平成24年3月7日、文部科学省は、新学習指導要領の趣旨を踏まえた「学力向上等の方策に関する調査研究成果報告会」を文部科学省講堂で開催した。当日は、調査に協力した秋田県教育委員会、徳島県教育委員会、千葉市教育委員会から成果が報告された。
学力向上に成果を上げた取り組みが報告された |
文部科学省初等中等教育局の長尾篤志視学官は、現在の子どもたちの学力の現状と新学習指導要領改訂のポイントについて報告した。
全国学力・学習状況調査は当面、全国約30%の抽出調査及び希望利用方式で実施、数年に1度は「きめ細かい調査」を行う。次回は平成25年度に予定されている。
きめ細かい調査によって、市町村・学校レベルの状況を把握、施策効果の検証を行うと同時に抽出調査による精度の維持・向上を図り、市町村、学校等における検証改善サイクルの構築に役立つようにする。きめ細かい調査の分析結果を、まずは速報として翌年度までに学校・教育現場に公表する予定だ。
「全国学力・学習状況調査の調査問題を踏まえた授業アイディア集」
http://www.nier.go.jp/11chousa/ (平成23年11月に公表)
千葉市では、千葉市立轟町小学校、及び緑町中学校で調査研究事業を実施した。
轟町小学校において、全国学力・学習状況調査結果を分析すると、算数Bにおいては、「誤答している」児童のうち35%が「問題の内容を理解」しており、表現方法が不十分なために「誤答」になっていることが明らかになっている。児童の実態として、発表内容、記述内容が相手に伝わるものになっていないことから、「国語以外でも言語活動は重要である」という共通認識の下、論理的に表現できる力の育成を目的とし、言語を耕すためのスキル学習や日常活動に全校で取り組んだ。
言語活動の充実の3本柱は「わかる授業の創造」、「言語を育てる活動の重視」、「効果的なICT活用」だ。
「言語を育てる活動」としては、全国一斉の朝の帯時間において「よみよみタイム」「かきかきタイム」を設定したり、集会や総合的な学習の時間などにおける発表の場を設定したり、俳句や漢字うたなど言葉を楽しむコーナーなどを充実させた。
「かきかきタイム」は、学年ごとに目的を設定、それについて書く内容を設定する。
例えば2年生は「順序良く書く」を目的に「4コマ漫画を活用してお話を書く」、4年生では「要点をまとめて書く」ことを目的に「新聞記事を活用して感想を書く」、6年生では「事実と考えを区別して書く」を目的に「条件に合わせた短文を書く」など。
「よみよみタイム」は、低学年では教科書教材の音読、4年生以上は古文や漢文などの音読や、出前授業など。
また、話し合い活動においては、「話し合いましょう」ではなく「たくさん考えを出し合いましょう」、「結論を1つにしぼりましょう」、「自分と違う考えを見つけましょう」など、目的をもった言語活動を意識して展開。発表の際にも「考えを持つ」「説明する」「他の人の意見を参考に考えを再構築する」という段階を踏まえてコミュニケーション能力育成に取り組んだ。
ICT活用としては、電子黒板やデジタル教科書、書画カメラなどを各教科で活用している。拡大提示することで理解が深まるのが活用のメリットだが、今年度はそれに加え、学習過程のまとめや交流場面での活用、児童生徒主体の活用を重視した。
デジタル教科書などの活用が進むにつれ、自作コンテンツも増えており、今後はさらに電子黒板等の活用方法を発信、その効果や評価方法を検討していく考えだ。
秋田県では、子どもの実態を踏まえ、本年度の重点課題を「『問い』を発する子ども」とし、「授業改善」について、県、市町村、学校が共通認識を持つために年2回「全県指導主事等連絡協議会」を開催、学校訪問指導をするなど、連携チームで授業改善に取り組んできた。
県では平成14年度から毎年12月上旬に学習状況調査を行っている。対象は、小学校4〜6年、中学校1、2年を対象に学習意欲と主要科目(小学校4科、中学校5科)。結果等は1月、報告書は2月に学校に通知するというスピード集計だ。それに伴って各学校では、具体的な方策、補充的な指導などを1月に実施、次年度の教育計画等に反映させる。
