クラウド基盤で校務の情報化―東みよし町教育委員会

全校一斉に完全電子化の試み

教育クラウド
校務の情報化推進
プロジェクトチーム
リーダー
中川斉史 教諭

 徳島県・東みよし町は今年度より教育クラウドをベースにした校務の情報化を進めている。前年度は手書きだった通知表が平成24年度1学期には全校で電子化された。東みよし町・校務の情報化推進プロジェクトチームリーダーの中川斉史教諭(東みよし町立足代小学校)によると、「授業でICTを活用している学校ほど、校務の情報化のスピードが速かった」という。

教員の授業ICT活用力がスピード導入の下支えに

 東みよし町は今年度より全校(小学校4校、中学校2校)でクラウド基盤を活用、校務支援システムを導入して通知表と指導要録、出席簿の完全電子化に取り組んでいる。1学期には通知表の電子化を全校で実現した。

 出席簿や指導要録保管のための紙印刷は一切なし、という「完全電子化」について中川教諭は「一部に紙保存を残してしまっては校務の情報化が中途半端になる。完全電子化に取り組むことに意義がある」と話す。

 クラウドには、教育情報化基盤サービス「and・T(アンドティ)」(株式会社JMC)を選択。これは様々なアプリケーションを搭載できるクラウド基盤で、USBキーでクラウドにアクセスし、ポータルサイト上のすべてのアプリケーションにログインできる仕組みだ。

 「USBキーを使って物理的に認証できる、という仕組みが良かった。新しいキーを渡されると、それを使いたくなるもの。研修の際には新しいモノが配布され、それで何ができるようになるのだろうと皆わくわくしている様子が見て取れた」。

 校務支援システムには「EDUCOMマネージャーC4th」(以下、「C4th」)(株式会社EDUCOM)を選定。コンペによる選定のポイントは、豊富な導入実績、他自治体での稼働年数が長かったこと、一般財団法人全国地域情報化推進協会(以下、APPLIC)の「地域情報プラットフォーム準拠製品(教育情報アプリケーションユニット標準仕様V1・0)」の「準拠登録・相互接続確認製品マーク」を年内に取得予定であること、いざというときにすぐにサポート対応できるように営業所がある程度近いことなどだ。

全国160自治体 3800校で導入

 「C4th」は全国160自治体、3800校以上で導入されており、最長で12年以上の活用実績がある。現在は全国7拠点で自社によるサポートを展開している。

 「地域情報プラットフォーム準拠製品」とは、校務支援システム等の標準化を推進するための仕様で、APPLICにより検討が進められているもの。今後はこれに準拠した製品の導入が求められている。

教育クラウド
USBキーを挿入してクラウドに
アクセスする仕組みとした
教育クラウド
校務支援システムを4月に導入、6月に
研修、7月には通知表が電子化された

 「地域情報プラットフォームに準拠していることは重視した。他システムとのデータ連携が可能になり、一度入力した情報を最大限活用できる」と中川教諭は話す。

 「C4th」はセルフチェックにより取得できる「準拠登録製品マーク」を平成24年8月に取得。APPLICによる相互接続確認を済ませた製品に与えられる「準拠登録・相互接続確認製品マーク」は平成24年11月に取得する予定だ。

授業ICT活用が 校務情報化を支援

 東みよし町では、3月に予算を決定、4月早々に調達、5月からシステム構築、通知表レイアウト等のヒアリング、6月に研修というスピード感のあるスケジュールで1学期の通知表電子化を7月に実現させた。

 通知表の入力やクラウドのログイン方法など的を絞った研修は各校ごとに1回実施、その後はメールや電話によるサポートで、稼働は順調に進んだ。モデル校による検証から始める地区が多い中、導入から稼働まで数か月というスピード感と順調な進捗にEDUCOMの研修担当者も驚いていたという。

