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【ICTで「学校力」を強化】 教育の情報化推進フォーラム報告

 3月2・3日、平成23年度「教育の情報化」推進フォーラム(主催=(財)コンピュータ教育開発センター、以下CEC)が東京都内で開催され、2日間で約1580名の教育関係者が参集した。ICTを活用した様々な学習成果の発表から一部を紹介する。

【特別講演】PCの時間の流れ 子ども向に配慮を

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東京工業大学・本川達雄教授が特別講演

 本川達雄教授(東京工業大学)は特別講演「ゾウの時間・ネズミの時間・コンピュータの時間」で、「ブログやツイッターで発信することはできても、一文一文に責任をとる必要がある客観的な論理的文章を書くことができない学生が目立っている。好きなものだけを選択して世界を構築しやすい環境であり、現在の"好き好き市場主義"には危険を感じる。それでは世界を正しく認識できない。PISA調査で点数が伸びない理由のひとつに、問題文が世界共通のため翻訳調の文章であり、読み通せないことがある。好きなものではなくても付き合っていくことができ、難しくてもじっくりと取り組むことのできる学力を育むためには、論理的な文章を目にする機会を増やす必要がある」と話す。

  また、「同じ1時間でもゾウにとっての1時間、ネズミにとっての1時間は異なるように、大人の時間、子どもの時間の流れも異なる。コンピュータを使うと1時間でできる作業量は間違いなく増え、時間の流れが変わってくる。子どもにとってふさわしい時間の流れを考えていくことが重要では」と今後のPC活用の視点のひとつを示唆した。

【大分県の教育クラウド】教育情報化SNSを

 釘宮隆之氏(教育財務課情報化推進班主査)が教育委員会に赴任した当時、大分県の平成19年度LAN整備率は全国38位、教員用PC整備率は44位、インターネットはPC教室のみ、学校には私物PCが当たり前のように使われておりセキュリティの認識も低いという状況であった。それが平成21年度にはLAN整備率全国2位、教員用PC整備率も全国5位にまで押し上げた。現在は、教職員1万人分の教育クラウド「OENシステム」を整備し、職員として教育情報化ファシリテータや教育情報化コンシェルジュ、コールセンターをアウトソーシングで整備。リモート操作もできるなど、資金が潤沢とはいえない中、組織化して教育サービスの充実に取り組んでいる。

  なお平成22年度はスクール・ニューディール等による他県の整備が進み、大分県の順位は下がっているが、これについて釘宮氏は「ポイントは、一気に同一環境で全県整備した点。整備後はサービスや人材に予算をシフトさせており、順位を上げることが最終目的ではない」と話す。

ハードからソフトへ

  「校務用ネットワーク」と「授業用ネットワーク」は別れて利用できるようになっており、各学校へは、フィルタリング、学校用CMS(HP作成システム)、電子メール、セキュリティ対策、WSUS、コンテンツサービス、教育クラウド、SNS、ヘルプデスクなどの提供を行っている。

  教育クラウド環境「OENシステム」は、頑張る先生を支援するとともにセキュリティも確保するために構築したシステムだ。高速・大容量情報通信ネットワーク内の教育専用回線で、大分県内の県立学校及び17市町村立学校約3万5000台のPCが接続されている。

  インターネット経由で様々な情報にアクセスできるため、事務連絡や教材作りの効率化や共有が可能だ。

  「あと数年もすればスマートフォンをほぼ全ての人が所有する状況になる。PCは使わないがスマホは使う、ということが予想される。スマホは電話もできる小型PC。教育クラウドを活用することで、PCなし、スマホだけでもプレゼンすることができる。クラウドはタンス預金から銀行預金するようなイメージ。銀行からカードでやりとりするようにデータをクラウドから利用できる」

  クラウドシステムを構築しても、使われなければ意味がない。そこで、のべ130回の研修を実施、メールの利用平均は1600人/月に、ドキュメントの利用平均は3000人/月にまでなった。

  また、フェイスブック「教育友の会」も立ち上げた。10か月を経た現在約600人が利用しているという。

  「実名だからこそコミュニティとして成長しやすい。学校CMSと連携している学校も出ており、その結果、学校HPへのアクセス数は3倍に増えた。地域の情報化は、市町村ごとに別々のシステムを構築するのではなく、協働化できる部分は協力して運営を行うという方向性を決定することが近道だ。そこでどんな働き方をするかに意味がある。仕事はもっとできるようになる」と述べた。今後は特別支援学校を中心にタブレットPCの学習環境モデルの構築に着手する考えだ。

