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【特集】学習者用端末で実現する授業とは

フューチャスクール

 H22年度の総務省「フューチャースクール推進事業」を引き継ぎ、文部科学省「学びのイノベーション事業」と協力して今年度も、学校現場におけるICT環境の運用面での課題抽出や協働教育プラットフォーム(教育クラウド)の活用方策の検討、ICTを効果的に利活用し児童がお互いに学び合い,教え合う「協働教育」の推進、および児童1人ひとりの「個に応じた教育」の推進を目的とした調査研究を行っている。同実証研究校としてICT機器の効果的な活用を図りながら協働学習の実現に向け実践に取り組んでいる2校の研究発表会を取材した。

ツールに制限されない思考力を育む

大阪府箕面市立萱野小学校

 2月3日、大阪府箕面市立萱野小学校(南橋正博校長)で公開研究会が行われた。

  萱野小学校は児童数590名を超える中規模校だ。中規模校において、1人1台のタブレット型PC(以下TPC)や全普通教室に整備された電子黒板(以下IWB)、校内無線LAN環境が円滑な学習環境を提供するためにはどのような仕組みや機器が必要なのかについて検証されており、その環境を活かした授業に取り組んでいる。1年を経た使い勝手を反映し、本年は電子黒板用PCの速度UPや無線LANエリアの体育館・屋外への拡張、授業支援ソフトのアップデートなどが行われており、活用環境が向上した。また、国語・算数・英語の学習者用デジタル教科書も数単元分を導入、活用が開始されている。当日は「協働学習」を視野に入れ、「意見交流」を主眼に置いた授業が公開された。

国語4年TPCで発表内容をアドバイスし合う

  国語「とどけよう自分いろ かなでようみんないろ〜写真・言葉で伝えあおう わたしの成長物語〜」は、1/2成人式にあたる10歳を迎えるにあたり、自分のことをよく知る人から聞き取りをし、自分の成長を"わたしの成長物語"としてまとめ、発表を行う授業だ。

  グループ内で、TPCのディスプレイを相手に向けてスライドを提示しながら1人ずつ発表する。発表後は、友だちの成長物語の良かったところ、もっと知りたいことなどのコメントを記入して発表者に手渡していた。「言ったことの後に理由も言っているところが良いと思った」、「字が少なくてスライドがわかりやすかった」など、良い点が具体的にわかること、改善に役立つコメントが見られた。

算数6年TPC介した意見の交流で解き方を考える

 6年生算数「FUTURE算数〜ICTで意見交流型学習〜」は、長方形ABCDの周上を点Eが一定の速さで移動する際の三角形ADEの面積の変わり方を示すグラフを求める内容だ。まず個人で考え、TPCを活用して考えをまとめる。その後、グループ内で意見交換を行い、よりわかりやすく、簡単に求められる考え方を選んでいく。最後にクラス全体で意見を交流し、学習内容を振り返った。

  「自分の意見を残したまま他の意見を付け足すことができる」、「色分けして記入できるため考えをまとめやすい」、「拡大縮小しながら意見交流を行うのでわかりやすい」などのICT利点を活かしていた。

ICT活用 ICT活用
発表内容をグループ内で見せ合い、アドバイスし合う(国語)
ICT活用 ICT活用
解き方を発表し合い、よりよい考え方について検証する(算数)

 

成果1 交流機会が増えた

  授業後の分科会では、本年度の取り組みを振り返った。

  今年度のICTを活かした授業づくりの視点は「子どもと子どもをつなぐ」「子どもと学びをつなぐ」「子どもと社会をつなぐ」の3点だ。

  「子どもと子どもをつなぐ」視点を意識した授業の1つにはコラボノートの活用がある。これはPC上のワークシートに書き込みを行い意見交流ができる協働学習支援ソフトウェアで、学級や学年を越えた意見交流がしやすくなり、子どもと子どもがつながる授業が展開できる。

  TPCの活用によって、学習の中で自然に子どもどうしが使い方を教え合ったり、学習内容を交流したりする場面が増えてきているという。

成果2 発表機会が増えた

  「子どもと学びをつなぐ」視点を意識した授業でも、IWBやTPCが活躍している。

  IWB上に教材や発表資料などを大きく提示することで学習内容が共有しやすくなり、発表機会が増え、相手に伝わるような情報発信をするために必要なことについて学ぶ機会が増えた。児童がまとめた電子新聞など発表資料の作成は、TPCを使うことで見出しや文章の加筆修正が容易になった。

成果3 社会と関る機会増えた

  「子どもと社会をつなぐ」視点を意識した授業も多く展開されている。1つは2年生の「校区たんけん」の授業で、お気に入りの場所をデジタルカメラで撮影してクラスで発表を行うというもの。3年生では「総合」の時間に調べた地域の素敵なところをCMにして発信した。「視聴者」を意識するために地域の人からのコメントを参考に練り直す活動などを行った。

  今後に向け、助言者の1人である西森年寿氏(大阪大学大学院准教授)は、「ICTも表現手段の1つと捉え、ツールに制限されない思考力を育み、デジタルとアナログのメリットを取捨選択できる力を育むことを意識していくと、より良い活用に結び付く可能性が高まるのでは」とコメントした。

山形県寒河江市立高松小学校

 1月25日、山形県寒河江市立高松小学校(伊藤順一校長)では3年生算数、5年生国語の公開授業が行われた。

  同校では学校研究の主題を「学び合い、高め合う子どもをめざして〜『自己学習力の育成を図りながら』〜」とし、研究の視点として(1)課題への興味関心を高め、自身の考えを持つ子ども(2)かかわりを通して「学びを深める」子ども(3)自他の学びを振り返る子どもの3点を定め実践に取り組んでいる。

