全教室に整備された電子黒板は上下に 移動できる |
平成21年に開校したさいたま市立つばさ小学校(近範子校長)は、太陽光発電システムや防犯・安全対策、バリアフリー化など、エコスクール推薦事例として文部科学省から紹介されている恵まれた学校環境にある。全普通教室と特別教室には開校当初より上下スライド式の電子黒板(※)が整備されており、デジタル教科書や教材も、国語、算数、理科、社会などが整備済だ。開校当初より2年間、市から「情報教育」の研究委嘱を受けており、今年度は引き続き、ICT機器を活用することで子どもたちの表現力を高める授業作りに取り組んでいる。12月8日、3年1組の算数の授業を取材した。授業者の田山豊教諭は、算数のデジタル教科書(東京書籍)を様々なシーンで活用していた。(※)デジタルテレビ+後付けタッチパネルで電子黒板化。
上巻で学んだ内容もすぐに活用できる |
エディタ機能で作成した 自主教材も提示できる |
デジタル教科書上のキーワード や図を隠して定着を確認する |
新学習指導要領では、各教科において「聞く・話す」、「活動する」場面が求められている。同校では、「ひとり学び」「グループ交流」「全体交流」の3要素が各授業に取り入れられており、この日の算数「三角形のなかまを調べよう」も、3つの学びを意識して授業が進められた。
前時の授業で児童は、12等分した円を使って様々な形の三角形を作っている。まず自分でそれらの三角形の分類方法を考えるのが「ひとり学び」だ。次にその分類方法について3人で「グループ交流」し、最後に考え方を「全体交流」。3つの分類方法「辺の長さが3本同じ三角形」「2本同じ三角形」「長さ全て等しくない三角形」の「発見」に導いていく。グループで考えを交流する際は、3人のうち1人が「司会」となり、お互いの考えを交流していた。
復習にも定着にも
授業者の田山教諭は、様々なシーンで算数のデジタル教科書を活用していた。
デジタル教科書上に書き込んだり、移動したり、シミュレーションで理解を深めたり、上下巻や学年をまたがって既習事項の教材をすぐに提示、復習や確認に利用できるのが、デジタル教科書の特徴だ。田山教諭は、「ひとり学び」に入る際、3年の上巻で学んだ「コンパスを使った長さ比べ」のシミュレーションを提示、三角形の辺の長さの調べ方を復習した。
「全体交流」では、デジタル教科書のテキストや図版を使って編集できる「マイ教科書エディタ」機能を使って作成したワークシートを電子黒板に提示、そこに何人かの児童が自分の考え方を書き込んでいた。田山教諭はそれを印刷して、黒板に提示、それぞれの考え方を比較しやすいようにした。
教室にはデジタル教科書の素材を 使って作成 した「まとめ」を掲示 |
授業の終盤では、予めキーワードを付箋で隠したデジタル教科書上の本文を「振り返り」の問題として電子黒板に提示。児童たちは、ゆっくりと付箋を剥がす田山教諭の手元を注意深く見ており、知識の確認と定着に役立っていた。また、教科書本文を拡大して印刷したものを最後に「まとめ」として黒板に提示していた。
教室前方には、算数の既習事項をまとめた教材が貼られている。「マイ教科書エディタ」の機能を利用、教科書の図版や本文を使って編集、まとめて拡大カラー印刷したものだ。
なお教科書の図版やテキストを使って自主教材を編集・印刷できる「マイ教科書エディタ」機能は、東京書籍の「デジタル教科書」の特徴の1つ。
自主教材作りが 短時間でできる
2学期からデジタル教科書を使い始めたという田山教諭に、デジタル教科書使用前後での児童の変化を聞いた。
「教科書の図版や本文の一部を使って自主教材作りが短時間でできること、シミュレーションが理解の定着や補足に役立つこと、前時の振り返りがすぐにできることなどから、図形の範囲ではほぼ毎時間活用している。デジタル教科書を提示することで、以前は授業が進むにつれ下を向いていた児童が、最後まで画面を見て集中するようになった」と言う。
同校の清水肇教頭は、同校に赴任して1年目。市では毎年PC室とLANの利用率を調査しているが、「本校は現在のところ、さいたま市で最も情報環境整備が整っている学校であると言える。そのためか、教員のICT活用率もさいたま市一高いのではないかと感じている。ハード、ソフト両面からの一体整備とICT支援員のサポートが日常的な活用促進のポイントでは」と話した。
