“反転授業”で学習課題を解決する

「反転授業」という授業手法が注目されている。これは、授業や講義を予習とし、実際の授業では応用的な活動を行うという方法であり、究極の予習とも言える。児童全員にタブレット端末を配布する武雄市では、タブレット端末を活用して家庭と連携し、「反転授業」の手法を取り入れる方針だ。近畿大学附属高等学校では、既に今年4月から反転授業を実施している。また、昨年度秋、算数で反転授業を試みた富谷町立東向陽台小学校・佐藤靖泰教諭は、今年度も反転授業を予定している。予備校でも反転授業の試みが増えている。

英語・数学で反転授業―近畿大学付属高等学校

全新入生がiPadを購入 学力がつくほど授業は変わる

 近畿大学附属高等学校(岡崎忠秀校長・東大阪市)では今年度から新入生1048名にiPadの購入を義務付け、デジタル教科書(英語・理科)も導入。さらに独自のポータルサイト「サイバーキャンパス」を構築し、自学自習のサポートや宿題・提出物管理などもできるようにしている。

 同校の中西洋介教諭は「コミュニケーション英語1」において、芝池宗克教諭は「数学A」「数学1」ともに反転授業を取り入れており、それぞれ「サイバーキャンパス」に予習のための講義をアップ。生徒は事前にそれを視聴して授業に臨む。それにより一斉講義にかける時間が短くなり、授業内容が変化しているという。この2教科においてiPadは主に自宅学習の強化に活用されているようだ。

【英語】教科書を3冊終える

英語・数学で反転授業
英語・数学で反転授業

▲生徒は授業ビデオ(下)を事前に
視聴。授業はデジタル教科書も
使ってオールイングリッシュで。

英語・数学で反転授業
英語・数学で反転授業

▲自分の担当問題の説明を聞き(写真上)
理解してからグループに戻って
皆に説明する(写真下)

 英語科の中西教諭は、「反転授業は英語で授業をし、英語を使用する時間を増やすことができる枠組み」であると話す。数年前から授業の解説ビデオを作成して補習などに活用していたが、家庭でのネット環境が整い、学校でもeラーニング形式の授業を提供できるようになったことから、サイバーキャンパスに講義ビデオをアップして授業前に視聴できるようにし、従来授業のメインであった日本語訳と解説は授業前にすませる「反転授業」を取り入れた。授業中はオールイングリッシュでインプットを多くし、デジタル教科書を使って何度も発音したり、内容に関わるビデオや話題を英語で視聴する時間を充実させている。反転授業によって10月中には教科書が一冊終わる予定だという。

  教科書が終わった後は、復習をしながら他社の教科書に取り組む。目標は3社の教科書の終了だ。これまでは様々な教材に取り組んでいたが、新課程における新しい教科書の質の高さから、今年度から教科書中心の取り組みに切り替えた。現在取り組んでいるのは啓林館、その後は桐原書店、最後に東京書籍あるいは三省堂の教科書を予定。1回目はインプット中心に文法を踏まえて英文をおさえ、2回目以降は協働的な学びの手法も取り入れ、アウトプット活動を強化していく考えだ。「同じ学習指導要領に則った教科書に複数取り組むことは、その段階の生徒に必要な能力をスパイラルで身につけさせるとともに応用力をつけることにも役に立つ。各社の特徴を活かしながら上手く使い分けたい」と話す。

【数学】ジグソー法にも挑戦

数学の芝池教諭は本年4月から反転授業の手法を取り入れ、生徒のニーズに応じて1時間の授業内で「個別学習」「協働学習」「一斉学習」を展開。しかし1学期間継続する中で「教える生徒」が固定化するなど「協働学習」における課題が見えてきたという。そこで2学期は手法を変更。この日は初めてジグソー法(※)を取り入れた。

  取り組む内容は「数学A」図形の性質における証明問題だ。演習プリントから4題、押さえておきたい問題を選択して問題ごとに担当グループを決める。各グループはその問題を完璧に解説できるように準備。授業では担当グループから各1名の代表者・計4名が板書して同時に説明(写真上)。その説明を聞くのは、各グループから集まったそれぞれの問題の担当生徒だ。代表者は、集まっている生徒が理解できているのかどうか、その表情に注目しながら丁寧に説明する。説明を聞く生徒も、自分のグループに戻って皆に説明するという役割があるため、真剣だ。

  グループに戻ったら、自分の担当問題をメンバーに説明(写真下)。全4題を終え皆が納得したら、個人でプリントに取り組み定着させていく。生徒はこの方法について「ちょっとした質問でもすぐに聞くことができてわかりやすい」と話す。

  芝池教諭は「ジグソー法の手法で言語活動を強化したことで、これまで教える側に立つことのなかった生徒が意識を持って課題に取り組むなど積極的な姿勢に変わった。このような方法はこれまでの学習計画だと時間がかかりすぎて難しかったが、反転授業を取り入れることで、授業の中で総合的な力を育むことができる可能性が高まる」と話す。

反転授業は予習を 「強化」するもの

  反転授業では予習が必須になる。芝池教諭は「反転授業は究極の予習の形。反転授業で先取り講義を提供すると、教員は授業で何をすれば良いのかと聞かれることがあるが、同じ講義を繰り返すことも1つの方法。それにより理解できる生徒の数が増える、理解できる時間が短縮するなどの効果はあるはず。そこで生まれた時間を使って協働的な学習を取り組んでも良いし、さらに高度な問題に取り組んでも良い。個別指導もできる」。

  「教科書を事前に読んで分からないことを明確にする」ことが「予習」であり、その予習をより強化するものが「反転授業」であると考えれば、もっと気軽に取り組むことができそうだ。

録画録音ツールで講義ビデオを作成

  反転授業において課題となるのが「事前の講義ビデオの作成」だ。中西教諭は録画録音ツール「Camtasia Studio」、ペンタブレット、マイクがそろえば「今日からでも作成できる」という。

  講義ビデオを視聴してこない生徒については、数学では個別に対応、英語は「言語学習は曖昧なところを耐えつつスパイラル的な方法で取り組んでいく」という考えから、今のところ特に対応はせずに取り組んでいる。「1クール目はインプット中心なので、わからなくなれば自分でまとめてビデオを視聴できる。2クール目からはアウトプットに移行することから、事前視聴の必然性を生徒がより強く感じてくるはず。学力がつくほど授業展開は変わる」と話す。

※ジグソー法=意図的に学習者の知識に差異を与え、互いに教え合う中で協働的な学びを深める手法

【2013年10月7日】

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