TOP>教育マルチメディア>記事 |
最新IT教育―実践、成果を報告― |
教育家庭新聞社では年に数回、教育委員会を対象にしたセミナー「IT機器の活用と管理、研修」を実施している。11月18日に開催された本セミナーのテーマは、「デジタル教科書等コンテンツの活用・研修方法、校務の情報化」とし、デジタル教科書や校務支援システムの導入手順や効果について各教育委員会が報告した。
3拠点・分散型システムで管理
茨城県・笠間市教育委員会では、教員の利便性、安心・安全、コストの3点から考慮し、センターサーバ方式の採用と既設のネットワーク網の有効利用、アプリケーションの統合を決めた。
教育情報ネットワークシステムの構成は、サーバ関連機器26台、教職員用PC450台、プリンタ63台。岩間、笠間、友部の3拠点からなる分散型システムで、サーバ上で動作させるシンクライアントシステムを採用している。
加藤宗治指導主事 |
各地区の小中学校は、それぞれこの3拠点のネットワークに接続。笠間市教育情報ネットワークは校内または教育委員会からだけで利用できる閉じたネットワークで、外部からは接続することができない。
データバックアップの完全化を目標とし、教員が作成したデータが消えることがないよう、セキュリティを確保して保存されるようになっている。
教育情報ネットワークを通じて、教育委員会からの各種文書はネットワークを通じて伝達され、グループウェアの活用により、教育委員会が学校のスケジュールを確認でき、全市のスケジュールの調整も容易にできる。また、ファイル共有機能により教育委員会と学校、学校間で同一ファイルを共有することもできる。
ネットワーク構築の歩みを振り返ると、市では平成18年度に教育情報ネットワークシステムを導入、19年度から本格的に運用していく中で、教員業務の軽減が課題となった。
そこで、20年度から校務支援システムの導入の検討を始め、21年度予算により校務支援システムを導入、利用開始した。
導入後、各学校の情報担当者を中心とした校務支援システムの課題等についての検討会を実施、22年4月から本格的な運用を行っている。
校務支援システム
鈴木秀幸主幹 |
校務支援システムも3拠点に校務システム用と校務DB用にサーバを配備し、学校はそれぞれの拠点サーバにアクセスする方法を取っている。
同システムで運用するのは、指導要録、通知表、出席簿、調査書、各種名簿、成績処理、授業時間管理、学級編制資料などで、作成するものは紙で作成していたものと同じだが、電子化に伴って新しいルールが必要になった。指導要録は20年間保存しなければならないが、電子媒体を20年間管理することに難しさがあるという考えから、笠間市では従来同様紙媒体を原本と考えることとした。
プリントアウトの時期、保管方法なども新しいルールが必要になる。例えば、指導要録の「指導に関する記録」では、小学校入学時に作成した用紙を書き足してずっと使っていくことはできないため、1年ごとにプリントアウトし、前年後の「指導に関する記録」は破棄、保管することとしている。
「学籍に関する記録」は、1年生入学時に作成し、正式用紙にプリントアウトして保存する。出席簿もこれまで毎日原本に日々のデータを書き込んでいたものを、月末にプリントアウトして保管している。
校務支援システムの運用により、出席簿の作成などは格段に効率的になった。ある中学校では通知表を作成するのに生徒1人70分かかっていたのが、20分に短縮されていると言う。
生活記録管理として児童生徒の日々の生活の状況を登録していくことで、児童生徒に関わる情報を多くの教員で共有することができ、生徒指導上の貴重なデータにもなる。通知表を作成するときの所見の元データとしても利用できる。成績管理も成績補助簿機能の活用により日々の評価の積み上げができるようになり、経歴的変化について説明責任を果たしやすくなった。
笠間市(全21校)では「1人1台PC」の整備、「教育情報ネットワーク」の構築、「校務支援システム」の導入等で合計数億円かかっている。段階的導入や使用する機能の精選が校務支援システム導入の普及に必要であると述べた。
ネットワーク配信型を活用 ICT活用の有無で効果を検証