滋賀県立虎姫高等学校(西嶋博純校長)は11月17日、フィンランドの名門校・ヨエンスー高校と無料のコミュニケーションソフトSkypeを使って、テレビ会議を行った。Skypeを通してフィンランドの生徒たちの表情もはっきりと見ることができ、電子黒板内蔵のスピーカーにより、フィンランドの先生や生徒たちの音声をあまり時差なく聞くことができた。
英語で交流する機会が増えた
電子黒板で学校紹介する虎姫高校の生徒 |
フィンランドと日本は7時間の時差がある。そのため開始時間を調整し、ヨエンスー高校では朝8時15分から、虎姫高校は午後3時15分から会議に臨んだ。70分間の会議中、英語で生徒たちが活発に交流した。ヨエンスー高校では英語の授業の1コマとして実施、担当は同校英語教諭のライラ カンガスプンタさん。虎姫高校ではESS部の課外活動として実施した。
ヨエンスー高校は、全国に13校しかない教員研修校(ティーチャー・トレーニング・スクール)の1つで、学生の教育実習も担当できる資格と実力を持つ教員が常駐する。国立大学の附属校である。
虎姫高校は、滋賀県の進学校。複数の大学と連携講座を行っている。また、滋賀県だけでなく東京、大阪にも支部を持つ「姉水会」という同窓会組織が活発で、母校を支援する気風が厚い。昨年創立90周年を迎えた時には、姉水会を中心とする創立90周年記念事業実行委員会が母校に15台の大型電子黒板「アクティブマルチメディアスタンド387Pro」(ナリカ社)を寄付し、普通教室に配備した。
交流テーマは 高校生活や学習
自己紹介するヨエンスー高校の生徒たち |
フリートークで互いの関心事について質問 |
会議は、高校での学びや学校生活について、事前に約6項目の質問を数週間前に送付し合い、回答を準備して実施した。テーマは「Why, what and how do you learn at your high school?」。
当日は、ESS部とコアSSH班の生徒約20人が教室に集合。黒板に固定した電子黒板「アクティブボード95Pro」にフィンランドの生徒たちの映像を拡大投影し、後方に配置した移動型「アクティブマルチメディアスタンド387Pro」に学校紹介等のプレゼンテーション資料を映し出し、フィンランドに伝送した。
まず、西嶋博純校長が「フィンランドと日本の生徒が意見を交換できることはすばらしいこと。生徒たちは一生懸命準備し、今日の会議を楽しみにしてきた。意見の交流を通して友情を深めてほしい。生徒たちは英語でうまく言えない時があるかもしれないが、頑張って話してくれると思う」と挨拶。
次に、ヨエンスー高校のマリタ ホッカネン校長が「フィンランドの人口は535万人。生徒は、必修の英語、スウェーデン語に加えて、フランス語、ドイツ語、スペイン語、イタリア語、ロシア語、中国語など多くの外国語を学んでいる。そのため、外国語とその文化を学ぶことはとても重要。日本の生徒と話す機会が持てることはとてもうれしい」と生徒たちの学習状況と会議の意義を語った。
その後、生徒同士で学校と自己について紹介。コアSSH班男子生徒は、電子黒板に日本の地図を投影して、「ここが琵琶湖で日本最大の湖です」などと説明した。
海外を知る 貴重な機会
Q&Aセッションでは、日本とフィンランドの生徒が質問し、随時相手校の生徒が回答した。
Q=日本(以後、JA)「私たちは試験結果のランキングに敏感です。フィンランドではランキングがないと聞いていますが、どのように学習意欲を維持していますか」
A=フィンランド(以後、FIN)「フィンランドにランキングシステムはありませんが、高校の最終学年に実施される大学入学資格試験があり、学習意欲を維持しています。フィンランドでは大学入学資格が評価されており、さらなる学習と生活を実現するために重要な資格です。
Q=JA「日本にはたくさんの塾があり、大学入学のために塾でよく勉強します。フィンランドの大学入学システムについて教えてください」
A=FIN「フィンランドにも入学資格のための数か月間のコースはありますが、概してとても費用が高く、あまり人気がありません。大学への合格は、大学が実施する試験だけでなく、大学入学資格の成績が重視されるので、私たちは学校での勉強に最善を尽くしています」
Q=FIN「生徒は先生を尊敬しており、友だちのように先生たちと人生について話したりジョークを言い合ったりしています。日本では先生との関係はどうですか。勉強以外のことも話せますか」
A=JA「一般的には尊敬していますが、先生と生徒の関係は、両者の性格によると思います。親しみやすい先生には勉強以外のことも話すことができます」
