学校HPで"絆"育む−福島県・いわき市立第三中学校

発信しやすい仕組みで成果

 いわき市立平第三中学校(福島県)の学校HP(ホームページ)は、管理職を中心として全校体制で情報を頻繁に発信しており、多いときでは日に500件ものアクセスがある。同校の取り組みに刺激を受け、いわき市内において、学校HPによる情報発信が拡がりつつあるという。「家庭や地域への情報発信」を学校Web等で行っている学校は46・7%(文科省「学校における教育の情報化の実態等に関する調査」(平成23年度3月))と増えつつあるなか、周囲に影響を与えている同校の取り組みについて、伊藤孝俊校長と石井直人教頭に聞いた。

教職員全員が 情報の発信者に

  同校のHPには、子どもたちの活動の様子、学校や各種大会の報告、PTA活動や図書館の新着図書、新任ALTの自己紹介や各種お知らせなど、あらゆる情報が写真と共に掲載されている。生徒が大会で獲得した賞状も大きく掲載されており、PTAや子どもたちの間ですぐに話題にのぼりそうな情報が満載だ。新着順のほか、各学年や事務のお知らせ、行事報告などカテゴリごとにも見ることができ、検索もできるなど過去の情報も参照しやすい。

  月平均4000件、多いときは日に500以上ものアクセスがあるというが、順調な情報提供と安定した高アクセスは、本年4月以降のことだという。

迅速な情報提供を目的に導入開始

学校HP
伊藤孝俊校長

  同校が学校ホームページ情報発信システム「スクールWebアシスト」復興支援版(以下、SWA)(EDUCOM)の活用を開始したのは昨年の9月からだ。これは、東日本大震災で被害を受けた学校や自治体を対象にEDUCOMが無償でシステムとサービスを提供しているもの。

  伊藤校長は、「震災後、生徒の安否確認などの作業に時間が膨大にかかっており、電話以外にもすみやかに保護者に連絡できる体制がほしいと検討していました。メール連絡網については教職員間で活用を始めていたものの、保護者との連絡をメールに頼りすぎると子ども抜きの情報発信になる可能性があると考え、学校HPを通じた情報発信に興味を持っていました。しかし当時所有していた学校HPは、情報発信するには一定のスキルが必要で、担当者が転勤して以来更新が滞っている状態でした。なんとかしなければと考えていたところ、新しいシステムを無償で試すことができると聞き、現状から一歩前進するきっかけになるかもしれないと考えました」と、すぐに手を挙げた理由を話す。

HP更新作業は予想以上に簡便

学校HP
石井直人教頭

  当初は管理職と担当者数名で情報を掲載、ある程度蓄積してから保護者にHPについて案内。アクセス数は少しずつ増えていたが、一気に増えたのは本年4月の遠足以降だ。

  校外学習の際、帰宅時間の予定は決まってはいるものの、天候や交通状況により予定変更は多い。そこで帰宅時間等の情報をHPに掲載したところ、アクセスが飛躍的に増えたという。

  「遠足をきっかけに学校HPにアクセスしたところ、様々な情報が掲載されていることが広まったようで、それ以来日々のアクセスが増えました。更新作業も実際にやってみると、写真付きメールを送る感覚で予想以上に簡便。各種大会等では、外出先から携帯やスマートフォンで記事を作成、時間をかけず情報を更新できます。アクセスが増えることが励みになり、情報の掲載回数も増えていきます。次第に様々な立場からリアルタイムの情報を発信するようになりました」

  ネットによる情報発信の経験がなかった教職員も、今では積極的に発信し、多いときでは1週間に10人余が何らかの情報を掲載するという。管理職、各学年、養護教諭、給食担当、図書担当、事務、PTAなど様々な立場からの発信は、各担当の仕事内容の振り返りや引き継ぎにも役に立つ。

  学校行事の様子だけではなく、保護者へのプリント配布についてもHPでお知らせする。情報を全て掲載するのではなく、どのような内容のプリントを配布した、という情報にとどめることで、子どもとの会話を生む流れを意識しているという。

