【”学び”にイノベーションを】TV会議で英語学習―早稲田大学留学生と宮古島市立下地中学校

ノンネイティブ英語と接するメリット寄稿:尚美学園大学 小泉力一 教授

 宮古島市立下地中学校(沖縄県・宮國勝也校長)は、平成23年度から総務省「フューチャースクール推進事業」に参加している。各学年1〜2クラスから成る小規模校で、全校生徒数は約110名。同校では、さまざまな教科でオンライン・コミュニケーションを利用した学習が進められており、同校のブログに逐次紹介される。6月に訪問した際に、2年生英語科の「Gestures(いろいろなジェスチャー)」という単元の授業(担当=グリーン真希子教諭)を見せていただいた。

  授業は、「Skype」を利用して、東京の早稲田大学の研究室(三友仁志教授)と接続し、同大に通う留学生と英語によるオンライン・コミュニケーションにチャレンジするというもの。参加した留学生はいずれも英語を母国語としていないとこのことで、英語初学の中学生の状況をよく理解できているようだ。

生徒も留学生も真剣勝負!

TV会議
留学生は2人1チームで対応。
母国語ではない英語で、
生徒にどれだけ伝えられるか真剣に取り組む

  コミュニケーションが始まると、生徒は自分の英語が伝わらないと、知っている単語を並べてみたり、身振り手振りを入れたりして懸命に伝えようとする。かたや、2人1組で対応する留学生たちはそれを真剣に見つめながら、時に留学生同士で話し合いながら生徒の意図を理解しようと努める。その誠意が画面を通して伝わってくるのか、生徒はますます伝えることに夢中になる。街中で通りすがりの観光客に道を尋ねられたのとは状況が異なるのだ。このような相乗効果は、通り一遍の一斉学習では得られない。

  留学生は3チームに分かれ、それぞれ別の中学生チームと向き合い、"お国"で使う「ジェスチャー」について紹介し合う。数字を数えるときのジェスチャー、いただきますやごちそうさまのジェスチャーなど、国によって微妙に異なり、それを伝え合うことで国や文化による違いを実感する。留学生への質問は事前に生徒が用意し、決められたインタービュアの生徒以外は、インタビューの内容を記録する係にまわる。

  チーム内にはいくつかのグループが作られ、インタビューがリレーされていく。この間、教員はあまり口を出すことはなく、中学生はグループで協力しながらコミュニケーションを成立させようとする。時に、インタービュアの生徒に、記録係の生徒が助け船を出す場面などもある。

  よく観察していると、ある程度理解できている生徒と、そうではない生徒が見えてくる。力のある子は伸ばし、そうでない子は基礎力をつけさせる必要があると感じた。授業後の振り返りの会で、今後の実践ではレベルわけしたチームを作ることを提案した。そうすることで、すべての生徒が実力に応じた自信を持つことができると考えたからである。

ICTが可能にする 新しい学習環境

TV会議システム
生徒も、身振り手振りで必死に伝
うとする
TV会議システム
前の打ち合わせばグループ内で
入念に行う

  TV会議システムを利用した交流学習は決して目新しいものではない。遠隔にある学校の間で、教室をつないで情報や考え方を共有する試みは広く行われてきた。ただ、実施にあたってはある程度の準備と労力が必要で、気軽に行えるというものではなかった。

  ところが、高速回線が身近になり、ツールも使いやすくなり、今回のような授業が気軽に実施できるようになった。

  今回はいずれのタブレット端末も無線LANを利用して接続していたが、映像の質は決して悪くはなかった。

  同校のリーダー役である座間味浩二教諭に確認したところ、「フューチャースクールに指定されたのを機に、下地中学校には高速のインターネット回線が敷設されている。端末を有線LANでインターネットに接続すれば、さらに多くのチームで同時ディスカッションができる」という。

  今回の実践で学ぶことは、ICTは目的としてではなく、あくまでも"道具"として使うということだ。

  彼らはこの授業において、タブレット端末やインターネットの便利さを意識することなく、目の前に海外の人が現れ、英語のみのコミュニケーションを強いられるという状況を素直に受け入れ、時間が経つのも忘れて、持っている知識と技能をフルに活用してコミュニケーションしようとしていた。

  この実践で見るように、ICTは今後ますます新たな学習環境作りに活用されていくのだと予想される。タブレット端末も、いずれは彼らのポケットに潜むスマートフォンに取って代わられるのかもしれない。

【2013年9月2日】

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