フリーディスカッションでは予想以上に日本の生徒たちが活発に質問、こうした交流の場を作ることの大切さを実感させた。
JA「あなたの髪の色は自然のままですか?」、FIN「そうですよ」、FIN「ムーミンを知っていますか」、JA「はい」、JA「日本のアニメを何か知っていますか」、FIN「ポケモン、トトロ」など、楽しくなごやかに会話が続いた。
日本の生徒が「私たちは今、死刑制度について勉強している。日本の死刑制度についてどう思うか」と尋ねると、「残念に思う。あなたはどう思うのか」とフィンランドの男子生徒から切り返される場面もあった。両校生徒は友情を深め、今後も会議をする予定だ。
「平成23年度PSY(パイオニアスクールよこはま)研究発表会」の公開授業が12月2日、横浜市立白幡小学校(永池啓子校長)で開催された。タブレット端末を活用した小学6年生の国語の授業を取材した。
3人グループで 撮影・評価し合う
アンドロイド端末の録画機能でプレゼンを録画し合い、評価、改善点などを話し合う |
発表の評価が高かった場面がひと目でわかる |
アンドロイド端末からTVに映すこともできる |
単元名は「プレゼンの達人になって、自分の思いを伝えよう」。同単元は、小学校における「話すこと・聞くこと」の総括的なものとして位置づけられており、児童が卒業に向けて小学校生活を振り返り、「12歳の今、思うこと」を、明確に伝えることが目標だ。授業者は小林太郎教諭。
約10・1インチのアンドロイドタブレット端末を使ったこの日の授業は、ICT利活用による未来型教育の実証研究のひとつで、KDDIがシステム開発などを行っている。3人ひと組みのグループになった児童は、タブレットにインストールされた撮影アプリを使い、お互いにプレゼンの様子を動画で撮影し合う。その後、動画を再生しながらプレゼン内容について話し合う。
撮影アプリには「いいね!」ボタンと「がんばろう!」ボタンがある。友人のプレゼンを撮影しているときに、「自分も取り入れたい」と思う良い話し方や内容のときは「いいね!」ボタンを、改善すべきだと思ったところでは「がんばろう!」ボタンを押す。集計はすぐに見ることができ、評価の目安にできる。
カメラに向かい 思いをスピーチ
児童が話すプレゼン内容は、これまでお世話になった人のこと、将来の夢など様々だ。
プレゼン時間はひとり3〜4分程度。撮影に多少緊張しているのか、中には棒読み調になったり、途中で言いたいことを忘れてしまったりした子もいるものの、多くはしっかりした口調で、カメラに向かってものおじすることなくスピーチを行っていた。
「我慢はしなければいけないけれど、でも、泣いていいときは泣いていいということがわかりました。ありがとうございました。またいつか会いましょう」と、思いを込めて話す。
「中学生になっても監督やコーチに教えてもらったことを活かして野球を続けます」と決意を熱っぽく語る児童もいる。
グループ全員のプレゼンと撮影が終わると、撮影した動画を再生しながら、友人のプレゼンの仕方について互いに話しあう。
友だちから「ここ目をつぶっていたよ」、「ここは声の調子が一定」と改善点を指摘されたり、「楽しそうに、うれしそうに話しているのがいい」と評価されたりなど、プレゼンのできばえを評価し合い、手元のワークシートに自分に対する評価内容や改善点を書き込んだ。
映像を見ながら 改善点など発見
グループ活動が終わると、この日行った自分のプレゼンについて、感じたことをクラス全員に発表した。「話が暗い内容のときには暗い表情で話そうとしていたけれど、映像を見てみると、最初から最後まで暗い表情だった」、「表情を意識したつもりだったが、映像を見ると思ったようにはできていない。できていないと思っていたところができていた」と、映像を見ることで得られる反省や意見が次々に出る。
3〜4人の意見が出たところで、小林教諭は黒板横に設置された大型ディスプレイに児童のタブレットをつなげ、プレゼン動画を映し出して、改善点について、クラス全員で確認し合う。「自分では意識しているつもりでも映像を見るとできていないし、意識しすぎるとわざとらしくなってしまう。普段から意識しつつ練習して、本番では意識しなくてもできるようにしたい」、「笑顔で話せるようにしたかったけれど、話すことに集中してできなかった。笑顔のことを頭に入れながら練習して改善していきたい」などの意見や反省、今後の心構えについて全体共有した。
小林教諭は、「書いた原稿を読んで覚えるのではなくて、タブレットを活用しながら、自然な話し方ができるように研究してください。クラス発表会が楽しみです」とアドバイスし、授業をしめくくった。