発信したい 内容が増える

学校HP
大きく掲載された賞状に喜びも増す

  頻繁に情報を掲載することが習慣になったことで、子どもたちの活動を見守る視点が変わってきたように感じる、と話すのは石井教頭だ。

  情報を発信する立場として様々な行事に参加するようになり、これまで以上に詳細に子どもの様子を観察するようになった。「今週は、教育実習の報告や自転車安全教室、生徒会役員選挙について、報告を掲載予定です」と、管理職の積極的な情報発信は学校全体に良い影響を与えているようだ。

  8月3、4日には、「ともしびプロジェクト」(※)の一環で、SWA等を活用している被災地3県の学校や学校HPで顕著な実績がある学校など計18校が集まり、各校の取り組みについて情報を交換した。そこに同校も参加。市内では最もアクセス数が多いと自負していたが、各校の素晴らしい取り組みを見てさらに刺激を受け、「まずは生徒会の子どもたちからの発信ができるようにしたい」、「保護者の意見を収集し、学校経営に活かす方法も考えたい」、「英語学習の一環として、ALTからのメッセージを継続して掲載していきたい」と、次のステップアップを考えるようになった。

  「簡便なシステムなため、新しい試みへの意欲も生まれやすく、情報が蓄積することで次のアイデアも生まれてきます。本業にどのような影響を与えるのかを常に振り返りつつ、取り組んでいきたいですね」と話す。

学校HPから "一体感"醸成

  これから学校HPによる発信を考えている学校に対するアドバイスを聞いた。

  「子どもの表情などをアップできれば様子が伝わりやすいとは思いますが、家庭により様々な事情もあります。事後承諾だと迅速な発信が難しくなりますから、年度当初には、学校HPに掲載できるか否かの承諾書を必ずとること。また、誰でも発信できる仕組みとはいえ、必ず校長または教頭の承認を得るなど、責任の所在を明らかにしておくこと」という。

  被災地にある学校としての1年間はめまぐるしいものだった。

  「転入や転出が頻繁で、144件にものぼりました。これだけ転出入が多いとクラスや学校としての一体感醸成には時間がかかるのですが、学校HPを通じ、子どもたちが少しでも早く学校や地域に馴染んで楽しく学校に通うことができ、保護者との関係を構築する役割を果たすことができればと考えています」

(※)学校公式ブログを用いて被災県と全国の学校をつなぎ、児童生徒が学校での日常を記事発信する活動を支援する取り組み。代表は豊福晋平氏(国際大学グローバル・コミュニケーション・センター)。

情報発信量に他校も刺激

学校HP
いわき市教育委員会
学校教育課管理係長
  園部 一郎氏

  EDUCOMでは学校ホームページ情報発信システム「スクールWebアシスト」復興支援版を被災地に提供しており、現在約80校の利用がある。

  いわき市の教育長がこの取り組みについて説明を受けたのが2011年7月であった。それまで市では学校HPは既存のソフトウェアなどで作成していたが、ある程度の知識が必要なため担当者によって更新頻度に温度差があった。そこで教育委員会から市内の学校に対して、より簡便な学校情報発信システムとして「SWA」の利用希望校を募った。

  当初の申込みは6校。市内の小中学校は全118校。予想よりも少ない、と感じたという。しかしその後、平第三中学校等のHPを見た市内の他校から「同じシステムを使ってみたい」という声が上がった。現在は約60校が同システムを活用、あるいは活用の準備中だ。結果、市内約半数の学校がSWA復興支援版を活用することになる。

  園部氏は「当初は、文書による説明だけで使い方の簡便さを理解するのは難しかったのかもしれません。しかし実際に隣の学校がこれまでとは異なったペースで情報を次々に発信している様子を見て、HP更新のイメージが変わり、これならばやりたい、できそうだ、と考える学校が増えたのではないでしょうか」と話す。

  教員のICT活用能力は毎年「学校における教育の情報化の実態等に関する調査」により調査されているが、情報を常日頃から発信していく習慣は、教員のICTを活用した授業力にも良い影響を与える可能性がありそうだ。

子どもが育つ"仕組み”をつくる
"ともしびプロジェクト"で被災地支援

パブリックかつフォーマルな場の提供を

  東日本大震災の被災地に対して情報通信技術は何ができるのか。文科省復興教育の一環として、国際大学グローバル・コミュニケーション・センターの豊福晋平氏は、被災地区の学校を対象に、ブログシステムを用いた学校広報や子どもたちの取材活動の支援(ともしびプロジェクト)を行っている。その意図と成果、今後について聞いた。

