参議院議員・元文部科学副大臣の鈴木寛氏は「日本の経済成長率は人口増加率とともに推移している。しかし2011年現在日本の人口は世界10位で今後の減少傾向も明らか。これまでのモデルでは成長率は回復しない」と指摘する。今後、日本はどのような人「財」を育むことを目的に考えるべきかについて講演した。
(NewEducationExpoより)
「日本」「東京」は「クリエイティブ」
「今、日本の克服すべき課題ばかりが報道されているが、正しい見方とはいえない面も多い。日本が海外に評価されている点を知り、今後進むべき道を考えるべき」と、海外で評価されている日本について説明した。
アドビシステムズ社が2012年に発表した調査(Adobe State of Createグローバルベンチマーク)によると、日本は最もクリエイティブな国であり、最もクリエイティブな都市は東京であった。
この調査で興味深い点はいくつかある。
1つは、「日本以外の各国では自国がクリエイティブであると考えている」という点だ。英、独、仏の回答者は自国とその都市が日本の次にクリエイティブであると考えている。各国の考えているクリエイティブな国の上位に日本が占める割合が多く、その結果日本は「最もクリエイティブ」という評価になった。
それに対して、自らを「クリエイティブ」と考えている日本人は19%と、ダントツの最下位であった。
クリエイティビティが経済成長のカギになると考えている人も日本は最低(76%)だ。
なお本調査において、回答者の半数以上は自らの教育システムにおいてクリエイティビティが抑圧されていると感じている。また、多くはクリエイティビティが教育システムに必要だと考えている点も興味深い(対象国平均52%、米国では70%)。
■「日本」は最も「理想的」に成長
もうひとつ興味深い調査結果が「IWR(=Inclusive Wealth Report)」2012だ。IWRによると、日本がこの18年間で最も理想的なバランスで成長を遂げている。
IWIは、生産資本・人的資本・自然資本から、各国の包括的な富と持続可能な成長の正確な状態を把握するために考案された新しい指標。これまでのGDPやHDI(人間開発指数)を超えるものとされている。
国連大学などではIWIに基づき、世界の人口の半分、世界のGDPの4分の3をカバーする20か国を調査、2008年までの19年間を評価し、2012年6月に「IWR」を発表した。
それによると、日本は世界2位(米国118兆ドル、日本55兆ドル、中国20兆ドル)。さらに、人的・自然・生産資本いずれも成長させたのは、20か国中日本のみであり、「最もバランス良く成長している」と分析することができる。
■ノーベル賞受賞者 日本は世界2位
ノーベル賞の受賞者数を過去10年間で見ると日本は、イギリスと並び世界第2位となる。ちなみに米国が1位で39人、日本とイギリスは2位で8人(ノーベル賞設立以来で見ると日本の自然科学系のノーベル賞受賞者数は世界第7位)(※出典)。
大学世界ランキング(Times Higher Education「World University Rankings」)2011の「東京大学30位」「京都大学52位」という結果については、評価の指標の1つ「国際化」が群を抜いて低いことが原因であると指摘。評価観点は「教育」「国際化」「産学連携」「研究力」「論文引用」だが、「国際化」においては東大23%、京都大学21・1%と圧倒的に低いのだ。その一方、「教育」力では上位10位に入るレベル。特に物理学、化学、生物学、免疫学などの分野では「論文引用」数は世界でも上位だ。留学生や研究者の海外への送り出しや受け入れなど大学のグローバル化を進めることで、この順位は大きく変わるとした。
■人文・社会学系の見直しが必要
これらの調査結果から鈴木氏は「当事者として冷静に強みと課題を分析し、戦略を構築、具現化できる日本国家・国民になる必要がある」という。
国として力を入れている科学技術人材育成は改善を見せている。国際科学オリンピックの参加者数や成績は伸び、高校生や大学生が切磋琢磨する場として「科学の甲子園」や「サイエンス・インカレ」を創設、裾野の拡大に務めている。
課題は社会系・人文学系教育の重要性の再認識と強化・立て直しにあるという。先の大学世界ランキングでも「人文科学系の学部を除けば日本の大学はもっと上位にランクインできた」と指摘するほど深刻だ。
先進国は大量生産型の成長経済から、高付加価値型の製造業・サービス業中心の成熟社会へと移行している。日本において20〜30代の産業別就業者数で現在伸びている産業は、医療・福祉、教育・学習支援業、不動産業・物品賃貸業などだ。イノベーション人材、国際人材、ケアサービス(医療、介護、保育学)人材の需要は高く、この分野の大学を中心とした高等教育修了者は不足しており、大学教育レベルの学生をさらに増やしていくべきであるという。ただし、進学率を上げるだけでは問題は解決しない。社会に出て役立つ教育内容の提供がこれまで以上に必要だ。
■今後必要とされる 人「財」を育む
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鈴木氏は「今後必要とされる人財像」を3つ挙げた。
1つは、人類に新たな価値を創造するチームを担う人財。次に、日本で創造した価値を磨き、諸外国の人とコラボレーションして広げていくことができる人財。3つ目は、世代や立場を越えてコミュニケーションできる人財だ。
各分野において「分厚い裾野」を育て、イノベーティブな人財を引き上げるために、「高等教育では、学生生活を通じて社会と関わり、理解を深め、基礎力・応用力、学力を徹底的に鍛え、具体的な実社会にアプローチすることを支援すべき。論理的文章力、わかりやすく説明する力、外国人とのコミュニケーション力をさらにテコ入れしていくこと、実業界からの支援を受け、チームを組んで特定の課題に取り組む経験、理論に加えて実社会とのつながりを意識した教育を重視することが必要」
そのためには高校教育・大学入試・大学教育改革を一体的に進め、高等教育の質的転換や大学の国際展開を図る必要がある。
入試は、記述式・論文・「使える英語」測定中心とすること。また、書を読み文章を書くこととともに師や友との議論を通じた知的経験・鍛錬等の充実を意識して図っていくことなどだ。
■特別支援教育の強化・支援を
人財の観点から見ると、義務教育修了段階の子どもたちは「宝の山」だという。
「OECDのPISAショック(2003、06年)などを受け、子どもたちの学習時間は増加している」と指摘。
「授業以外に平日3時間以上勉強する中学校3年生は、4・6%(2001年)から10・3%(2010年)に増えた。また、人類に新たな価値を創造する可能性の高い『人財』(PISAレベル5以上)層は、1位アメリカに次いで日本は2位。日本の問題は、レベル1以下の層の厚さ」
この問題を解決するには、発達障がい教育の支援・強化が必要と指摘。その方法の1つとして、コミュニケーション教育やICTによる個別学習、協働学習など教育の情報化を加速していく必要があると述べた。
(※)文部科学省「科学技術要覧平成22年度」などをもとに鈴木氏が作成
【2013年7月1日】
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