用事例を取り上げて、その正しい利用や判断をテーマに、他校の中学参加者がグループ討議し、原因と対応策等を発表。ヒューマンコミュニケーションの大切さを訴えた。
保健委員会発の情報発信という切り口は新しい。養護教諭との連帯を含め、今後拡がりを見せそうだ。
【2014年12月8日】
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