電子黒板に提示した写真やグラフは、 印刷して黒板に掲示。 授業の履歴や 思考の可視化に役立てる。 デジタル教科書なら ば教科書掲載の 写真を簡単に印刷できる。授業後は 教室掲示物として振り返りに利用 |
京都市では、平成21年度に5、6年生の全教室に電子黒板を整備している。京都市立久世西小学校(京都府・北田祐二校長)ではその活用を始めとして授業改善に取り組んでおり、昨年度から「デジタル教科書小学校社会」(東京書籍)のインターネット配信版5・6年を学校予算で導入したところ、学力テスト結果の改善や書く力の向上など成果が上がっているという。5年生の社会科の授業を取材した。授業者は近松浩平教諭。
近松教諭は、単元「これからの食料生産とわたしたち」のデジタル教科書から「40年前の食事」と「今の食事」の写真を電子黒板に提示。それぞれについて気づいたこと、思ったことを児童に発表させた。
この日の授業では、2枚の食事内容の変化から、なぜこれほど食事内容が異なっているのか、この40年間に何が起きて、私たちの考え方や生活はどう変わってきているのかについて、様々な資料やグラフを基に考えを深めていく。
近松教諭は米、小麦、大豆、野菜、肉、乳製品などの「輸入量の推移」と「消費量の推移」のグラフをデジタル教科書から提示。デジタル教科書ならば、どの程度数字が伸びているのか児童に予想させながらグラフを1種類ずつ提示できるので、違いが分かりやすく記憶に残りやすい。小麦や肉などの急激な増加量に教室から「すごい」という声も上がった。
グラフはアニメーションになっているため、 予想を立ててから一か国ずつ見せることが できる |
教科書掲載のグラフは教員が印刷して配布。 ノートに貼り、考察を記述する。 半年間で記述量が増えた |
補足資料も多数用意しており、デジタル教科書の機能の1つである「My教科書エディタ」を使って事前に資料を編集、見せたい箇所だけ見せたり、世界の出来事と関連付けて考えられるよう年表を提示するなど自作資料を組み込んでいた。
近松教諭はこの日の授業について、「輸入が増えて食生活が変わっていること、選択肢が増える幸せがある一方で未来には危険もはらんでいることに気づかせ、長期的な視点で今後を考えさせていきたい」と話す。「とくに5年生はグラフや表が多い。グラフを読みとる力をどうつけるかが5年生の社会科のポイント」
そのため、社会科の授業中はほとんど教科書を開かせない。教科書を見ると答えが書いてあるからだ。写真やグラフ、課題やキーワードなどをピックアップして考えさせ、意見交換をしていく流れを重視している。考える時間、書く時間は短く区切り、飽きないように配慮。教科書は単元の振り返りのときに使う。
年度当初は「学習を終えて考えたこと」についてノート3行程度の量しか書けない児童もいたが、現在は多くの児童が200文字から500文字程度書くことができるようになった。デジタル教科書などを使って、考える素材を教員が明確に提示し、考える、書く、ということを繰り返すことで、書ける量が増えていくという。
上坊由美子教頭 |
上坊由美子教頭は「他校でデジタル教科書を使っている授業を見て、これはすごいと思いました」と話す。5、6年の社会は日本全体の問題を扱うことから、教員からもぜひ使いたいという要望が上がり、インターネット配信を利用した年度契約で購入した。
京都市の5、6年生は国語、算数の学力テスト「ジョイントプログラム」を実施しており、昨年度からはそれに理科、社会が加わった。同校児童においては他教科と比較して社会科のテスト結果が平均的に安定して良かったという。
「社会科のテストは初の試みなので断定はできませんが、視覚優位の子どもが増えていることを考慮するなど、授業の進め方次第で児童の力はもっと伸びる可能性があると感じました」
デジタル教科書の活用のほかに、同校では毎朝、電子黒板やデジタルテレビを使ったドリルや詩・古典などの音読、読書などのモジュールタイムを設け、授業改善に取り組んでいる。
授業改善の成果は支部教頭会で公開授業を通して情報交換、成果を共有し合っている。
「デジタル教科書は、教員にとって"食材"。豊富な食材の料理法を考えるのが教員の役目。今後も校内研修などでデジタル教科書などの活用法について研究を進めていきたい」と話す。
【2012年11月5日】
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