  全体会では、これまでの取組みからTPCの活用事例として、録画機能・カメラ機能の活用、グループ学習での活用、調べ学習、習熟のための活用、デジタル教材・デジタル教科書教材の活用などが紹介された。
IWBでは、書写や分度器などの使い方の説明、拡大表示と共有のための説明、デジタル教材・デジタル教科書教材の活用が紹介された。

  また、IWBとTPCを併用した事例として、自作教材などの効率的な配付、考えの比較や説明、共有のための画面転送、考えや作品の巡回による解決のヒントの獲得やお互いの良さの発見、巡回による子どもの学びの把握・評価と指導などが紹介された。

算数3年

3年生算数の授業(授業者=渡邊幸教諭)は「計算のきまり」。

  この日は「1まい40円の絵はがき5まいと50円の切手を5まい買いました。代金は合わせて何円ですか?」という問題を解く。前単元で「べつべつに解く方法」と「まとまりを考えて解く方法」を学習しているが、まだ、きまりとしての認識ができていない段階のため、この授業で決まりを確認し理解させる事がねらいだ。

  考えをまとめるための学習シートが1人1台のTPCに配付され、児童たちは図も活用しながら個別に考えをまとめる。(40+50)×5=(40×5)+(50×5)の2通りの式について図を利用したりしながら読み解いた。この時に教師用TPCでは巡回機能を活用し、児童の考えを把握し、つまずいている子どもを見つけて助言をしていた。

  児童がTPC上の学習シートに記入した図や式をIWBで巡回提示し2通りの考え方を取上げて提示し、考えを全員で共有した。なお、TPC上で児童が作成した学習シートは印刷し学習の足跡として算数ファイルに綴じて保存されている。

電子黒板
TPCを家庭に持ち帰りテキストに線を引くこ
とが宿題だ
電子黒板
TPCでまとめた人物像について発表し合う
TPC持ち帰り 家庭学習で活用

国語5年

5年生国語の授業(授業者=鈴木浩司教諭)は「大造じいさんとガン」。この時間は大造じいさんと残雪の関係に注目して読み、どんな人物なのかを友だちと交流しながら考え、自分なりに捉えていくことを目標とした授業だ。

  TPC上のデジタル教材「大造じいさんとガン」には、大造じいさんの人物像を表している表現に付箋やラインを引いてある。これは、本時前にTPCを持ち帰らせた宿題だ。

  授業では大造じいさんの人物像について、本文の表現を根拠としながらグループ内で話し合った。

  「残雪を逃がしているので正々堂々と戦いたいと思っている」、「残雪を撃たなかったので、潔い人だと思う」など、グループ内で話し合う際にも、色を変えるなどして他の友だちの意見をチェックしている姿が見られた。

  グループ内で人物像を話し合った後は、友だちの考えで共感できるものがあれば自分の考えに取り入れながらワークシートに人物像をまとめた。ワークシートの作成時はキーボードを使って文字を打つ児童、ペン入力で記入する児童など、それぞれが使いこなしていた。

  伊藤順一校長は、「研究を通して大切にしてきたのは、ICT機器は何でも可能にする魔法の道具ではなく、使うことが目的ではないということ。子どもの思考の変容をどう見取っていくか、より効果的な活用のためにどの場面でどのように活用していくか、など課題はありますが、授業を行うのは教師であることを肝に銘じ、今後も研究に取り組んで行きたい」と語った。

教育スクウェア×ICT

 学校と家庭を教育クラウドでつなぐ「教育スクウェア×ICT」の取り組みが進んでいる。全国5自治体の公立小・中学校計10校の各実証校では、国立天文台やハワイ観測所との遠隔授業やプログラミングツール「VISCUIT(ビスケット)」を活用した授業、ICT活用による総合的な英語力の強化、「タブレット端末」の家庭持ち帰り学習など様々な授業や学習支援が展開されている。川崎市立南百合丘小学校の「総合的な学習の時間」で「ビスケット」を使った授業を取材した。

プログラミングで協働学習の可能性
電子黒板
オリジナルアイコンを作成、動きをプログラミ
ングする

 同校5年生の4クラス全員には、1人1台の7インチタブレット(Galaxy Tab)が提供されている。タブレットには児童の名前が書かれており、各自が自分専用の端末で授業を受ける。

  「ビスケット」は、希望する学校に提供しているビジュアルプログラミング言語だ。システム開発はNTTの研究開発所。初心者から大人まで、直感的にプログラミングできるもので、アルゴリズムについて自然に体験できる。

電子黒板
1人ひとりのプログラミングをク
ループ1台のPC上で合体する

 授業では、ビスケットを使ったプログラミングの方法を電子黒板で説明した後、児童はグループごとの作成テーマ「海」や「宇宙」、「空」などに沿って、タコやイカ、富士山など思い思いの絵をタブレットを使いって作成、それに動きをつけていった。ゆっくり落ちたり回転したり、尺取り虫のような動きをつけたり、時には思いもよらぬ動きになる経験を重ねながら、プログラミングのアルゴリズムについて体感する。各自の絵や動きを完成させたら、グループに1台あるPCに送り、グループ全体のアニメーション作品として動きを確認、完成に向けて修正を加えていく。

  1人ひとりのプログラミングをグループごとのPCに送って作品を完成させる仕組みは、フィールドトライアルならではのもの。協働学習の一歩として興味深い仕組みだ。現在は思い思いの作品を合体させる方式だが、全体像を細かく考えてから共同作業で役割分担を考え、想定した作品作りに取り組むなど、今後の展開が期待できる試みと言える。Viscuit =www.viscuit.com/

 

 

【2012年3月5日号】


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