“情報発信力 ”を育てる
江東区小学校教育研究会情報教育部では、「情報収集力・情報活用力・情報発信力」の育成を通じて確かな学力と豊かな感性を育てる授業展開について研究を進めている。12月7日、江東区立亀高小学校(田中康雄校長)5年1組の「総合的な学習の時間」において授業研究会が行われた。内容は、国語や社会で身に付けた力を活用した学級討論会「社会の出来事について討論しよう」。討論会はPC教室で行われた。
意見を裏付ける資料を準備して討論会に臨んだ |
提示資料への書き込み(上)は 液晶ペンタブレット(下)で行う |
新学習指導要領において「総合的な学習の時間」では、各教科で身に付けた力の活用が求められている。授業者の鈴木優一教諭はこれまでに、国語科で討論やインターネットを使った調べ学習、グラフや表などの資料を引用して書く学習などを、社会科において日本の食料生産や工業生産、情報化した社会についての学習を終えている。
また、社会的な出来事に目を向けさせる目的で、日常的に意識して新聞やニュースを取り上げており、「総合」の時間では、これら各教科で身に付けた力を活用する場として、「TPP参加」や「自転車の車道走行」、「消費税率アップ」をテーマとした討論会を行った。
最初の討論のテーマは「TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)」の日本参加についてだ。
「私たちがTPP参加に賛成する理由は3つあります。ひとつは、日本の自動車は外国に人気だということです。日本の輸出上位10品目の移り変わりという資料を見て下さい。資料によると、1990年から2010年まで、日本の自動車の輸出量は1位です。TPPに参加し、自動車をどんどん輸出したほうがいいと考えます」
説明に合わせて 提示資料に書込み
1グループ5人で、そのうち1人は、教卓上のPCで主張内容に合わせた資料を提示。発表者の説明に合わせて液晶ペンタブレットを使って提示資料に書き込んでいる。発表する資料内容、その説明方法など、グループ内で発表内容の事前準備がされている様子が良く分かる。
対して反対派は、人件費が経営の重荷になり、倒産したアメリカン航空の記事を資料として提示。「TPPに参加すると価格引き下げ競争が起こり、農家の人が収入を得て生活するための費用である人件費が下がり、倒産、不景気になる」と反対の理由を発表した。
一通り双方の主張が終わると、お互いの質問タイムだ。相手に対する質問内容の相談や、相手からの質問内容を想定、その回答についてグループ内で討議を進める。
反対派が賛成派に対して「不景気になると円高になる。円高が進むと輸出しても利益が得られないのでは」と質問すると、「TPPにより関税がなくなるため、自動車を外国にこれまでより安く提供できるから円高になっても大丈夫」と対応。それに対して反対派は「自動車の関税は15%。円高の影響のほうが大きい。その主張は納得できない」と食い下がる。双方のグループはこれらの質問事項を踏まえた上で、最後の主張を行った。
聞き手である2グループ以外の児童は、「討論会判定シート」で、判定基準に従って3段階で評価。評価基準は「資料はわかりやすかったか」、「なるほど、と思えたか」、「相手の主張を上手に取り入れていたか」など。これらの評価も踏まえ、聞き手は最後に「賛成か、反対か」を、PC管理システム「スカイメニュー」のアンケート機能で投票。投票内容は、すぐに前方スクリーンに表示される。結果、TPP参加に「賛成」が55%(11人)、「反対」が20%(4人)となった。
この他、「自転車の歩道走行」と「消費税率アップ」など、クラス全員が今日的な課題について賛成派、反対派に分かれ、討論に取り組んだ。
鈴木教諭は5月から通常授業で液晶ペンタブレット(ワコム)を活用しており、プロジェクターで大きく提示した資料の操作や書き込みなど教師用操作に使っている。液晶ペンタブレットは電磁誘導方式コードレス&電池レスペンで、読取認識が速いため、書き込みがスムーズなことから、直感的に操作できて使いやすいと言う。
今回、討論会をPC教室で行ったのには、いくつか理由がある。
「児童の表現活動を充実させるために、主張を裏付ける資料探しをより真剣に行う必要がある。そこで、討論会用資料はパワーポイント(以下、PPT)で作成することで、資料探しや資料を活かしたPPT作りに真剣に取り組ませたかった。PC教室ならば、新聞や資料集からのスキャナ読み込みなどの作業と同時進行でPPTを作成できる。討論会当日は、アンケートもすぐに集計、結果を提示できる」と話す。
