教育家庭新聞社では、ICT活用の推進に役立つ事例・情報交換の場として、東京に続き、大阪で教育委員会向けセミナーを実施した。大阪での開催は第1回。電子黒板、実物投影機(書画カメラ)などの提示機器をいかに整備し活用するかについて、市町村や学校教諭の成功事例や特徴的な事例を取り上げた。
河内長野市では小中学校の各普通教室に天吊りプロジェクター、書画カメラ、ユニット型電子黒板、教育用PCを整備している。プロジェクターを天吊り形式にしたのは常設ですぐに使えることを意図したものだ。特別教室には大型のデジタルテレビを設置、図書室にもインターネットに接続できるノートPC5台を常備した。
また、教育支援センター内のメディアセンターでは、教材開発や研修などの支援を行っている。普通教室からは、校内無線LANによりPC教室のサーバにアクセスし、デジタルコンテンツを活用できる。
安田喜孝氏は、「初めて使う教員であっても、ボタンを押すだけで簡単に使うことができる環境を提供したかった。予想以上に教員のアイデアが膨らんでおり、様々な単元・領域でICT活用が進んでいる」と話す。
例えば中学校英語科では、黒板中央にマグネットスクリーンを配置し、デジタル教科書やビデオクリップを投影して授業を進めている。小学校では社会科で書画カメラを使って地球儀や教科書、ノートを拡大投影したり、算数の授業でプロジェクターからホワイトボードに画面を投影し、児童がその画面に計算式を書き込んだりなど、様々な活用が進んでいる。
栄養士の給食指導にも活用されているという。
普通教室の環境はデジタルテレビではなく、プロジェクターで投影する形式だ。デジタルテレビに比べると画面の鮮明度は低下するが、大きく投影でき、教室後方の生徒もよく見ることができるという。
また、メディアセンターが中心になって、10数年前から海外・国内の学校との交流授業を推進している。海外の交流国は、中国、バヌアツ、ジブチなどの国々だ。
市内の全小学校では、外国語活動の時間に年1回程度テレビ会議を使って海外との交流授業を行っている。また、子どもたちの発言機会を増やすために、少人数グループ同士のテレビ会議も推進している。専門家と結ぶ遠隔授業も行っている。
梶本佳照氏は教員研修の成功ポイントについて「普通教室でのICT活用の研修では、模擬授業形式で実際の授業感覚を身につけることが大切」と語る。
三木市では、ICT研修プログラムに、教科でのICT活用、情報教育、校務の情報化の3本柱を毎年盛り込んでいる。
教科指導に対応した研修は、「わかる授業づくりのための実物投影機活用」の初級編/中級編、ICT活用指導力チェックリストにそって自信のないところを向上させる「ICT活用指導力ステップアップ講座」、児童・生徒の「知識の定着を図るフラッシュ型教材活用」。情報モラル教育(道徳授業)も模擬授業形式の研修で必ず3年に1回は全教員が受講する。
基本的にはグループ単位で授業での活用のアイデアを出し合う研修で、「グループ内には授業構成に熟達した年配の教師もいるので、若い教師の参考になる」と話す。
■機器整備の方法
三木市では平成17年にプロジェクターと電子黒板を3教室に1セットずつ配備した。しかし、設置にかかる手間やデジタルコンテンツの不足で活用は進まなかった。
その後、誰でも使える環境整備を目標に、実物投影機(書画カメラ)とプロジェクターを各教室に1セットずつ整備した。「日常的に使うには全教室への整備が重要であると改めて実感した。まだらな整備では、活用が進まない」と強調する。
整備環境の活用の第一歩としては、実物投影機(書画カメラ)でICT環境を活用することに慣れてから、電子黒板を使用することを推奨している。
「コンテンツを使うことにまず、慣れる。そうするとその効果を教員が肌で感じ、次の段階で電子黒板を使えるようになる。きちんとステップを踏んで機器を活用していった方が結局、デジタル教科書等の活用頻度が上がっていく」と指摘する。
プロジェクターの設置は、スイッチ1つで投影できるのが理想だ。つまり、天井または黒板の上部に設置する方法が良いと言う。
茨木市では毎年ICT活用フォーラムを開催している。5回目となる今年は2月9日、小学校11校、中学校3校のモデル校が4会場で授業事例などを発表した。フラッシュコンテンツを使用した事例、全学年で書画カメラの活用を研究した小学校の取り組み、情報モラル教育の実践など様々な報告が行われた。全小中学校が3年間で1回ICT活用のモデル校になる。
向井啓氏(けいし)氏はフォーラムでの報告について、「当初は、授業にICTを活用すると子どもたちの意欲が増すという発表が多かった。最近では、教員が『よく分かる授業』を追求して活用方法を考察した実践が増えており、活用効果の検証や学校全体への広がりなど実践の深みが増している」と述べる。
茨木市では学力向上への取り組みを重視しており、平成20年度から3か年全教科領域にわたり実施した「茨木っ子プラン22」の検証を踏まえ、23年度から新学力・体力向上3か年計画「茨木っ子ステップアッププラン25」を推進している。
この2つのプランの柱の1つにICT活用を位置づけ、ICT環境整備を継続して推進中だ。現在、各クラスにノートPCが1台ずつ、プロジェクターは3クラスに1台の割合まで整備が進んだ。
