校務の情報化推進 プロジェクトチーム リーダー 中川斉史教諭 |
セキュリティやコストパフォーマンス、管理運用など様々な面から、教育情報のクラウド化が注目されている。自治体単位での導入はまだ多いとは言えないなか、徳島県東みよし町では平成24年度より教育専用クラウド「and.T(アンドティ)」を導入・稼働させ、通知表の完全電子化を短期間で進めた。教育クラウド導入の経緯について、三好地区の情報化に長年携わっており、東みよし町・校務の情報化推進プロジェクトチームリーダーを務めている中川斉史教諭(東みよし町立足代小学校)に聞いた。
東みよし町が、学校が管理する情報の完全電子化を視野に入れた校務の情報化を推進する方針を決定したのは、平成23年のこと。
中川教諭は、「校務の情報化を進めるならば、クラウド化は必須であると考えていた。そう考えたのは、平成11年の学校インターネット事業(文部科学省・総務省)での成果が大きい」と話す。
三好地区では学校インターネット事業により、巨大なサーバ22台を地域で運用、教職員は日常的にサーバにアクセスして教材を活用したりインターネットサービスを利用したりしていた。事業の終了後も運用を保つためにホスティングサービス(レンタルサーバ)を導入、その安定性やコストメリットなどは十分検証できたという。
「自前のサーバを持つことは導入や維持管理、設計などのコストがかかりすぎることから、小中規模自治体には難しい。更新や保守を行うための専任スタッフも必要になる。しかしレンタルサーバを利用することで、トラブル対応やバージョンアップ対応などの維持・運用管理に悩むことなく高性能なサーバを安全に、かつ低コストで利用することができる。そこで校務の情報化を進めるならば、通知表や指導要録の完全電子化を安全に実現できる教育クラウドの導入を前提としようと考えた」
早速情報を収集したが、クラウドサービスは各種あるものの、導入には専門的知識が必要であったり、OS対応が限られていたりなど、それぞれに課題があり、なかなか進まなかったという。
校内でも校外でも安全に校務 処理できるようになった |
USB認証キー(右)は 左は付属のストラップ 「安全を確保するキー」と説明 |
何より「サーバ運用の際、隣のエリアでどんなユーザが何をしているのかわからない状態は避けたい」と考えていた時に出会ったのが、「教育専用クラウド『and.T』」だ。
「当時、『教育専用』を謳ったクラウドは、ほかにはなかった。教育専用だから、学校関係者以外の人は使わない。これはものすごく大きな安心感につながる。さらに『and.T』を提供している株式会社JMC(以下JMC)が長年、学校への教育情報環境を提供、サポートしている点でも信頼できた。一般企業を対象にクラウドサービスを提供している会社の場合、その専門性の蓄積がかえって学校業務の流れに添わない場合もある。長年学校教育に携わり、学校の繁忙期や仕事の流れ、ニーズなどを把握している学校ICTのコンサルティング会社が提供するサービスならば信用できると考えた」と話す。
JMCでは、学校ICT導入のコンサルティングや各種情報セキュリティ製品、情報セキュリティポリシーの策定や学校ネットパトロール、ICT支援員の派遣など、学校教育の情報化に関する各種サポートを手掛けている。
さらにJMCにはITCE(教育情報化コーディネータ)(※)の取得者も多い。ITCEとは学校や高等教育機関などで教育の情報化をコーディネートできる人材を認定するもので、中川氏は現在日本に3人しかいないというITCE1級取得者の1人だ。1級を取得しているからこそ、ITCEの取得者を多く擁する人材育成を事業の柱の一つとしていることの価値がわかるという。
校務支援システムの調達は教育クラウド基盤が決定してから行った。「and.T」上で動くシステムであることを第一条件としたからだ。東みよし町ではここにWeb上で利用できる校務支援システム「EDUCOMマネージャーC4th」を導入している。
行政への説明は分かりやすく
一方で、クラウド化に伴い、校外にセンシティブな情報を置くことに対する不安感を払しょくする必要もあった。
教員はもちろん校長会、議会まで説明する必要があるため、最もわかりやすい表現は何か考えたという。「校外に置くことの安全性を説明することは専門的になりすぎて難しい。そこで教育クラウドサービスを、堅牢で遮断された廊下につながった別室に置く、と説明した」。日進月歩でネットワークが高度化していることを考えると、データを専門家に預けるほうが理にかなう。
「大切なお金も、手元の金庫ではなく銀行という専門家に預けたほうが安心できる。大切な資産は『現金輸送車』だったり『ATM』だったり、堅牢な手段で銀行に運ぶのが当たり前の時代。大切な情報だって同じ。教育専用クラウドサービスなら、ネットワークで直接学校とつながっている。データを堅牢な手段で専門家に預けることができる」。
これにより、専用の入口からしか利用できないため、安心であるというイメージを持てるようになった、と話す。
実際の運用の様子を聞いた。
まず学級担任は、出勤すると認証用のUSBキーをPCに挿し、掲示板や連絡事項などを確認。その日の児童・生徒の出欠状況を記入する。小学校の場合は学級担任が毎朝出欠記録のためにUSBキーを使い、主に職員室でアクセスしている。自宅での活用は通知表作成時期などに集中していたという。
