【デジタル教科書】TV2000台を電子黒板化 「デジタル教科書」を全小・中学校に整備

過去最大の教育予算で現場のニーズに応える

■岐阜市教育委員会・教育長 早川三根夫氏

岐阜市教育委員会・教育長 早川三根夫氏 岐阜市教育委員会は平成25年度予算で、市内すべての小中学校に導入されている約2000台のデジタルTVを電子黒板化し、小中学校のデジタル教科書国語などの5教科について全学年整備する。大規模整備の経緯と目的、平成25年度の岐阜市の教育施策について岐阜市教育委員会・早川三根夫教育長に聞いた。

  教育こそが国の存亡を左右する礎である、という市長の信念のもと、平成25年度、岐阜市では市全体の12・8%にあたる196億円を教育予算として確保した。金額・構成比とも過去最大の予算額だ。

  岐阜市では「教育立市」を目指し「学力向上ぎふプラン」を実施しており、ICTを活用した「わかる・できる授業」の実践に取り組む。

デジタル教科書

全国学力調査によると
岐阜市の小・中学生は「活用力」が高い

  具体的な整備内容は、既に導入済のデジタルTVに外付け式ユニットを取り付けることによって電子黒板化し、デジタル教科書(小学校=国語、算数、理科、社会)(中学校=国語、数学、理科、社会、英語)を全学年に整備する。

  本市では平成21年度のスクール・ニューディール政策時、デジタルTVを全教室(普通教室及び特別教室)、電子黒板を全校各1台、書画カメラをTV及び電子黒板とセットで整備した。また、デジタル教科書・教材は、小学校(国語、算数、理科、社会、保健体育)及び中学校(国語、数学、理科、社会、英語、家庭科)に整備、ICTの授業活用を進めていた。

  ところが平成22年の新学習指導要領開始に伴い教科書が改訂された折り、デジタル教科書更新のための予算が確保できなかったという。この年、中には学校予算でデジタル教科書の整備を行う学校もあったものの一部に過ぎず、「来年度はデジタル教科書の整備を」という声が多く教育委員会に届いた。

  そこで、「現場で求められるものを導入する」という考えのもと、予算確保を視野にフューチャースクールを始めとする実証研究校などを視察するなど情報収集も行った。中でも衝撃を受けたのは、「現在小学生の65%が今はまだ存在しない職業につく」(※2011年時米国の小学生を想定)という米デューク大学キャシー・デビッドソン氏による指摘だ。「現在ある職業ですら10年前には存在していないものが多い。何が起こっても生き抜く力を可能な限りバランス良く身に付けさせるために行政は、あらゆる可能性にチャレンジする必要があると確信した」と話す。

  ICT活用の導入は岐阜市の目指す「わかる・できる授業づくり」に役立つ。また、「一斉整備により効果が増大する」という考えのもと、今期は一斉整備に踏み切った。結果、中核市の教育予算平均が低下している中、金額・構成比とも教育費は増加、過去最大の予算額を確保するに至ったという。

岐阜市型教育で 生きる力を育む

学習指導用マニュアル  岐阜市では「学力向上ぎふプラン」に基づき「わかる・できる授業づくり」「問題解決学習」に取り組んでいる。その一つが、平成14年度から作成されている、岐阜市独自の学習指導用マニュアルだ。

  授業の質を高めることを目的に、小・中学校の学習指導要領改訂時に作成しており、ICT活用のポイントについても網羅している。平成23年度の小学校の指導要領全面実施時には小学校版をDVDで作成、検証を重ねて変更を加え、最終版として24年度に冊子として印刷した。一冊3センチ程度もある分厚いものだ(右)。現在中学校版の改訂に着手している。

  マニュアルでは、望ましい学習習慣など「学ぶ姿勢作り」にも力を入れている。また、通常の授業だけではなく、それぞれの行事についても、それを通してどんな力を付けるべきか目的を明確にし、常に意識化できるようにしている。「例えば生徒会活動は、皆で力を合わせればこんなにすごいことがやり遂げられるのだ、という体験を提供できる、いわばベンチャー精神養成の良い場。あらゆる機会を学びの場と捉え、子どもたちの問題解決能力や生きる力を育みたい」。

  また、「岐阜市型STEM教育推進事業」にも着手。理科教員OBなどを中心に実習助手などを採用して全47校に派遣し、実験を集中して担当することでリアルな体験を強化、STEM(=science, technology,engineering, and mathematics)教育を推進する。

  また、地域に開かれ、地域に支えられた学校づくりを目指す「岐阜市型コミュニティ・スクール」にも取り組んでいる。小中学校・特別支援学校において、これまでの8校に加え、今年度は新たに14校に導入し、地域人材の教育力を活かした学校運営を目指す。今後はコミュニティの力とICTの融合でより柔軟な教育の場を提供できると考えている。

「活用力」で好成績

  これら岐阜市の教育方針は、学力調査結果にも表れている。

  昨年度の全国学力・学習状況調査の分析によると、岐阜市の小中学生は、国語と算数・数学において、A問題よりもB問題の成績が極めて高いという結果が出た。これについて教育長は、「問題解決学習に長年取り組んできた成果では」と述べる。

 らに、小学校よりも中学校のほうが平均点は高く、理科も含め、学力が中学校でさらに伸びていることがわかった。今年度の電子黒板とデジタル教科書の全学年整備により、各科目においてA問題やB問題の成績がどう変遷するのかについて分析していきたい考えだ。

  「21世紀型スキルなど『生きる力』を付けるのが教育の役割。多様な教育を実現するには、多様な人材が必要。教育に係る大人を増やしていくことで学校教育が活性化していく。『小惑星探査機はやぶさ』プロジェクトに携わった川口淳一郎教授は『子どものもつ芽をつぶさない教育を10年やれば日本の教育は変わる』と言っている。これからは、読み書きそろばん、そしてアイデアが重要。子どものユニークな発想を大切にした取り組みを強化していく」。

◇ ◇ ◇

進むデジタル教科書の導入

■三重県伊勢市

  三重県伊勢市では昨年度補正予算において、市内の全ての小・中学校全学年にデジタル教科書を導入した。導入したのは、小学校2教科(国語、算数)中学校3教科(国語、数学、英語)。伊勢市によると、三重県において全校配備は四日市に次いで2番目。

  市では2009年度に全ての小中学校に電子黒板を導入しているが、本整備に伴い電子黒板も42台追加した。

■東京都台東区

  東京都台東区は今年度より「学びのキャンパス台東アクションプラン」を開始している。本事業は、平成25年3月に策定した「台東区学校教育ビジョン」を実現するため、平成25年度から27年度までの3年間の取り組みを体系別に示したもの。

  台東区では既に電子黒板、実物投影機、デジタルカメラ等の整備が終了していることから、平成25年度はデジタル教科書の効果検証・研究を行い、26年度中に全校(小学校19校、中学校7校)にデジタル教科書を配備する。

  また、「スーパーティーチャー育成事業」では、「ICT」「体力向上」「理科指導」をテーマに1年間研修を実施。今年及び来年度、全校・園より各1名が研修に参加する。

【2013年6月3日】

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