 これについて中川教諭は「東みよし町の教員は長年にわたって授業にICTを活用しており、各校にいるスキルの高い教員が中心となって分からないことはお互いに教え合うという土壌があり、それが校務の情報化でも機能した。PCやネットワークの活用は既に日常的で、サーバにアクセスして教材を保存、活用していることからクラウド化の意義もすぐに理解した」と話す。

 東みよし町の例では、授業でICTを活用している学校ほど、校務の情報化のスピードは速い、ということがわかる。

 短期間の目標設定にプレッシャーがなかったわけではない。しかし「1学期の通知表を逃すとその後通知表の電子化は1年先になってしまう。スピード感を必要とすることで良い意味での緊張感も保持できる。短期間での実現は達成感も大きく、その後の自信にもつながる」と、中川教諭はスピード感を強調する。「ゆっくりやりさえすれば成功が約束されているわけではないし、見切り発車だったわけでもない。小規模自治体だからこそ融通がきく面がある。それは大きなメリットであった」

カスタマイズは最小限で迅速に

 「C4th」の通知表や指導要録、出席簿などのひな型は豊富で選択肢が広いことから、ひな型をそのまま採用。カスタマイズを最小限にしたことがコスト低減とともに迅速な導入を可能にした。

 とはいえスピード導入で問題が全く起こらないわけではない。解決すべき問題が起こった際には、教員の意思の疎通を図り、校長会や情報化推進会議が協議して意思決定するという学校の総意が反映される仕組みができあがっている。

初めての電子化も「大変ではなかった」

 初の通知表電子化が終了した後、全校対象にアンケートを実施したところ、それまではほとんどの学校が手書きによる通知表作成であったにも関わらず、8割以上が「電子化に係る作業は大変ではなかった」と回答した。入力すると作業はほぼ終了するので、学期末の多忙感は短期間で終了した、という印象のほうが強かったという。

 保護者には、クラウド化のメリットや安全性、電子化することの意義についても説明をするなどの対応を行った。

教育行政区は同じシステムに

 東みよし町がクラウド化に踏み切ったのは、東みよし町と隣接する三好市で、平成22年度まで運用していた「教育ネットワークセンター」で行っていたホスティングによる教育用ネットワークの安定感が大きい。

 隣接するこれらの地域間では教員異動が頻繁だが、ネットワークの仕組みを共通にしておくことで、異動するたびに異なるシステムに慣れるといった負担がないことから、プラットフォームの共通化が安定運用の秘訣であるということを実感していた。

 同じシステムを導入すると小中全体で研修できる。どんなシステムが入っているのかを理解している人が研修を計画できるため、教員にとって研修は『義務』ではなく必ず役立つものとして認識されているという。

"わくわく"して取り組む教員集団

  研修にも新しいシステムにも「前向き」な教員集団はどのように育まれたのか。

  三好地域におけるICT活用の歴史は長い。

  平成11年度の学校インターネット事業(文科省・総務省)に手を上げ、高速インターネット回線を敷いた。その後ネットデイで全校にLANを敷設。現在はフューチャースクール推進事業の実証校として足代小学校が取り組んでいる。文部科学省の平成24年度事業「学校運営に資する取組(教員の勤務負担軽減等)」では、「校務の情報化による教職員の負担軽減の在り方」について研究している。

  また、トレンドな最新情報を地域に広めていくために「わくわく感」を伝えられるような研修を心がけている。都市部まで各教員が情報収集に行くのは難しいことから、研修の際には企業の展示を募り、最新機器やシステムの紹介を三好地区でできるようにしている。

  「新しいもの」に前向きに取り組み教育活動に取り入れるという姿勢が長年にわたり培われており、それが校務の情報化でも同様に発揮された。校務の情報化は、導入当初は負担感も大きく一時的に業務スピードが落ちる場合もあると言われているが、これは全ての学校に当てはまるわけではないようだ。