資料は日常的な新聞記事の紹介や資料集が中心で、中にはそれに飽き足らずインターネットで検索して資料を探す児童もいた。これも、インターネットを自由に使える環境で可能になるメリットの1つと言える。
討論会では液晶ペンタブレットを児童が使い、発表に合わせながら資料に書き込むことができるようにした。画面に直接ペンで手書きができるので、ノート感覚で利用できる。児童もすぐに操作に慣れ、発表の事前練習では、発表者とPPT提示係との間で、よりわかりやすい書き込みやタイミングなどについて話し合われる場面が見られたという。
鈴木教諭は今回の取り組みを入り口とし、表現活動を通した学力向上に資するICT活用に今後も取り組んでいく考えだ。
フューチャースクール実証実験による児童生徒1人1台PC環境の授業事例が出始めているが、本授業では、その代表的な授業パターンの1つとほぼ同様の授業が展開されていた。
練馬区立中村西小学校(パナソニック 教育財団特別 研究指定校)
練馬区立中村西小学校(福田純子校長)は12月9日、「表現する楽しさを味わう子の育成〜ICTの効果的な活用を通して」を研究主題に、研究発表会を開催した。同校は平成22・23年度練馬区教育委員会教育課題研究指定校及び平成22・23年度パナソニック教育財団特別研究指定校でもあり、全国から300名余りの教員らが参集した。当日は練馬区教育委員会主催のICT教育研修会も兼ねた。公開されたのは、国語、算数、理科、社会、保健体育、道徳、音楽、家庭、外国語活動。
同校の研究にはいくつか特徴がある。
学習活動の充実がゲストティーチャーから の学びを左右する |
まず、ICT活用の目的をA〜Eに5分類した(表参照)。各教科において、児童の理解を深めることを目的にした発表や話し合い活動を展開する際、指導案上にこれらA〜Eを記載、授業目的を遂げるためにICTをどう活用するのかについて明確化している。
研究1年次と2年次で、ICT活用における研究目標も変えた。
「表現する」ためには「わかっている」ことが前提になる。そこで1年目は、ICTで「わかる」授業、2年目はICTで「表現する」授業に重点を置いて研究した。
次に、目指す児童像を「聞き手」と「話し手」に分け、段階的に整理した。例えば聞き手として目指す児童像は、「低学年=相手の話を分かろうとして聞く」「中学年=自分の考えとの共通点や相違点を意識しながら聞く」「高学年=自分の考えと友達の考えの共通点や相違点、良さに気付き、自分の考えに生かす」「専科=友だちとの関わりにより、友だちの良さに気付き、自分の表現に生かせる」だ。
また、同校では研究推進にあたり、「日常的な活用」が可能になるよう、実物投影機と何らかの提示機器(デジタルテレビまたは電子黒板、プロジェクター・スクリーンなど)を全普通教室に常設した。
ICT活用効果 授業外でも拡がる
2年間における研究成果として、同校では、ICT活用の分類表や指導案の工夫によってICTの有効活用を意識した授業作りが可能になったこと、その結果ICT活用と板書計画、ノート指導のつながりを意識でき、授業目標がより明確になった点を挙げた。生徒指導や給食指導、冊子の帳号作業など、授業以外でのICT活用も広がっており、今後さらに活用の幅を広げていく考えだ。
同校の情報技術部が中心となって、実物投影機と電子黒板に役立つ使い方や役立ち度、よくあるトラブルシューティングをまとめた「お役立ち情報」という冊子も作成、当日はこちらも配布された。
堀田龍也教授は2年間を振り返り、「初めて本校を訪問した時、電子黒板はランチルームにあった。ランチルームに置いてあっては、日常的な活用にたどり着かない。先生方は、ICT機器を使えないはずがない。使えないとすれば、それが教室にないから。いつも側にあることがスタートで、活用になじむにつれ様々な授業目的が達成されていく。より発展的な活用のためには、良い学習規律と習慣が基礎。今自分の学校がどの段階にあるか判断することも重要」と述べた。
公開授業4年1組の社会では、東京都の特色ある地域の1つである「浅草」で、地域の人々がどのように特色あるまちづくりに取り組んでいるかついて学ぶ。授業者の磯部教諭は、「分かる授業のためのICT活用」として、浅草に関する写真資料や動画資料、浅草のパンフレット等を実物投影機で拡大して見せ、浅草に興味を持たせたり、地図や路線図で地理的情報を確認したり、観光客数や伝法院などの資料を作成したり見せたりしている。また、「表現する楽しさを味わう学習活動」として、リーフレットを作成したり、調べたことを発表するミニ発表会などを行う。教室には「浅草」についてこれまで学んだ成果が掲示されている。
