「知識基盤社会をたくましく生きる子の育成〜メディアを生かす"確かな授業設計"」をテーマに、第38回全日本教育工学研究協議会全国大会が11月2〜3日、金沢市で開催される。今年度より日本教育工学協会会長に就任した堀田龍也教授(玉川大学教職大学院)に、これまでの取り組みと今後の目標を聞いた。
日本教育工学協会 堀田龍也 会長 |
日本教育工学協会(以下、JAET)は、学校現場の情報化によって質の高い教育を実現することを目的に、現場教員の実践や研究の普及・啓発を研究者や賛助企業がサポートしていく役割を担っており、全国大会を含めた様々な活動が行われてきました。
全国大会は今回で38回を迎え、毎年大きな盛り上がりを見せています。授業公開をするところが、学会等と大きく異なる特徴です。
全国大会の開催地は1年以上も前から授業公開に向け準備を始め、現場では指導技術や意欲が高まっていきます。開催地には独特の負担感はあるかもしれませんが、そのぶん目に見える成果が上がる良い機会となっています。JAETとしては、この全国大会を盛り上げていくことが今後も重要な役割の1つです。
そのため、全国大会に加え、山西前会長は、全国各地で行われる「教育の情報化」実践セミナーを立ち上げました。教育の情報化に関する実践報告や機材等の展示が全国で行われ、各地の実践の広がりに寄与しています。
来年のJAET大会は、震災を経て応援したいということもあり、仙台が開催地となります。プレ大会として今冬に仙台で「教育の情報化」実践セミナーも開催予定で、既に準備をスタートしています。教育の情報化が被災地の努力にどう寄与できるかに注目したい大会と言えます。
また、山西前会長の時期、JAETでは、文部科学省から「管理職のための戦略的ICT研修カリキュラムの開発」を受託し、英国の管理職向けICT研修を日本向けにアレンジ、カリキュラム化しました。
3年間の受託期間は終了しましたが、現在も全国の校長会や教育委員会から依頼があり、引き続きJAETの独自事業として継続しており、管理職の意識を高めていくための先鞭をつけることができました。これは大きな成果と言えます。教育の情報化を学校ぐるみで戦略的に考えることは、大変意味があることです。
教育の情報化は着実に進んでいる
教育の情報化は、想定よりも遅れているとはいえ、10年前と比較すると確実に進んでいます。校務の情報化で教員のPC活用は当たり前になりました。通知表はあらゆる学校で発行されているものですが、実は法律上の拘束はありません。保護者との連携のためには必要不可欠なものとして、浸透したものです。校務の情報化や通知表の電子化、学校HPの作成も同様に、今後浸透していくことが予想されます。
スクール・ニューディール政策により一定の整備も進みました。教科書を大きく映すことは、あらゆる教科の教員が必要としていることで、実物投影機やデジタル教科書はそのニーズを満たすもの。これもまた自然に拡がっていくツールと言えます。
当初は機器の機能に使いにくさもありましたが、それも改善されていますし、今後も改善は進んでいきます。教育の情報化は、他国と比較すると遅れはありますが、日本なりに進んでいます。教育制度は国によって異なりますので、他国の真似ばかりでなく、日本の教育力を活かすICT活用は、日本で考えなければなりません。
導入期に様々な課題や抵抗感、誤解があったとしても、結局は教育の質、指導の質の向上に貢献するものとして普及していくもの。便利なものは普及していくことは時代の必然といえます。
「情報活用能力」 次のステージへ
今、教育の情報化に関わる動きが再度盛り上がり始めています。事業仕分で廃止判定されたとはいえ、フューチャースクール推進事業も継続の予定で、各校では確実に成果が上がってきています。様々なICTツールやシステムも増え、教育の情報化にとって今は大変重要な時期といえます。
教育の情報化にはいくつかの段階があります。
これまでは、教育の情報化の普及・啓発、啓蒙・支援を重視しており、そのことから、どちらかというと学力向上のためのICT活用や教員のICT機器活用力の育成に比重が置かれてきました。いわゆる普及・啓発活動は引き続き継続していく必要がありますが、今後は次のステージへ踏み出す段階にきているといえます。
「次のステージ」とは、児童生徒の「情報活用能力」の育成です。