これを平成23年度は、全国学力調査の趣旨を踏まえた出題内容とし、複数学年で共通問題を実施、高校入試の課題を踏まえた出題、「問いを発する子ども」の育成に資する出題を盛り込むことにより、効果を検証した。
大仙市では、秋田大学と連携したり合同で研修するなど、小中学校の教職員と教育委員会が一体となって「学力向上」を下支えする仕組み作りに総合的に取り組んでいる。
興味深いのは「ノート指導」で、小・中学校共に「計算したり板書を写すノート」から「思考力・表現力を伸ばす」ノート指導に系統的・発展的に展開しており、成果を上げている。
また、中仙地区の小中学校6校では共通で、家庭学習の各学年における取り組み時間や内容について記した「家庭学習推進の手引き」も配布、家庭との連携にも力を入れ、具体的な学習時間の目安も示した。
これらの取り組みにより、推進校からは思考力・表現力等「活用に関する力の向上」に成果があったとの報告。大仙市立中仙中学校では、5教科合計で中1は小6時より8・5ポイント、中2は中1時より10・0ポイント上昇し、特に中2時の伸びが顕著であった。今後は本成果を広く県全体に広める考えだ。
徳島県では、平成23年の重点課題を「知識・技能を活用して課題を解決する力の育成」、「習得・活用・探求」の学習活動の充実、家庭学習の習慣づけと家庭との連携などを掲げ、各推進校における成果の普及啓発のための発表会や、学力向上推進員研修会などを開催した。
また、県独自の検証改善サイクルにより、各調査の集計・分析結果の提供や改善指導などを行った。
指導主事は24市町村教育委員会や県立中学校を訪問し、これら分析結果について各教育長や県立中学校長に説明したり、推進校2校の研究発表会を開催すると共に学力向上のための指導資料集CD(平成23年度版)を配布した。
これらを受け、各校の学力向上検討委員会は、調査から明らかになった自校の課題解決のための改善策を策定し、平成24年度学校版「学力・学習状況改善プラン」に反映させた。
推進校である吉野川市立知恵島小学校は、歴史的な考察や海外との比較から、「授業力の向上に必要なものは授業研究会の回数。量の積み重ねが質の向上をもたらす」とし、事後の検討に時間をかける授業研修会を、年間100回行うことを目標に取り組んだ。
授業をビデオに撮影してそれを長期休業日に見て事後検討・意見交換することや、指導案を書くこと、参観者は1名以上、授業後に意見を交換することができれば授業研究会として認めることで、100回の研究授業を実現した。
基礎基本の定着のため、日課表を改訂し、朝学習の時間を20分間確保、そこでドリルや読書、定期漢字テストなどを行い、テストやドリルの正答率は80%以上という数値目標を掲げた。
読書会では、長い作品を最後まで読み通す力をつけるため、名作文学を班に分かれて交代で音読する試みに取り組んだ。
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新聞を活用した学習でも、発達段階に合わせたNIE学習として、記事のスクラップ作りに取り組んだり、指導者による記事の読み聞かせを行った。図書室に新聞を読みに来る児童の姿も見られるようになったという。家庭との連携も重要だ。家庭学習の時間の数値目標を立て調査し、家庭学習の手引きを配布した。日頃からの家庭や地域との結び付きを大切にできるよう、行事へ参画を推進した。
これらの取り組みから、国語の勉強が好きであると答える児童数は増え、原稿用紙2〜3枚の感想文や説明文を書くことについての苦手意識が減り、昼休みや放課後、休日に図書館へ行く児童生徒、新聞やテレビのニュースに関心を持つ児童数が劇的に増えたという。
国立教育政策研究所 改善事例をまとめ公表
国立教育政策研究所では、平成19年度からこれまで4年間実施されている全国学力・学習状況調査から、今後の取り組みへの期待についてまとめた。
正答率おおむね80%を上回るものを「成果あり」、70%を下回るものを「課題」として明示して分析した。
特に課題として考えられる内容については詳細な分析を行う。また、学習指導のポイントや授業アイディア例などを掲載した情報を冊子化して販売すると共に、4月以降国立教育政策研究所HPに掲示する予定だ。
【2012年4月2日号】