  学校HP(ホームページ)には、校内の日常的で「地味でベタな」情報を広く提供することで、関係者相互の信頼関係を構築・強化する働きがある。被災地の学校でもまた、学校広報という積極的手段を役立てることで、彼らの心のケアにつながるのではないかと考えたのが、本取り組みのきっかけだ。

学校HP
国際大学
GLOCOM
主幹研究員・准教授
豊福晋平氏

  2011年夏に被災地の学校数校でヒアリングした豊福氏は、各学校が抱える課題のいくつかは学校HPによって解決できると感じたという。

  例えば、被災復旧に関して多くの支援を受け、それらに対するお礼の気持ちを伝えたい学校がある。住み慣れた土地を離れ、各地に離散した子どもたちと学校とのつながりを保つために、できるだけタイムリーに情報提供したいと考える学校も少なくなかった。

  2011年12月頃から参加校を募ったところ、学校単独での参加のほか、伊達市やいわき市など教育委員会単位での参加もあり、広く反響があった。そこで、各学校の進捗レベルやニーズなどに合わせ、管理職向けの説明、運用アドバイス、研修会実施のほか、児童生徒の活動プラン作成など支援を進めた。「当初、身構えている学校が多かったが、一緒に問題を解決していこうというスタンスで進んでいった」という。理想は、校内の様々な立場の人がそれぞれの目線を活かした情報を発信することだ。そうすることで、学校の様子が立体的にわかるようになる。多人数が関わる情報発信を実現するためには、誰もが簡単にWebに投稿・運用管理できる「学校ブログシステム」が適している。煩雑になりがちな学校HP管理をシステム化することで得られるメリットは大きい。まだシステムを導入していない学校にはEDUCOM「スクールWebアシスト」復興支援版を紹介するなどして、環境構築面も支援した。
参加校の情報発信は学校によって様々で、校長が毎日のように記事を書くケースもあれば、複数教職員が交代で投稿しているケースもある。なかでも豊福氏が注目しているのは「学校子どもブログ活動」の取り組みだ。これは子どもたちが児童会・委員会活動の仕事として学校の日常を記事レポートする仕組み。朝会や行事の際には記者として腕章を身に付け、写真撮影や取材インタビューを行うので、校内では注目を浴びる存在だという。

  「携帯メールやプロフ・ラインなど、日常生活で子どもたちが仲間内とインフォーマルなやりとりをすることは、もはや当たり前になった。しかし自分の文章を学校公式ページに掲載することは、普段とは全く異なる経験を与えることになる。名誉なことである一方で、フォーマルな作法とパブリックに対する緊張感や責任感が伴う。学校のスポークスマンとして公式な立場を与えることは、子どもの成長を促す」と話す。

  子どもたちの記事投稿を軌道に乗せるため、新年度から記事作成・取材・写真撮影など一通りの作業がこなせるよう、各学校を訪問して委員会活動をサポート。公式ページに掲載する記事なので、顧問の先生から言葉づかいや表現、文章構成を含め、容赦のない朱入れ指導が入る。他者に読まれることを意識することで、記者トレーニングが重要な意味を持つものだと実感し、子どもは数か月で大きく成長していくという。

  学校HPの更新頻度は各校によってバラツキがあるが、毎日更新しているページには地域や海外の卒業生からもメールで応援メッセージが届く。さらに、各学校HPの更新情報はフェイスブックのプロジェクトページに集約して提供されており、フェイスブックの「いいね!」クリックやコメントは子どもたちに強い動機付けを与える。

  「本来、授業でこのような取り組みを行うことが理想だが、まずは委員会活動などからその有用性を周知することが出来れば。パブリックでフォーマルな舞台を提供するのが学校本来の役割。情報化でもそれは変わらない。すでに学校の情報化は、ありとあらゆるところに顕在している。授業活用のみではなく、総合的かつ日常的に扱うことで、教員や子どものICT活用能力を無理なく伸ばすことができるのでは」と指摘した。

【2012年10月8日】

関連記事

学校HPの一斉リニューアルで学校情報が充実【京都市】(091205)