大阪市教育委員会・給与・システム担当課長の山本圭作氏は、「教員の校務負担軽減と情報の有効活用を図り、児童生徒と向き合う時間を増やす」取り組みについて講演した。
山本圭作氏 |
大阪市では、市内520校園の校園長、教頭、事務職員をネットで結ぶ「校園ネットワーク業務システム」を平成18年より構築。これにより生徒情報は住基ネットと連携、学校徴収金は銀行口座引き落としができ、学校別決算報告書まで作成、就学援助の認定や備品管理、旅費出張命令と支払いなどができる業務システムを平成22年度から稼働させ、給与・システム担当が主管していた。
今回着手したのは、学校に関する校務処理の分野。現在学校現場が抱えている課題について大阪市でアンケート・学校実態調査をしたところ、「PCが不足しており仕事を持ち帰らなければならない実態であるにも関わらずセキュリティは不足、情報共有は紙ベースで校務事務は手書き・転記作業も多く、教頭の業務が広範囲に渡っているなど、様々な問題が明らかになった」と話す。USB紛失は懲戒処分対象である一方、申請・許可制ではあるもののUSBの持ち帰りは多く、プリントアウトも職員室内で行列ができるなどICT化の遅れや校務処理についての負担感の高さ、教頭業務の負担も大きかった。そこでクラウドをベースにグループウェアによる教員の休暇や出張届、児童生徒の出欠や成績処理などを進め、一部学校業務を自宅でもできるようにする仕組みを念頭に構築している。
平成24年4月から校務支援導入検討プロジェクトを立ち上げ、校務支援システムの本格導入に向けて平成24年度予算額は6億4200万円。校務用PCを1万1800台整備し、ネットワーク整備を進めている。クラウドを利用できるWeb方式で、一部業務を自宅でも安全にできる仕組みとし、USBによるデータの持ち帰りを不要にする。また、大阪市の学校HPは更新率もアクセス数も低いことから、地域への学校からの情報発信の新しい仕組みの導入についても検討する。
校務支援システムの調達については教頭・教務主任経験者の指導主事に仕様書の一部を作成依頼。各社のプレゼンには指導主事も参加した。総合評価方式で、価格点300、技術点700の1000点満点で、本年9月に事業者を決定し、現在システム整備プロジェクトチームを立ち上げ、週2回平均で調整、打ち合わせを行っている。
校務用PCについては3月中旬までに整備を完了予定で、校園ネットワーク業務システムとの回線統合も視野に入れており、グループウェアやメールなど一部の稼働を開始するとともに研修を実施。来年度には校務支援システムの試験導入校での効果検証と開発に取り組み、平成26年度には全校展開する考えだ。
「校務支援システムは、教員の校務負担軽減に貢献する可能性が高い仕組み。情報化の管理体制、個人情報保護、情報セキュリティ指針などは、ハード整備とは別途取り組みが必要だが、教員が子どもと向き合う時間を増やす事業であることを学校に周知し円滑な導入を進めたい」と話す。
大阪市教育センター首席指導主事・阪口正治氏は「児童生徒にタブレット端末を配備するなど先進的なICT環境のもとでの協働的な授業づくりの研究を進める」計画について説明した。
阪ロ正治氏 |
大阪市では既に平成21年度に電子黒板を全校に各1台に整備したが、その増設を希望する声も多く、さらに大阪市長の「世界標準の学校ICT環境整備」という強い思いもあって、国の動向も踏まえつつ、電子黒板やタブレット端末など先進的なICT環境を学校に整備し、双方向で協働的な学びの実現について2年間で実証研究を行う。
平成24年度は、小学校4校、中学校2校、小中一貫校1校で、無線LANや電子黒板、書画カメラ、タブレット端末等を整備する。平成25年度から26年度にかけて実証研究と効果検証を行い、整備の基本スタイルや活用事例を示す「大阪市スタンダードモデル」を作成し、平成27年度から全市展開する。
平成24年度はモデル校の小学校4校の3〜6年生の教室に、電子黒板機能付きプロジェクターを整備する。タブレット端末は、小学校3年生以上の各学年に40台と教員用4台の計164台、モデル校の中学校2校には各学年80台×を3学年分と教員用6台の計246台を配備する。小中一貫校1校には、小学校3年生以上全員分を配備。市にアドバイザーを1名配備し、教育センターやコーディネータに指導・助言をする役割を担う。また、各校には、ICTの活用について助言するコーディネータ(年間6回程度派遣)と、ICT支援員1名(週40時間勤務)、授業づくり指導員(週30時間勤務)を派遣する予定である。
モデル校の選定には、13校(小学校11校、中学校2校)が応募し、申請校ごとに研究計画や体制などをプレゼンテ‐ションした。10項目を3段階(5・3・1点)で評価し、8月末に決定済。Windows8端末、iPadの複数端末が検証される。研究内容は、1人1台端末の学習効果、グループ学習における活用効果、校外学習での活用効果、家庭学習における活用効果など、中心課題を各校によって絞り効果検証を進め、平成27年度からスタンダードモデルを全市展開する考えだ。
【2012年11月5日】
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