加えて小学校ではデジタルテレビを各クラスに1台、ICT活用モデル校には書画カメラを2クラスに1台、学校予算で全クラスに整備している学校もある。
市の教育情報ネットワークで教材を共有できるICT授業実践データベースの運用も平成18年度から開始しており、教員の自作コンテンツや利用したURLを登録している。他の教員が授業をするときにそのコンテンツを改変して使用したり、指導案を参考にするなどの活用が見られる。
また、平成20年度からe‐learning学習支援システムを導入、学習の定着を図っている。児童・生徒1人ひとりにIDとパスワードが配布され、子どもたちは自分で教科学年を選び、各自のペースで学習を進める。学習履歴も残り、理解度に応じた問題が出題される。
沖縄県金武町では平成22年度に町内小中学校4校の全教室に「電子黒板アクティブボード」(ナリカ社)を導入した。朝学習による反復学習の徹底を図ろうとしていた時期、モニター校を設置し電子黒板による反復学習の効果を検証、フラッシュカードなどを電子黒板で提示する反復学習が知識の定着に有効であることが分かり、導入に至ったという。
導入にあたり教員のスキル差が活用の差につながらないように、研修を繰り返した。各自がPC持参で研修に参加、講師の説明に合わせてその場で納得のいくまで電子黒板の操作について研修した。
教員同士で学びあい、ICTスキルの高い教員が不得意な教員に教えることなどを通じて、習得率が高まっていった。さらに、ICT活用指導力の差など、学校の実態に応じた研修を組んだ。
黒板と同様に手書きできる電子黒板の特徴を活かし、電子黒板に児童・生徒の様々な意見を手書きしながら、さらに意見を引き出していく手法の工夫といった活用の発展につながる研修も行った。
教材作りは、各学校を巡回している「IT講師」が支援する。教員の要望を聞き、IT講師が教材を作成するほか、教員も自作する。また、教材データは町内の小中学校で共有し、他市町村へも教材データを提供している。
町内小中学校や他市町村の教育関係者も参加した「電子黒板活用実践報告会」では、学校規模別に実践報告を行った。フラッシュ教材による新出漢字や筆順を提示、100ます計算を行う際に電子黒板にタイマーを表示、デジタル教科書の活用、書画カメラでワークシートを映す、外国語活動や音楽でYouTubeのビデオクリップを提示する、など多様な実践が行われている。
授業では黒板と併用し、電子黒板では視覚に訴える教材、一斉に注目させ確認できるデジタル教科書やフラッシュ教材などを投影するなどの活用が進んでいる。
宜野座幸男氏は電子黒板の効果について、「フラッシュカードなどを用いた振り返り学習が容易になり、導入による学習効果は大きかった。朝の反復学習の時間に大きな声で反復するのが楽しみでそれまで遅刻気味だった生徒が早く登校するようになっている」と強調した。
朝来市立山口小学校(児童数169名)は明治32年開校の歴史ある学校で、100ます計算を早期から実践した学校でもある。
國眼厚志教諭は自前で「電子黒板MimioTeach」(ニューウェル・ラバーメイド・ジャパン社)、「書画カメラMimioView」、プロジェクター、PCなどを揃え、様々なICTを活用した授業を行っている。
「私自身はなるべく楽をしたいからICTを使っている」と会場を沸かせながら、「日々多忙な教員がどうすればICTを活用した授業を行えるか。多忙な中でも、効率よく学習効果が期待できる授業をする‐‐その問いから得た答えがICTの活用」とICTを活用する理由を語り、その「苦労せずに楽をする方法」についてのアイデアを披露した。
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「パワーポイントを作成しなくても提示教材は作れる。パワーポイントにデジタルデータを貼り付けるには、デジタルデータのサイズ変更や修正、実物のスキャンニングなどある程度のスキルと時間が必要になるが、書画カメラを活用することで、パワーポイントのデータを活用する授業と同じような授業ができる」と述べ、実演した。
まず、スキャンしたデジタルデータをパワーポイントに貼り付けて作った教材を電子黒板に投影した。
次に、机上の紙のワークシートを書画カメラで撮影して電子黒板に投影。どちらも同じように提示される。算数の宿題プリントや磁石の働きや電球の仕組みの紙のワークシート、磁石や電球の実物を書画カメラで投影することで、予めデジタル化した教材を使うのと同じことができることを模擬授業で説明した。
「書画カメラを使えば、実物を拡大して映して、投影された画像の上に文字や数字、線を書き込むことができる。これもデジタル活用のやり方のひとつで、プレゼンテーションの方法」と強調する。
デジタル教科書のメリットも評価しており活用し始めているが、「デジタル教科書を使っている最中に書画カメラを活用したい場合、デジタル教科書を終了している教員を見たことがある。両方を同時に操作するには、ウィンドウズバーを出しておくとワンボタンで切り替え操作ができる」とアドバイスした。
【2012年3月5日号】