「TED」に関わるバトリック氏が |
グローバル社会で活躍できる「英語力」には、様々な要素が必要だ。それは例えば、自分には皆に伝えたいことがある、という動機と情熱。それを「伝えきる」決意と技術。誰にとっても理解しやすく、あらゆる聞き手を楽しい気持ちに導く表現にたどりつこうとするサービス精神とユーモア。様々な人々のアイデアを分析しつつ再構築、新たな価値観を創りだしていく過程を楽しめる遊び心などだ。これらの点において、グローバル人材育成で取り組むべき余地はまだまだ多い。ではそのためにどうすれば良いのか。
そのモデルの1つとして、インテル本社で3月28日に開催されたISEF(インテル国際学生科学フェア)日本代表生徒8組を対象に行われた特訓研修を紹介する。初日のセッションに参加した高校生たちのプレゼンは、数時間で大きく変わった。
ISEFとは毎年5月、米国で開催される高校生を対象とした世界最大規模の科学コンテスト。50か国1500強の科学者の卵が集まり研究内容を英語でプレゼン、その内容を競い合う。発表プロジェクトの2割が特許を申請するなどの高レベルな内容だ。ところが日本代表生徒は過去10年以上グランプリや各部門の最優秀賞の受賞がない。そこでインテル日本では「高校生らしさにこだわりすぎる日本の教育」「研究課題と社会との関連性が希薄であること」などといくつか受賞に至らない原因を分析、日本の高校生をバックアップすべく、4日間の特別研修を企画した。
特訓初日のセッションリーダーは、現在世界で最も参考にすべきプレゼンテーションが展開されているといわれている「TED」のスピンオフ団体・TEDxTOKYO創立者のパトリック・ニューウェル氏。パトリック氏は21世紀型教育モデル校といわれている東京インターナショナルスクールの共同創設者でもある。初日の特訓内容を紹介する。
PCデータによる5分間のプレゼンを行ったISEFのファイナリスト8組は、パトリック氏からいくつか重要なコメントを得た。
「研究に取り組んだ動機をシンプルかつ明確に30秒程度で説明すること。動機の理由はとても大切。興味深く質問したくなるようなストーリー(話の流れ)を考えること」「準備不足ですみません、自分はシャイですなど、たとえどんな理由があろうとも謝罪や言い訳をしてはいけない。現状で最善を尽くす覚悟を決め、可能な限りプレゼンを楽しむこと」「提示するデータ(ポスター)はどこまでシンプルにできるかに挑戦し、3秒で理解できないポスターは避けること。データを提示しすぎると理解が難しくなり審査員は退屈する。感情に訴えるものとすること」「壇上の後ろに立ちっ放しで棒読みするのではなく、舞台の前に立ってスクリーンを提示、動きながら話すこと」などだ。
ポイントは6つ
マインドマップでイメージを |
プレゼンの過程を考えて |
次に、プレゼンとポスターをブラッシュアップさせるポイントを提示した。
ポイントは「シンプルであること、具体的であること、感情がこもっていること、予想外であること、信頼できること、ストーリーがあること」の6つ。5分間のプレゼンの中にこれらの要素を組み込んでストーリーを展開しなければならない。
さらに、考えやアイデアをまとめるための方法としてマインドマップを紹介した。「左脳は論理的、右脳は創造的な分野を司るもの。マインドマップは右脳を使うことから、プレゼンを具体的かつ感情に訴えるものにするために有効である」からだ。
質問が内容を磨く
これらコメントやアドバイスの後、ファイナリストは15分間でプレゼンを練り直しながら「紙」に絵や図をまとめていく。ISEFではポスターセッションで評価されるからだ。
その後、修正したプレゼンを披露。パトリック氏のコメントを活かし、さきほどとはプレゼンの内容が変わってきている。しかし「具体性」「プレゼンを楽しむ」という点に課題が見られるプレゼンもまだある。自分たちの研究を発表しているファイナリストとって、そのプレゼンは十分に「具体的」であり「楽しい」のであろうが、聞き手にはその楽しさが伝わってきにくい点があるのだ。
そこで今回活躍したのが、サポート役の企業(大人)であった。ファイナリストたちは会場にいる全員から質問を受けた。「こういう要素をもっとプレゼンに加えれば具体的、魅力的になるのではないか」という予測から生まれる質問を受けることで、研究の動機やそれにかける思いなどを改めて振り返り、今後の成果に思いを馳せることができた。彼らの回答を聞いていたパトリック氏は「今話したことはプレゼンの要素に入れるべき。ストーリーが感じられ、感情に訴えることができる」とコメントした。
初日のセッションを取材してわかったことは「他者の質問によって自分の行為を振り返ることができる。新しい視点での振り返りはステップアップの近道である」ということ。そのため、「よい質問ができる聞き手」が重要であるということだ。サポーターであるインテル社員やISEFの先輩による「善意の質問」に刺激され、ファイナリストどうしの質問や情報共有、アイデア提供などが拡がって行く様子にパトリック氏は「皆は競い合っているのではなく、チーム。異なったアイデアを出し合って助け合う体験をここで重ねていくことで、成長できる」と話した。
協働学習の課題
解決の糸口にも
「協働学習」によく見られるのが、生徒に話し合わせたり、質問し合わせたりすることでプレゼンや協働作品を磨いていく過程だ。しかし、話し合いがうまくいかなかったり、質問が稚拙すぎたりして磨き合いにつながらない、という状況に悩む教員も少なくはないはず。本研修により、視点が異なる上級生や大人などのサポーター、専門家の力を借りることで課題を解決できる可能性があることがわかった。
【2013年4月8日】
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