【特別支援のICT活用】千葉県立仁戸名特別支援学校・大阪府立寝屋川支援学校

■lCTで“ひとりぼっち”軽減 ―千葉県立仁戸名 特別支援学校

 千葉県立仁戸名特別支援学校は病気療養児の学習活動を支援する病弱教育の特別支援学校だ。小学部から高等部まであり、自宅通学が許されている普通学級、隣接病院に入院している重複学級、隣接病院以外の病院に入院する児童生徒などが在籍する訪問学級の3学級がある。

  学校の性質から、年間約170件の転出入があり、うち1割が県外出身者、2割が通学生だ。

  児童生徒の実態は様々で、学校で一堂に会することは難しく、それぞれの体調に合わせ、学校、病院、家庭で活動に取り組んでおり、「ひとりぼっち」の時間が長い。

  そこで、ICTを利活用することで、離れた病院や病室であっても、学校の児童生徒と同様に学習や行事に参加し、「今」を共有できる学習環境の構築に取り組んだ。

  ICT活用の中心は、ストリーミング中継とビデオチャットだ。

  ストリーミング中継では、インターネットを通じてリアルタイムで授業や行事等の映像を家庭や病室に届けた。中継カメラによる一方向通信であるため、それぞれの体調に合わせ、病室で横になるなどリラックスした状態で行事等の様子を視聴できる。

  ビデオチャットでは、学校と病室等複数の児童生徒(10か所まで)を双方向で繋ぎ、Webカメラとマイクを付けたPCで意見を述べたり、文字や絵で表現したり、資料を提示するなどで意見交換ができる。

  なお治療によりインターネット環境のない病室の場合は、モバイルルータを利用した。主に訪問学級で活用している。

  これらの仕組みにより、入学式や卒業式、離任式の様子をストリーミング中継したり、文化祭ではフィナーレで病室等とビデオチャットしたり、全校行事で応援合戦に参加したり、ALTの授業や理科実験などもビデオチャットやストリーミング中継などで参加できるようになり、3つの学級の児童生徒に所属感や一体感、病室でも行事や学習に取り組めるという安心感が生まれ、心理的な安定や学習意欲の向上につながったという。

  また、特別支援学級児童の行事参加は、集会担当の児童生徒の活動意欲の向上や思いやりの気持ちの向上にもつながった。

  同校では今後もICTを利活用した学習支援の工夫改善につとめ、より質の高い教育の提供に努める考えだ。

■インテリキーで自作教材 ―大阪府立寝屋川支援学校

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自作キーボードを多数作成することで児童の表現
手段が増えた

 同校情報教育部長の森脇教諭は、インテリキーUSB(以下、インテリキー)を使い、児童の実態に合わせた教材作りの実践について報告した。

  インテリキーとは、通常のキーボードの代わりにUSB接続してPCを操作できる代替えキーボードだ。

  通常より大きく見やすくなった数字やアルファベット、マウス操作の代わりになる矢印キーなどのシートがあり、操作ができるようになる。

  このシートをオリジナルで作成できるのが、インテリキー付属のソフト「オーバーレイメーカー」だ。森脇教諭は「オーバーレイメーカー」で、色の学習やひらがなの学習、選択問題など様々なオリジナルキーボードを作成しており(写真)、それによって中〜重度知的障がいのある生徒でもキーボードやマウス操作を避けつつ情報機器を利活用し、意思表示を容易にしたり学習を容易に進めたりすることが可能になった。

  例えば、「トイレに行く」「着替える」など日常生活のシーンや、食べたいもの、行きたい場所、したいことの絵、YesNoボタンなどをPPTなどで作成し、インテリキーに差し込む。

  これにより、相手の顔を直視できない生徒や発話が難しい生徒でも意思表示したり、コミュニケーションを取りやすくなったという。

  教材はネットで共有し、希望する保護者にも配布している。これまで、家庭にPC等があったとしても「壊す、危ない、誤操作する」などの理由で情報機器に触れることができなかった子どもがインテリキーの活用により、家庭でもPCを触れる機会が増え、コミュニケーションや表現手段が増えたという。

  森脇教諭は「知的障がい生徒にこそ情報教育をという強い思いで実践してきた。インテリキーならば、1人ひとりの障がいの度合いによって、アイデア次第で様々な教材を簡単に作成できる。今後も目の前の生徒を常に意識しながら特別支援学校に情報教育を普及させていきたい」と語った。

