文教大学附属教育研究所(埼玉県越谷市)は主要5教科を中心に初等中等教育の教科書を世界から収集しており、既に15か国の教科書が集まった。毎年11月に開催される同学の学校祭では「世界の教科書展」を行っている。今年の企画は「ブラジルの教科書」で、ブラジルの教科書で特徴的なページを拡大して翻訳、展示しており、ブラジルの教科書に表現されている日本について知ることができる。
ブラジルの教科書の特徴的なページを翻訳してパネル展示。「漫画を読みなさい。そして先生の読み方を聞きなさい」「ストーリーに従って空欄のセリフをうめなさい」小学校1年生、公用語の教科書だ |
ブラジルの教科書が語る「日本」は興味深い。小学校9年生「歴史〜社会・市民」には日本の戦争の様子が記載されている |
今回の企画展のメインはブラジル・サンパウロの出版社で発行された教科書。この地区は日系人が多く活躍しているため、教科書にも日系人の記述が多い。特にその傾向は地理・歴史の教科書に多く見られるようだ。
小学校3年生「地理・歴史」では「オリガミ」「凧」「はし」について触れられている。小学校4年「歴史・地理」の教科書には「19世紀、日本は混とんとした状況にあり(中略)数千の日本人移民がやってきた。(中略)特に日本人は、外国人であると同時に、ブラジルに住む他のヨーロッパ人とは歴史的・文化的背景に共通項がなかった」と記述、9年生の教科書には「アジア人、特に日本人が移民として入国したことは画期的なこと」「日本人はブラジル農業の多様化に大きく貢献した」とある。
日本人にとって衝撃的なのは9年生の教科書にある、第二次世界大戦についての記述だろう。「世界を驚かせた自爆パイロット(カミカゼ)」、そして「自爆任務に発つ前のパイロットたちの写真」(写真)が掲載されており、教科書は「あなたは日本が第二次世界大戦中に二度も原爆を投下されたことを知っていますか?あなたは、それについてどこかでルポルタージュ、写真、または映画を見たことはありますか?」と問いかけている。
多文化国家としてのメッセージも色濃く表れている。1988年のブラジル連邦共和国憲法改正以来、多文化主義が示され、先住民や奴隷の子孫も含めてブラジル国民としての意識化を図る教育が行われている。教科書の「先住民の子どもの遊びからあなたが学ぶことができるものがたくさんあります」というくだりもその表れ。小学校3年生「歴史・地理」の教科書では、性別や国により習慣と伝統の違いを明確にし、意識化を図っている。
教育研究所の今田晃一所長・文教大学教授は、「各国とも、愛を込めて教科書を作っていることが良く分かり、それぞれ素晴らしい。また、日本の教科書の図版や紙、印刷の美しさを改めて抜きん出ていると感じる」と話す。今後も教育研究所として継続して世界の教科書を収集していく考えだ。
■ブラジルの教科書
ブラジル教育文化省の外郭団体の委員が選定。主要教科の教科書は無償配布だが毎年度末に回収されて再利用されるシステム(私立は有料で個人所有できる)。教科書は学校ごとに選定。義務教育は前期4年、後期5年の9年制。公用語はポルトガル語。前期4年間は、公用語、算数、芸術、科学、歴史と地理、体育。後期5年間は、公用語、数学、芸術、科学、歴史、地理、体育、英語、スペイン語。選択科目に「社会参加、音楽、地域社会、企画・計画」ほかがあり、日本でいう総合的な学習の内容が含まれている。
【2013年12月2日】
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