長田淳指導主事 |
三重県・四日市市では市内小中学校62校に多くのコンピュータを配備している。ソフトウェア等教材については、ネットワーク配信型デジタル教材(以下、配信型デジタル教材)を中心に導入。
具体的には、小学校で国語、古典、社会、算数、理科で配信型のデジタル教科書・教材を導入。生活、図工、家庭科などは活用する学年が限られていることから、特定のPCにインストールしている。中学校は教科担任制であることもあり、国語、社会、数学、理科、英語、家庭など全教科で配信型デジタル教材を導入している。
ネットワーク配信型であれば、校内LANを利用すればどのコンピュータからでも教材を利用できるため、教材準備の点でも利便性が高い。
デジタル資産の管理・運用についても効率化する。コンテンツの追加やメンテナンスがサーバで一括管理でき、PCの性能や特殊なソフトに依存しないため運用のトラブルが激減、メンテナンス費用や個々のPCへのインストール費用が大幅削減される。
整備後、従来多かったソフトウェアに関してデスクトップにアイコンが多すぎてどこをクリックして立ち上げたらいいかわからないといった問い合わせや、フリーズするといったシステムトラブルについての問い合わせも、わずか1件と激減している。
四日市市では多種類のデジタル教材整備により、電子黒板などの活用時間数が昨年度に比べ小中学校ともほぼ倍増した。
教育委員会では教員のICT活用指導力を向上させる目的で、平成21、22年度に「授業での効果的な使い方」を研修。インターネットやデジタル教材の効果的な活用方法を把握した。今年度は「効果的な活用方法」から「授業づくりとしてのICTの活かし方」、つまり子どもたちの学びをどのように変えているかということに重点を移行している。思考力、判断力、表現力を強化する方向で子どもたちの学びを変えていく、そのツールとしてICTの効果をうまく活かしていくことを目指している。
また今年度は、ICTを活用した学習指導と学力に関する実証研究を行っている。単元は小学校6年算数の「数量関係」領域における学習内容で、「非連続型テキスト」の読取りについて研究している。
まだ研究途中だが、現時点では、ICTを活用すると、(1)授業の効率に一定の効果(多くの資料を予めデジタル化し、提示作業を効率化)、(2)情報を読み解き解釈する力の向上に一定の効果(図版などの情報をシミュレーションし課題を視覚化)、(3)子どもの意欲関心の向上に一定の効果(映像で課題を提起し、身近な問題として意欲関心を喚起)といった効果が認められそうだ。
榎本崇指導主事 |
ふじみ野市では、ふじみ野市学力向上グランドデザイン「子どもたちを未来に届ける『教育の街 ふじみ野』‐生きる力をはぐくみ、温もりのある絆を深める」を策定、地域、学校、教育委員会の関わり・役割を明示している。ここに教頭会、教務主任会など教員の組織も位置付け、ICT活用についても明記した。
少人数指導支援員、生徒指導支援員、不登校対応支援員など市では全体で125名に及ぶ支援員を配置しており、このうちICTコーディネータは1人、ICT支援員は市内小学校全13校に1人ずつ配置している。
デジタル教科書の導入については、昨年度、校長会、教頭会で学力向上のグランドデザインとデジタル教科書の効果について説明、その後教務主任会でも同様の説明を行い管理職、教員の理解を得た。
また、市長、副市長にも学校でICTを活用した授業を参観してもらい、子どもたちの反応や集中力、資料を拡大投影できるICTのメリットなどについて理解を図った。その流れを受け、今年度は市内全小学校に国語、社会、算数、理科、外国語活動のデジタル教科書を導入することができた。
ICT活用個人カルテ
ICT活用では、教員1人ひとりにスキルの差がある。そこで、教育委員会では教員のICT活用個人カルテを作成、それに対応した個別研修を目指している。
中学校で来年度デジタル教科書の導入を予定していることもあり、既にデジタル教科書を導入している小学校の知見を得るため、中学校区を単位とする小中合同の研修もスタートしている。
ICTコーディネータと支援員の役割