■教育情報アプリケーションユニット標準仕様V1.0とは
  転出入や進学の際に必要となる指導要録と健康診断票について、取り扱うべきデータと記述ルールを統一することで、学校間や教育委員会間においてデータ連携可能とする仕組み。これにより自治体により異なる校務支援システムが導入されている場合でも、児童生徒情報の引き継ぎが可能になる。APPLICでは、「教育情報アプリケーションユニット標準仕様V1.0」に対応した校務支援システム製品に対し、APPLIC推奨マークを付与する活動を行っている。

 

「徳島県スタンダード」を東みよし町から発信する

教育クラウド
東みよし町教育委員会
川原良正教育長

 クラウド化と校務支援システムのスピード導入・稼働は、東みよし町教育委員会教育長である川原良正氏の理解と支援が大きな力になっている。川原教育長は「東みよし町から『徳島県スタンダード』を発信したい。県下一を目指すためには先陣を切って苦労する」と話す。

 スピード導入=トップダウンではない。

 「学校現場から、教員の多忙感の解消には校務支援システムの導入が有用であることを聞き、子どもと向き合う時間を確保できるならばぜひ導入すべきであると考えました。子どもの教育環境向上のために『なくてはならないもの』に予算を確保することは、頑張っている先生を応援することになります。学校の総意を全力で反映することが教育長の責務。子どもたちのためだという理解が得られれば、町長も議会も協力してくれます」

 平成7年5月に三加茂町教育委員に就任して以来、継続して教育委員会に関わっている。平成11年には三加茂町教育委員会教育長に、平成18年には東みよし町教育委員会教育長に就任した。その間ずっと「三好地区の情報化」に携わってきた。

 こんな事業があるから応募したい、こんな研究をしたいという学校現場からの要望にはすぐに対応する。これを繰り返していくと、「教育長は必要なものにはすぐに予算をつけてくれる。頑張ればそれだけ応援してもらえる」という信頼関係が生まれ、学校現場に安心感と前向きな気持ちを育んでいく。それが東みよし町の教員集団の特長になっているようだ。

帳票の改訂にも柔軟に対応

 校務の情報化を迅速に進めるため、帳票の改訂にも柔軟に対応した。

 従来通知表や指導要録は各学校により特色があるものだ。校長が変わるたびに通知表の様式が変わる場合もある。その独自様式を全て電子化でも反映させると、カスタマイズ化にコストや時間がかかる。そこで管理規則を変更、教育委員会が決めた形式とした。これで迅速かつ最低限の予算で導入することができる。

 帳票の改訂にはとまどう学校が多く、校務の情報化を推進する際の課題の1つになっているが、「卒業証書や通知表の形式にこだわりすぎると、校務の情報化を実現するために余計な労力が発生してしまいます。これは本末転倒なこと。学校は活動にこそこだわって特色を出していくべきで、通知表の形式で学校の特色を見せるものではないはず」

 通知表や指導要録、出席簿や学校日誌も簡素化し、データ連携しやすくすれば「何度も同じことを書く」業務を減らしていくことができる。

 「それまでの慣習や因習を変えるべきかどうかは、それが学力向上、体力向上に役立つか否かで判断しています。20年前にできたルールならば変更すべきものは多いはずで、現状に合わせてルールを改訂することは自然なこと。学校が動きやすいようにするのが教育長の仕事です」

先陣を切って「県下一」目指す

 来年度に向け、保健管理システムの導入を考えている。子どもの健康診断の結果や保健室の利用状況などのデータが全体共有できることのメリットは大きい。「健康関連については県の様式、医師会の様式などいろいろな『様式』があり、様々な刷り合わせが必要になります」と、こちらでも「刷り合わせ」「予算の確保」という教育長の"出番"が待っている。

  「目指しているのは、東みよし町から徳島県のスタンダードを発信すること。そのためには先陣を切って前進しなければなりません。先陣を切ることで生まれる苦労もありますが、県下一を目指すことにメリットがあると考えています」

  既に県下市町村から東みよし町のシステムの視察希望が相次いでいる。

【プロフィール】95年三加茂町教育委員、99年NTT退社・三加茂町教育長、06年より現職

【2012年11月5日】

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