文部科学省の研究開発指定(平成23〜25年)を受け、新教科「メディア・コミュニケーション科(以下、MC科)の教育課程の編成と学習プログラムの開発を進めてきた京都教育大学附属桃山小学校。紙・音・映像・情報通信ツールなどのメディアの特性を理解した上で媒体として活用することを共通事項とし、発達段階に応じた独自のカリキュラムを開発。情報社会を生き抜く力を育成するための授業を展開している。
グループ活動で詩に効果音をつけた(2年) |
発表者の主張に「支持」「非支持」を表明、議論を深める(6年) |
児童の絵はがきを撮影(下)してすぐに画面に提示(上)する(3年) |
MC科では、3つの基本方針「21世紀型情報活用能力の育成」「メディアとコミュニケーションを一体とした指導」「課題解決を主体とした指導」を設定している。
小学校で「情報をどのように扱うか」「情報を通してどのように考えるか」といった「情報教育」の中核を担う教科という位置付けで、タブレット端末などの情報機器の利活用を取り入れながら、メディアを通した情報のやりとりに重きを置いている。
主張の論拠を持つ
6年1組「桃山サミット」では、1つのグループが「戦争」に関する写真を配したプレゼンテーション資料を用い、自分達の主張を発表する。聞き手となる児童はタブレット端末を活用し、背景色で視覚化した「支持する(青)」「支持しない(白)」カードに、その理由と自分の考えを書き込む。電子黒板上に一覧表示されたカードから教員が選んだ意見を基に議論を深めていった。
プレゼンテーション資料には複数の写真が用いられている。それぞれの写真が表現しようとしている意図や、発表者が伝えようとしたことについて、グループやクラス全体で話し合う。自分の主張を伝えるための資料の在り方や、伝え方について考える根拠・論拠を探っていった。
効果音の違いを考える
2年1組「効果音を使って、想いや様子を伝えよう」では、あるグループの詩の音読に効果音をつけた場合とつけない場合を聞き比べ、その違いを考えた。その後、教員が作成した「ふさわしくない見本」を聞くことで詩の内容を効果的に伝えるための音の種類や数、大きさや場面について気づいた点を発表。それらを踏まえて、グループで詩の音読に効果音をつけて録音していった。児童はタブレット端末の音源だけでなく、筆箱やファスナーのギザギザを擦る音など身の回りの道具も使い、様々な工夫を盛り込みながら取り組んでいた。録音後は、前時までの効果音から変更した部分やその理由について説明した。
手作り絵はがきで思いを伝える
3年2組「はがきを送ろう」では、児童が各自で事前に作成してきた手作りの絵はがきの写真をスクリーンに映し、クラス全員から出た意見を自作に反映させていた。
情報化が進みメールなどで簡単に連絡が取り合えるが、手書きの絵はがきを作成し、相手に送ることで、はがきの内容と相手の心情を考慮した情報伝達を体験することが狙い。
児童は「文字をもっと大きくしたほうが、インパクトが強くなる」「使っている色が多すぎるので3〜4色に絞った方が良い」「文字数を少なくした方が分かりやすい」など様々な意見を出していた。
今後、これらの意見を反映させて、再度絵はがきを作成しなおす。
絵はがきは、赤外線通信で手軽にデータ送信できる「LBIR5100」(LB技研合同会社)を活用して大画面に投写していた。「LBIR」をタブレット端末に接続し、はがきを撮影して取り込み、転送する仕組み。3年2組では、日常的に「LBIR」を活用しており、児童のノートなどを撮影して大画面で共有し、議論の活性化につなげており、「考える」「話し合う」ことを意識的に展開している。
教科の狙いに沿う 授業をデザイン
これらの授業に共通しているのは「自分の考えや想いを相手に伝えるためのメディアの捉え方、使い方を考える」という教科の狙いが明確に存在し、そのためにICTを効果的に活用している点だ。教科であるからには「評価の観点」を設定している。目標地点が明らかだからこそ、ICT活用が目的化しない授業をデザインしていた。
新教科として開発された「MC科」は、これからの知識基盤社会を生き抜く上で必要とされる能力の育成に対する1つの形だ。公開授業の様子からも、子供達の「情報を収集する力」「批判的読解力」「自分の考えを構築し発信する力」など、情報活用能力の深まりにつながっている様子が見られた。
【2014年11月3日】
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