情報モラル教育の指導者を養成するセミナーを実施

 「学習指導要領における情報モラル教育に向けて‐全ての教員が情報モラルを指導するために‐」では藤村裕一氏(鳴門教育大学准教授)がコーディネーターを務め、パネルディスカッションが行われた。パネリストは佐久間茂和氏(台東区立東泉小学校前校長)、高橋邦夫氏(千葉学芸高等学校校長)、木村和夫氏(台東区立浅草小学校校長)の3名。

  新学習指導要領では、各教科等の指導の中で情報モラルを身に付けることが新たに明記されているが、一部の情報教育担当以外それについてほとんど知られていない現状がある。要因として、新学習指導要領における教科等への位置づけの不明確さや基礎的理念・理論への無理解、具体的指導例・教材の不足と所在の不明確さ、教員用研修教材の未整備、ICTを得意としない教員に配慮した支援の欠如などがあげられた。

  CECでは、より広く情報モラル教育を展開するため、今年度より各学校の情報教育担当の教員を主な対象とした「情報モラル指導者育成セミナー」を実施している。セミナー後は研修成果を踏まえ情報モラル研修を自校に戻って計画する。2011年度は全国18か所で開催され、総受講者数は600名を超えた。受講アンケートでも、セミナーの有効性に関する項目で90%を超える肯定的回答があった。

  講師育成セミナーは来年度も継続して開催される予定だ。

【子どものニーズに応じたICT環境づくりを】上田市立川辺小学校

   「東日本大震災支援活動『今私たちができること』‐アルミ缶・牛乳パック回収の収益金を義援金に&節電対策(グリーンカーテンプロジェクト)‐」を発表したのは片田保幸教諭(長野県上田市立川辺小学校)。片田教諭は「現代の子どもたちのICTスキルは非常に高い。教員は、ICTをどう教えるかと構えるのではなく『子どものニーズに応じたICT環境作り』について積極的に考えることが必要では」と語る。

  今年度、東日本大震災に対して、自分たちの力でできる活動はないかとの思いを胸に、アルミ缶・牛乳パック回収による売上金を義援金として被災地へ贈る活動がスタート。少しでも多く回収する方法を児童と話し合い、地元ケーブルテレビ局でPRニュースを流す、手作りのチラシを地域に配布する、1年生にもわかる児童集会を開く、横断幕を使って呼びかける、震災の被害実態調査をまとめるなどのPR作戦が進められた。

  ニュース番組作成の取り組みでは、昨年度、5年生の担任時に取り組んだニュース番組作成・CM作りの経験が活かされた。活用されたICT機器はビデオカメラ、デジタルカメラ、動画編集用のPCなど。児童はアナウンサー、カメラマンなど様々な役割に分かれて、絵コンテによる構想から台本作り、学級全員による番組編集会議まで行われた。

  アルミ缶・牛乳パック回収を呼び掛けるチラシ作りでは、PCから活動写真の取り出し、ワードによる文字編集などを教室で行える体制を整えたが、「手書き感を残したい」という児童の思いから、1枚1枚のチラシに色鉛筆で彩色し、手書きの文字やイラストを挿入するなどしてチラシを作り上げた。義援金の送付先情報の呼び掛けも記載したところ、地域の方から多くの反響も得られたという。

  「より良い義援金の送付先は?」「復興を祈るために作りあげる千羽鶴の意味は?」など児童の必要観から導き出されたのは「インターネットを使って調査学習を行いたい」というもの。家でも進んで調べてくるなど、児童自身が手掛かりを要求し、主体的な調査学習に取り組むことができた。

  片田教諭は「インターネットでの調査学習は、児童の気持ちとマッチした、より良いタイミングで行うことが大切」と語った。

  義援金は3か月で11万2100円が集まった。送付先調査の結果、上田市社会福祉協議会と岩手県大槌町とのつながりが分かり、大槌北小学校に義援金のほか、全校の心も届けようと、6年生全員が書いた顔写真入りメッセージ、全校で折った千羽鶴が届けられた。

  また「全校で節電対策を進めたい」との思いのもとに、朝顔とゴーヤによるグリーンカーテン作りも行われた。効果検証や環境省主催のグリーンカーテンフォトコンテストへの応募、収穫したゴーヤの給食利用など様々な活動につながった。
片田教諭は「ICT機器は場面に応じて有効に使われた。支援活動から地域と一体になってリサイクル活動ができ、節電対策から環境教育ができたこと、様々な人と人との絆を持てたことに価値があった」とまとめた。

 

【2012年4月2日号】


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