滋賀大学教育学部附属中学校では、思考と表現をつなぐ「判断」の有り様に着目した学習指導研究を進め、論理的思考力の育成を目指した思考ツールの活用などに全教科で取り組んでいる。8月30日に開催された公開授業「思考・判断・表現は『判断』が鍵〜思考ツール等を活用したゆさぶりのある授業〜」では、同校の充実したICT環境を活かした授業が展開された。
理科室のlCT環境は特に充実している |
すべての普通教室に電子黒板機能内蔵の短焦点プロジェクターを黒板上に固定設置。提示環境としてデジタルテレビとプロジェクターも天吊りで設置し、実物投影機もある。提示設置はリモコンで切り替えて利用。美術室はホワイトボードを使用。 |
同校の教育課程の特徴は、総合的な学習の時間で、探究的な学習「BIWAKO TIME」(以下、BT)や創造的な学習「COMMUNICATION TIME」(以下、CT)を展開し、さらに、年35時間「情報の時間」を設定して教科横断的に言語活動の充実を図っている点だ。「BT」では、滋賀県の郷土や琵琶湖を対象に仮説を立てて研究、検証するなどで思考力を深めていく。「CT」ではコミュニケーションを深めながら学級劇を創り上げ、創造的思考力を育む。「情報の時間」は、専門教科的内容と学級活動的内容の2本柱で、教科横断的に取り組む。
今年度は、「判断」に着目した論理的思考力の育成を目指して、思考ツールを活用する場面を全教科で拡充した。
思考ツールとワークシートとの違いは「自分の考え」がまだ定まっていない段階で思考の要素を整理できる点。考えの見える化(=可視化)を図り「知識の整理」ができる。論点を明確にできるので、話し合いの焦点化、活性化にもつながる。また、要素を「編集」することで、論理的な文章の構築にもつながる。
思考ツールを「選ぶ」「作る」
1年国語では、星の形をした「スターチャート」と付箋を活用して「滋賀大附属中のMVPを考える」をテーマに話し合っていた。「スターチャート」は5つの主張の整理に活用。
この「スターチャート」は、同校のオリジナルツール。昨年度の3年生が「思考ツールを考える」活動に取り組んだ際に優秀賞を獲得したもの。3年生になると国語科では、その日の学習テーマを提示した上で思考ツールは各自が選択するという試みも行っている。日頃から思考ツールを各自が選択・活用しているので「板書をそのままノートに写す」のではなく、「人の話を聞いてメモを取る」活動が自然に展開されている。
授業後の研究協議会では、同じ学校で同じ活動に取り組む生徒において「共通点」を見つける活動には発見や驚きが見られにくいこと、むしろユニークな視点に焦点を当てる活動が重要であるという意見が出た。
「マトリックス」と「Yチャート」活用
2年理科の課題は「類人猿のうち、ヒトに最も近い進化を遂げた脳を持つものはどれか」。
授業では「脳の容積を比較する」実験を行った。教科書にはない実験だ。
思考ツールは「マトリックス」(表)と「Yチャート」を活用。Yチャートは「視点」「気づき」「言えること」の3つに分け「考察Yチャート」とした。実験を通して、進化は「脳の大きさのみで判断できない」こと、「体重との割合で考えるべきである」という気づきを生徒に促す。
理科室の充実した教室環境の活用にも工夫が見られる。分割された黒板には、それぞれの箇所に「今日の課題」「自分の考え」「結果」「科学用語」「分かったこと」「まとめ」を記載して、授業の終わりに振り返りやすいように構成。教室上方2箇所に固定設置されたテレビ画面には、グループごとに実験を行う際に重要なポイントを提示。頭骨の標本(レプリカ)、生徒のノートに記載された観察結果など、提示しながら説明する場合にはプロジェクターと実物投影機やタブレット端末を、デジタル教科書の図や写真に書き込みながら提示したい場合は電子黒板を活用して提示している。タブレット端末は機動性があることから、実験をしている生徒の様子を見せたり記録したりする。タブレット端末は理科室備品として10台あり、グループごとに記録・転送、グループ発表などで活用されている。
また、頭骨の標本の一部には、3Dスキャナー・3Dプリンターで作製された造形物が先進的に活用されていた。
三角ロジックで必要要素を分析
3年「情報」の時間では、「論理的なプレゼンテーション力」を高める。三角ロジックを使って例文の要素を分析、ピラミッドストラクチャー(=PS、思考ツールの1つ)で同校の良さを論理的に伝えるプレゼンテーション「来年度の新入生に同校の良さをプレゼンする」を検討。三角ロジックはチェックに、PSは論理の構築に活用している。出来上がったプレゼンは再度三角ロジックでお互いにチェックし合い、論理力の向上を目指す。
「ナンバーズ」でヒストグラム学習
2年「情報」の時間は、データベースを操作しながらその活用方法を理解する内容。ファストフード店のメニューから、昼食として食べたい内容をピックアップし、その総カロリーを計算。黒板には、電子黒板機能内蔵プロジェクターで映された表の枠が提示されており、その中に1人ひとり自分の選んだメニューの総カロリーを記入していく。ヒストグラムについては、全員が数値を記入した後にiPadのアプリ「ナンバーズ」を活用。授業者はその画面をプロジェクターと連携、スクリーンに投写して説明していた。生徒は2人に1台でiPadを使い、度数分布表からヒストグラムを作成。「ファストフード店で昼食を食べるときのエネルギー量」について検証した。
思考ツールでスキルを鍛える
授業後の講演で黒上晴夫教授(関西大学)は、「『思考』は高度な活動。考えるためには制約が必要であり、その制約が適切であると、期待できる思考につながる。思考ツールは、考えさせるための足場を作るためもの。思考ツールよって整理した素材を文字化するプロセスを教員が見せることで、生徒の文章の書き方が変わってくる」とアドバイスした。思考スキルは鍛えることができる。思考スキルを鍛えるための道具が「思考ツール」だ。「思考ツール」を用いて分析・整理していくうちに生徒は、思考ツールを用いなくてもテキスト上で分析・整理してまとめたり発信したり新しい考えにたどりついたりする。それが思考ツール活用のゴールと言える。
田村学教科調査官(文部科学省国立教育政策研究所)は、「中学校において全教科で取り組んでいることに意味があり価値がある。思考ツールを活用した授業について、生徒は『学びがある』『楽しい』『頭を使う』と評価していた。生徒はその価値や効果を既に知っている」と評価した。
【2014年10月6日】
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