さらにクラウド化にすることで、例えばプリンターの調子が悪くても、隣の学校で印刷する、という対応も可能になった。停電時にも対応しやすいと話す。
ガイドブックを本年度中に提供
中川氏は現在、「現場と地教委で進める教育クラウドパーフェクトガイドブック(仮題)」を執筆中だ。
これは教育委員会と学校がクラウド化と校務の情報化を一体的に進めるためのガイドブックで、今年度中には提供できる予定だという。
「教育のクラウド化についてはまだまだ解決すべき課題があるが、先陣を切った立場として情報を提供していきたい」と話す。
今後、クラウド化の利便性をさらに高めるための仕組みについてアイデアを聞いた。
「中学校の場合は教科担任制なので、教室にタブレットを持って行き、そのクラスの出欠を確認したり、校務支援システム上にコメントを入れたり、さらにそれを使ってデジタルテレビに教材を提示する、といったことがタブレット1台でできるようになるとさらに良い。そうなると、中学校の授業が変わるきっかけにもなる。また、指導要録の完全電子化にも対応できるように、校長室の金庫のようなスペースがクラウド上に欲しいと要望を出している。このような相談ができる点も、JMCと一緒に事業を進めるメリット」と期待を語った。
(※)ITCE http://jnk4.org/itce/
教育専用クラウド「and.T」とは、教育の情報化をトータルで支援する「教育情報化基盤サービス」だ。
教育クラウド上のポータルサイトをベースに、Webアプリケーションを安全に利用することができる。スケジュールや掲示板、学校連絡網メール配信、メール機能など基本的なグループウェア機能のほか、さまざまな校務支援システムもここに搭載でき、一元管理できる。
「and.T」の大きな特徴は、認証USBキーによる物理的な認証とチャレンジレスポンス認証(毎回変化するランダムな認証方式)を組み合わせることで強固なセキュリティを実現しながら、一度のUSBキーの認証ですべてのアプリケーションにログインできる点だ。これにより、利便性とセキュリティの確保を両立した。認証USBキーがあれば校内はもちろん校外からでも安全に校務情報にアクセスできるようになった。東みよし町では安全を守るための認証USBキーとして、1学期から配布。自宅の持ち帰りは2学期から開始し、持ち帰りの際は届出を出す仕組みとした。
中川教諭は「物理的なUSBキーによる認証」を高く評価している。「先生方は、新しい『モノ』が配布されることで、気持ちも新たになり、取り組みに前向きになる。また、大切な認証USBキーを使ってアクセスするという行為が、より慎重に情報を取り扱うという意識の高揚につながった」と話す。
さらに「and.T」では、システム運用時に課題となる、活用促進への各種人的な支援サービスも提供される。システム導入の際に必須といわれているICT支援員の管理機能も搭載。ICT支援員のスケジュール管理や、支援員の活動記録を保管・考察することができる。このほか、学校連絡網やメール配信システム、ヘルプデスク、情報セキュリティコンサルティング、教育情報化コンサルティングなども提供されており、これにより、導入から運用管理、活用促進までのワンストップサービスが可能になる。
学校ホームページの管理システムも
「and.T学校Webライター」は、誰でも簡単に情報発信できるCMS(コンテンツマネジメントシステム)だ。通常、認証キーがなければコンテンツの編集ができないので、部外者による不正アクセスや改ざんを防止できる。タイトルと内容の入力、画像を用意すれば更新できるので、学校ホームページ更新頻度の向上も期待できる。
さらに災害の発生時は、地域の方たちが必要とする情報、役立つ情報を発信できる「緊急災害モード」機能を搭載。ボタン操作一つで、学校HPを緊急時用のHPに切り替え、認証USBキーによる認証なしで、情報発信機能(緊急掲示板・緊急連絡網・安否確認)を使うことができる。
JMCの学校支援
JMCでは学校教育に長年携わってきた経験から、学校ICT環境構築・運用・支援に係る様々なサービスや製品を提供している。
■学校ICTコンサルティングサービス=ICT機器の利活用計画の策定、実施、安心、安全に校務を行うための情報セキュリティ対策などさまざまな学校の課題を、ICT機器の活用という側面から解決する。学校ICT環境整備を、教育情報化の課題抽出からシステム最適化、概要設計、調達支援、分析報告まで実施。
■学校ネットパトロール=学校裏サイトの存在調査や、携帯ゲームサイト、SNS、プロフなどへの投稿を検索・監視・調査・リスク分析を行うサービス。ヒアリング、監視調査、削除依頼の代行サービスや教委への連絡、報告書の作成、分析と結果を踏まえた研修の実施などを提供。オプションで常駐スタッフも配置。
■Hardlockey=USBキーの抜き挿しだけで情報セキュリティを守る。PC1台ごとのセキュリティを守る製品、職員室ネットワークを守る製品、学校全体のネットワークを守る製品、データ持ち運び用ツールの4種類。「and.T」との併用もできる。
■リスク脳トレーニング=協働型情報セキュリティ校内研修支援ソフト。参加者全員のセキュリティ意識を向上させるワークショップ型研修。
【2013年3月4日】
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