『合理的配慮』にICTを ―DO-IT Japanで事例を共有

 DO‐IT Japanの夏期プログラムが8月4日〜7日、都内で開催された。DO‐IT Japanは、障がいや病気による困難を抱える小中高校生、高卒者、大学生の進学や就労といった本人の希望の実現をサポートすることで、未来の社会のリーダーとなる人材の育成を目指す取り組みだ。大学進学を目指している障がいや病気による困難を抱える高校生、高卒者を対象としたプログラムと小中学生を対象としたプログラムが行われ、ICT機器の効果的な活用方法や、大学の講義体験、自分の困難を上手に説明する方法などを実際に体験した。最終日の8月7日には、東京・目黒区の東京大学先端科学技術センターで、一般公開シンポジウムが開かれ、合理的配慮の具体的な取り組みが紹介された。

■入試の小論文で ワープロ機能を利用

DO−IT Japan

ICTで困難を克服する

  5日には日本マイクロソフト本社で、鳥取大学地域政策学科、斉藤真拓さんと近藤武夫東京大学先端科学研究センター准教授が取材に応じた。

  斉藤さんは、書字障がいがあり、手書きで文章を書くと考えていることを上手く表現することができず、小学生低学年レベルの文章しか書くことができないという。しかし、PCを利用して文章を書くと考えを文章にすることができ、小論文なども書ける。特別支援学校の高等部では、自筆でノートを取る代わりに、PCを使用していた。

  斉藤さんの母親がDO‐IT Japanのことを知り、特別支援学校高等部卒業後の2010年からプログラムに参加して生活面のトレーニングを受けた。2012年に鳥取大学地域政策学科のAO入試を受験、2次試験の論文でPCの利用が認められた。

  近藤准教授によると、おそらく大学入試の論文試験でPCの利用が発達障がいを持つ受験生に認められたのは、斉藤さんのケースが初めてだという。医師の診断書に、書字障がいの存在と、PCを使用した時としない時の違いが分かるように書いてもらい、「PCを使えば障がいに関係なく考えていることをきちんと表現することができる」と表現してもらった。本人が自分の状況を大学に説明できるようになることもアドバイスしたという。その結果、大学は、試験では論文を書くことで受験者の考え方を問うているのであり、文字は手書きである必要は必ずしもないと判断。「もしもDO‐IT Japanがなかったならば、卒後には作業所に通っていたと思う」と斎藤さんは話す。

■小学校から支援を

  最終日のシンポジウムでは合理的配慮の具体的な取り組みが紹介された。

  DO‐IT Japanディレクターである中邑賢龍教授は、「ICT機器を活用し、障がいのある子どもを支援する研究を続けてきたが、一向に教育現場での状況が改善されないことから、ICT機器の使用ユーザーを増やし、効果を証明していこうと2007年から活動を開始した。しかし、小学校や中学校の段階で挫折している子どもが多い。早い段階から壁を打ち破る必要があると考え、小中学生プログラムを開始した」と語る。

■@Padで板書を撮影

  公立小学校に通う、文字の読み書きが困難な5年生は、授業での@Padの使用を認めてもらい、ノート代わりに使用。黒板の文字をノートに書き写すだけで精一杯だったのが、@Padで黒板の文字を撮影することで、先生の話を聞く余裕が生まれ、授業に参加できるようになった。

  知的な遅れは無く、授業の内容は理解できるが、読むことが困難な子、書くことが困難な子などはテストで解答が書けずに苦しんでいる場合も多い。ICT機器を用いれば解答することができるが、学校から機器を使うための根拠を求められるなど、持ち込みを認めてもらうまでには壁を越える必要ある。

■平均点が30点アップ

  読み書きに困難があるという、高校2年生のKさんが最初に相談に訪れたのは小学5年生の時。中学での定期試験は、問題文の漢字が読めずに解答できなかったり、解答を漢字で書けないため不正解とされていたという。読みはPCによる音声読み上げまたは代読、書きはワープロを使った解答または代筆を認めるよう学校に働きかけ、代読による試験が認められて理科と社会の平均点が30点以上も上がった。さらに高校入試の際に代読で受けられるように県教委に申請。しかし、県教委からの回答は、問題の代読は認められなかった。そこでDo‐IT Japanが代読の必要性を説明し、再度検討してもらい、代読での受験が認められたという。

【2013年9月2日】

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