この日の公開授業では、江戸の町並みを再現した伝法院通りの現在と昔の様子を大きく提示した写真で比較、違うところを見つけたり、伝法院通りの地図やHPから商店街の見どころなどを確認したりした後、ゲストティーチャーである伝法院商店街連合会の丸山理事長に、町づくりについてインタビューを行った。
丸山理事長は、五重塔ライトアップなど観光客に喜ばれる各種イベントや、「大江戸清掃隊」など観光客が多数訪れる浅草の清掃活動にも取り組んでおり、いまや浅草名物の1つとなったサンバカーニバルの総まとめ役でもある。
丸山氏は、「浅草の伝統行事や文化財を受け継ぎながら街を発展させるためには、多くの人に気持ち良く来ていただく必要がある。そのためには建物を作るだけでは不足。地域全体で協力して気持ちを1つにすることが大切」と話した。
茨城県つくば市では、平成24年度から全15中学校区において小中一貫教育が完全実施される。小中一貫教育完全実施に向け、11月24日〜25日に「小中一貫教育研究つくば市大会」(主催=つくば市・つくば市教育委員会)が市内で行われ、全国から教育関係者が集った。
公開授業校の竹園東小学校は竹園東中学校地区に所属しており、竹園東中学校、竹園西小学校の3校は、通称つくば竹園学園と呼ばれている。
竹園東小学校では外国語活動や異学年交流をねらいとした授業、ICTを活用した授業など20の授業が公開された。
■4年生 総合
総合的な学習の時間「われら竹園環境探偵団」では、つくば竹園学園地区のごみ・節電・エネルギーなどについて学び、環境改善に向けて自分たちにどんなことができるのかについて、考えを深め合う。この日は同じ中学校地区の竹園西小学校とテレビ会議を活用して、意見交換を行った。同じ地区内の小学校と連携して環境について意見を交わすことで、学習内容に一貫性を持たせ、中学校における土台を作ることがねらいの1つ。
■6年生 社会
各グループに一台のタブレットPCで 考えをまとめる活動を行う |
単元「新しい日本、平和な日本へ」は、戦後の改革によって日本はどう変化したのか、という課題を通して、資料活用能力を高めるための表現活動を組み込んだ。社会専科専任教員が担当。
各自が集めた資料をもとに、教育改革、農業改革、政治改革、労働改革の各グループに分かれ、改革前後の違いについて話し合う。グループそれぞれに司会者、副司会者を決めて話し合いを進め、グループごとに発表、改革前後の違いについて共通理解を深めた。
他学級で出た考えや資料を共有するなど、教科担任制を生かした授業を展開していた。
授業を視察したつくば市の柿沼宜夫教育長は、竹園東小学校が日本で最初のCAI(※)の実証実験が行われた発祥の地であることに触れ、「夢であった未来の教室が実現しつつある。子どもたちがICTを使いこなしている姿が現実となった。学校の学びがますます広がることを期待している」と感想を語った。小中一貫教育については、「児童生徒だけでなく教員も連携することで、今までになかった教育が可能になる。9か年を見通した教育課程である『つくばスタイル科』は、小中一貫教育の要。これは今まで各校で実践してきたキャリア教育や環境教育、ICT教育、国際理解教育などを融合し、並行的に実践できるよう作った独自カリキュラム。『つくばスタイル科』によってどの中学校区でも共通の教育実践ができ、地域の特色を活かすこともできる。企業の協力も得ながら教育日本一に向けて取り組んでいく」と述べた。
つくば市では昨年7月に筑波大学、インテルと地域連携事業「つくば2015つくばが変わる、日本を変える」プロジェクトを開始しており、産学官の連携でICTを活用した人材養成、起業家支援、コミュニティ活性化、健康づくりなどの事業を展開している。
公開授業を視察したインテルの宗像義恵取締役副社長は「子どもの実践を見て驚いた。どの教科でも、皆の意見を聞こう、意見を尊重しよう、良い意見をまとめていこうという、チーム全体で問題を解決していくという流れが定着していた。21世紀型スキルは確実に育まれている」と感想を語った。※CAI=Computer Aided Instruction。学校教育にコンピュータを活用すること。また、そのためのソフトウェアやシステムなどのこと。
【2012年1月1日号】