lCTコーディネータと支援員を組織化 |
ICTコーディネータはICT支援員に対する指導・助言や教員・支援員を対象にした研修会の実施、中学校のICT活用支援などを行う。
ICT支援員は市内小学校で教員のデジタル教科書を活用した教材研究支援や授業支援、校内研修会、教材・資料作成などを行う。
両者の連絡・サポート体制は通常、各校ICT支援員からの質問をICT支援員地域リーダー(4人)が受け、リーダーで解決できない問題はコーディネータに上げられる。コーディネータは内容によって教育委員会に報告する。
ICT支援員とコーディネータの連絡ツールとしては、グループウェアを使用。各支援員が作成した教材や情報などを共有している。各小学校ではICT支援員が「校務支援受付シート」を職員室などで教員に回覧、教員はそれに必要な支援を記入していく。また、同シートと併用して曜日、時間ごとのICT支援員活動計画も教員に好評だ。
伏島均指導主事 |
群馬県・太田市では平成20年度に校務支援システムを導入している。導入にあたって小学校3校、中学校3校のモデル校を設置し、使い勝手や普及方法を検証した。
具体的には、20年度はグループウェアを試用、21年度から段階的に出席簿、通知表、指導要録を校務支援システムで作成、22年度から市内全43校の小中学校、特別支援学校で活用を始めた。
現在、帳票は、前述に加えて、児童生徒名簿、卒業生台帳、保健日誌も全校で作成しており、学校裁量で学校日誌、調査書や成績一覧表(中学)も作成している。
太田市では毎年、学校ニーズを把握しながら、同システムを改善している。
例えば、平成23年度からは家庭への「健康診断結果のお知らせ」の利用が可能になり、入力さえすれば簡単に作成できるようになった。24年度からは保健統計の帳票作成をカスタマイズ予定で、養護教諭の大幅な事務軽減につながると期待される。
休日でも時間外で校務を数時間以上行っている教員が半数を超える状況下、校務支援システムは校務の改善にどのような効果をもたらすのか。校務の多忙感、負担を感じている校務、校務支援システムにより負担が減少した校務など、同市では17項目に及ぶ調査を行った。それによると、小学校で教員の89%、中学校で教員の80%が校務の改善効果を実感している。さらに、全校を対象にした掲示板アンケート調査で機能別の効果を見ると、出席簿は作成段階で1/2、処理段階で1/3、通知表は作成段階で1/2、点検段階も同じく1/2の時間短縮につながっていることが分かった。
システムの具体的な利便性は、入力ミスや誤字脱字の訂正が簡単なことだ。指導要録の学籍に関する記録の作成では、中学1年の新入学時、小学校から送られてくるデータの修正を行うだけですむといったメリットもある。
校内で同じ仕組みで仕事ができ、情報の共有化が図れる点も大きなメリットだ。学校全体の児童生徒の出欠、遅刻、早退の状況が教職員であればログインし把握できるので、不登校予備軍の早期発見や児童生徒の状況把握、インフルエンザ多発時の人数確認などが容易に素早くできるなど、保健日誌や生徒指導上の児童生徒理解にも効果を発揮している。
太田市では19年度に副市長の「先生にゆとりを!PC整備を!」との後押しを受け、PCと校務支援システムを一斉整備した経緯がある。
今後導入する自治体に向け、その配慮事項について伏島氏は、(1)校務支援システムを活用して目指すもの、実現させることを方針として明確にする(2)自治体のニーズに合わせてカスタマイズができるものを選ぶ(3)緻密なサポート体制、が重要と強調する。これらの要件を細かく洗い出して競争入札にかけるべきだという。
一方で、デジタルだから何でもできると過信せず、最後は複数の人間の目でチェックすることが重要という。
市では、活用上の課題を解決し共通性を検討するための組織として年2回の校務システム活用推進委員会を発足。また、学校でのシステム使用の活性を継続するために、業者のサポートと、職場研修(OJT)が、必須であると捉えている。
校内教職員が一致協力して、システムを活用し、児童生徒の質の高い教育を実現することは、市民が満足するサービスのひとつであると話す。
【2011年12月5日号】