お互いの情報をどう補完し、新しいアイデアにどう結び付けていくのか。フューチャースクールに見られるような新しい学習環境は、どのような学力を伸ばしていくことができるのか。
タイミング良く、情報活用能力に関する学力調査も今年度末からプレスタートします。
もちろん地域・学校格差はまだあり、トップを走る学校・地域との差が拡がる一方であるという段階の学校、これから習得・活用から始めなければならないところもあるでしょう。それを踏まえてサポートしつつ、次の段階を示し、新しい時代に適合した情報活用能力について関心を移行していく転機にあるといえます。
共同から協同、そして協働へ
学習形態には、一斉学習、個別学習、協働学習があり、ICTを活用したそれぞれのスタイルを確立していく必要があります。
普及・啓発段階に注力した一斉学習におけるICT活用は、ひと通り事例が出そろった感があります。
個別学習についても、過去のCAI学習にさらに評価活動を付加するなどという発展形であり、導入による効果はある程度予測がつく段階です。
最も未知な世界が、1人1台の学習端末における協働学習です。
「きょうどう」には、共同、協同、協働という文字があります。
総合的な学習の時間の開始に伴い、同じことを共にする(共同)のではなく、協力してやっていくべきなのでは、ということから「協同」学習と呼ばれることが多くなりました。
現在は、協力して同じことに取り組むだけではなく、協力してコラボレーションしていく、という意味で「協働」が多く使われるようになりました。ネットワークを介して1人1台の学習端末を前提とした学習についての研究はまだ始まったばかり。もっともっと研究していかなければなりません。
ICTマーク認定制度日本版
学校の指針に
イギリスでは、企業と学校関係者、研究者で構成される、NAACEという教育の情報化を推進する団体が教育の情報化の基準を示し、その指針を基に各学校がどこまで進んでいるかをチェックできるシステムがあります。これにより、学校の情報化を進める際、自校がどこまで進んでおり、今後どこに注力していくべきかの判断基準とすることができます。
また、一定基準を満たす学校には「ICTMark」が付与されます。これを日本化、日本版「ICTマーク」認定システムを構築することが、次にJAETが取り組むべきことではないかと考えています。
山西前会長とイギリスを視察したところ、ICTマークの付与は学校経営に対するアワードであり、保護者からの信頼を得るものとして機能しています。プログラム作りには時間がかかりますが、前向きに取り組んでいきたいと考えています。
日本教育工学振興会(JAPET)が発行している「先生と教育行政のためのICT教育環境整備ハンドブック2012年版」が好評だ。毎年発行しており、全国の教育委員会に無料で配布しているが、本年は教員研修のテキストとして使いたいと数百冊単位で追加の要望が届いている。教育の情報化における活用から整備、教育の情報化実態等の調査内容までコンパクトにまとめられ、図版も多く見やすい点から、ICT環境の導入前後に教員の理解や活用を図る目的で使われているようだ。
第1章では、教員や児童生徒におけるICT活用場面やそのメリットを紹介。ICTの活用頻度と平均正答率の関連についても記載した。学習指導要領に示されたICT活用場面もピックアップされている。
第2章では、普通教室、コンピュータ室、校務用、クラス用PCの整備や活用についてとめるとともに、文部科学省調査「学校における教育の情報化の実態等に関する調査結果」(速報値)からICT環境整備の状況について掲載。
第3章では、ICTの有効活用のために重要なこととして、支援体制や教員のICT活用指導力の向上、情報セキュリティ、情報モラル指導について言及されている。
第4章では、予算確保に役立つ資料が満載だ。地方交付税によりどのようなICT環境の整備が可能か、教委、財政当局、管理職、先生方はどのような働きかけが重要であるかについて詳説した。
資料として、都道府県別の教育の情報化の現状について一覧を添付。学校の環境整備や活用の進捗に役立てたい内容となっている。
送料実費。PDFもダウンロードできる。問合せ=JAPETTel03・5575・5365
【2012年10月8日】
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