【中学校デジタル教科書】印象深いほど記憶に残る―大垣市立東中学校

“納得”できれば“定着”する
「資料の読み取り」柱に授業づくり

中学校デジタル教科書
うどん生産量全国No1の理由を
「資料」から読み取る

 大垣市立東中学校(奥田修二校長・岐阜県)は平成21年度文部科学省委託「電子黒板を活用した教育に関する調査研究」事業モデル校として全教室に電子黒板などを導入、授業に活用している。また、大垣市では学習指導要領の改訂にあわせ、昨年度より全小学校全学年に主要4教科のデジタル教科書(社会科は5・6年生のみ)を、今年度より全中学校に主要5教科と技術・家庭科のデジタル教科書を導入した。デジタル教科書「新しい社会(地理)」(東京書籍)を活用している2年生の授業を取材した。授業者は市川智英教諭。

 市川教諭は、電子黒板に「日本全国のうどん生産量トップ5」のグラフを5位から順番に提示していった。5位から2位まではそれほど大きく変わらないが1位の香川県のグラフを提示すると、他県の約1・5倍の生産量であることがわかる。

  香川県のうどん生産量が他県よりも多いのはなぜか。それがこの日の課題だ。

  市川教諭はまず生徒にその理由を予想させてから、何種類か資料を提示していく。気候や地形に関する資料、煮干しいりこや醤油の生産量、米と小麦それぞれ1キログラムの生産に必要な水の量、溜池や二毛作の説明などの資料を電子黒板に順番に示し、生徒はそこから読み取れることを発表した。

中学校デジタル教科書
資料を提示して"理由"を考える
中学校デジタル教科書
ワークシートもデジタル教科書の図版から作成

  生徒は、香川県は降水量が少なく乾燥しがちであることから稲作には向いておらず、水量が少なくてすむ小麦作りが中心となったこと、漁獲量が多く、乾燥しがちな気候からイワシを干して作るいりこだし作りに向いており、出汁をとる料理文化が拡がったこと、乾燥した気候から塩田作りが拡がり、それを活用した醤油の生産が行われていたことなどを読み取っていった。
授業のまとめでは香川県の活性化に寄与した「うどん」が、それ以外の新たな「特産物」作りのきっかけとなったことについて触れた。

“うどん生産量日本一”理由を読み取り理解する

限られた時間を最大限に活かす

  昨年度まで「中学校社会デジタル掛図」を活用していたという市川教諭にデジタル教科書との違いを聞くと「デジタル教科書は教科書の並び通りになっているので、授業に必要な資料を探しやすく展開も考えやすい」と話す。

  市川教諭は、その日の課題を与え、その解決のヒントとなる複数の資料を読み取って考え、発表し合う流れを重視している。教科書の本文を最初から読むことはしない。本文には全て書かれているが、活字から平均的に受け取る知識は生徒の印象に残りにくいからだ。

  「うどん作り」が栄えた理由を理解でき、なるほどと納得できれば定着する。そのためにどの「資料」をどのタイミングで提示して読み取らせていくか。そこにデジタル教科書が役立っている。

  「デジタル教科書の『My教科書エディタ』で、授業で使いたい資料を予めピックアップしておいてすぐに提示できるようにしている。教科書上の図版をそのまま編集してワークシートとして使えることから、生徒にも提供しやすくなった」

  この日の授業もMy教科書エディタで作成した資料を柱に授業を展開していた。これまでは、図版を1つ1つスキャンしてワークシートを作成していたことから、1枚の作成にも手間がかかっていたが、デジタル教科書で、教材作成を効率的にできるようになった。しかし、「教材作成の時間が減っているか、というと、一概にそうとは言えない。簡単に教材が作成できるようになったので、以前よりも様々な資料を用意するようになり、作成時間はそれほど変わっていないように感じる」と話す。

  教材研究の時間は限られている。その時間を有効に使えるようになったことは、授業の質の向上にもつながる。この日の授業でも、デジタル教科書の活用からまだ1年経っていないにもかかわらず、資料から読み取り、考えを発表してノートにまとめていく、という流れが生徒に定着している様子が見られた。

  「印象深い箇所ほど生徒の記憶に残っているようだ。今後もそのような授業を展開するために電子黒板やデジタル教科書を活用し、授業の幅を広げていきたい」と話した。

デジタル教科書の活用で生徒の活動場面が増えた

奥田校長
奥田校長

 奥田校長は同校に赴任して2年目。赴任した当時と現在の同校の様子について聞いた。

  「全教室に電子黒板があることから、他校に比べて活用頻度が非常に高いと感じました。各教科で教材を工夫し、校歌を電子黒板に提示して練習するなど様々な活用が進んでいました」

  今年度から教科書が新しくなり、それに伴いデジタル教科書も導入され、どのような変化があったのか。

  「電子黒板の操作には既にある程度慣れていることや、小学校の教員からその便利さを聞いていたことなどもあり、『早く使いたい』と興味を持つ教員が多かったようです」。

  実際にデジタル教科書を使えるようになると、英語では発音のリピート機能、数学では図形のシミュレーションなど、便利だと感じる箇所から活用が始まっていった。

  「デジタル教科書から図や表をピックアップしてワークシートを作成できるため、教材作成にかかる時間が減っているように感じます。また、デジタル教科書の導入で資料や本文の提示が簡単になったことから、以前と比較すると生徒が電子黒板を使って自分の考えを述べるシーンも増えているようです」。

  今後はさらに学力向上に資する使い方を研究していく考えだ。

【2013年1月1日】

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