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最新IT教育―実践、成果を報告― |
全国生涯学習ネットワークフォーラム「まなびピア2011」(文部科学省)が11月5・6日の両日、東京都内で開催された。テーマは「学びを力とする3・11以降の地域づくり・社会づくり」。第4分科会の「ICTを活用した学びと安全・安心な学校の創造」では、学習者用デジタル教科書や、ICTを活用した模擬授業が公開された。
文部科学省では、平成22年度補正予算対応事業「英語をはじめとする先導的デジタル教材の開発」において、平成22年度総務省フューチャースクール推進事業の実証校(小学校10校)に、クラウド環境で利用できる学習者用デジタル教科書・教材を作成した。教科は、国語(4・5年各2単元分)、算数(4・5年各4単元分)、外国語活動(5・6年各4単元分)。国語は光村図書出版、算数は東京書籍、外国語は学研教育出版が制作を担当。国語及び算数は、各実証校で採択されている教科書に完全準拠している。当日は、教科ごとに学習者用デジタル教科書の概要が発表された。
なお、小学校理科・社会及び中学校国語・数学・英語、特別支援学校向けの学習者用デジタル教科書は平成23年度予算において作成中。
教科書本文の他、ツールや教材も(国語) |
学習素材を中心に作成(算数) |
指導者用・学習者用が連携している(外国語) |
国語は、教科書の見開きを表示する「教科書ビュー」のほか、本文のみを表示する「大きいビュー」、挿絵や写真のみを表示する「挿絵ウィンドウ」があり、ペンやマーカーなどの書き込み機能を使うことができる。これにより、挿絵や写真に気づいたことを書き込んだり、教科書本文に線を引いたりすることができ、それらを教師に送信して電子黒板に表示することで、児童の考えや意見をクラス全体で共有することができる。さらに、他の児童に送信し合えば、交流学習も可能だ。
新出漢字や既習漢字は本文から漢字筆順ソフトと連携、筆順や部首名などを確認したり練習したりすることもできる。
特別な支援を要する児童に対しては、読みに困難を感じる子どもに顕著な効果があるとされる読み上げ機能や、白黒反転機能、総ルビ表示モードもある。
KJ法や意見交流に使える付せん機能、自分の考え方の構築に活用できるマッピング作成ツール、新聞作成ソフトなども追加。ノート(デジタルノート)に感想を書き込んで保存、それを他の児童に送信し、交流したり比較したりすることもできる。
読み物教材「大造じいさんとガン」の目標「朗読を楽しむ」に則り、プロの俳優などによる朗読を2種類収録。2者の朗読の違いや自分の朗読との違いなどから読みを深めることもできる。
算数算数は、書き込みスペースを多くとれるよう、教科書に掲載された図版等学習に使うものを中心に掲載した。図形学習などでは、図形の切り取りや移動、書き込みなどができるようにし、さらに様々な考え方をいくつでも保存、クラス全体でその情報を共有できるようにした。
教師用PCから学習者用デジタル教科書にワークシートなど自主教材を送ることもできる。
外国語小学校外国語活動に教科書はないことから、学習者用デジタル教科書は学習指導要領に準拠して作成した。なお「英語ノート」にも対応している。
指導者用デジタル教科書と学習者用デジタル教科書が連携して動くように設計されており、指導者だけが使える機能と指導者・学習者共通で使える機能がある。
共通の機能としては、「スキット」「フラッシュカード」「チャンツ・ソング」「アクティビティ」「発声練習」「絵辞典」「振り返りシート」など。スキットは授業で扱う内容に関わる英会話の寸劇のコーナー。ネイティブの会話をゆっくり聞くことができるバージョンや、会話練習ができるロールプレイバージョンがある。共に、英語・日本語の字幕を表示することも非表示にすることもできる。
絵辞典では、「食べ物」「動物」といったカテゴリーごとに単語カードを一覧で表示されるようになっており、身近な単語を調べることができる。覚えておきたい単語は「マイ辞典」に登録することもできる。
「フラッシュカード」では、単語カードの動きをともなった表示方法を選択することができ、一斉授業でも個人授業においても繰り返し使用して単語を身につけることができる。
個人学習用としては、「発音練習」で単語の発音を練習する機能がある。
ネイティブのお手本音声をよく聞いて、自分の発音を録音・再生して確認できる。
「アクティビティ」は各レッスンで独自のものが用意されており、5年生「気分やようすを伝えよう」の単元では、自分の気分や様子を表す顔を作り、それを友だちと見せ合いながら英語のコミュニケーションを行う協働学習用のアクティビティもある。
教師のみが使える機能には「注目」と「クリッカー」がある。
注目ボタンでは、子どもたちの学習者用デジタル教科書画面をロック、暗転することができる。
クリッカーは、レスポンスアナライザーと言われているもので、簡単なアンケート集計機能だ。選択式の質問を作成、瞬時に集計できる。
フューチャースクール実証校10校において使用されている教科書が異なることから、学習者用デジタル教科書は以下の単元が作成されている
国語 教科書単元と共通教材
【教育出版】▼4年=学級新聞を作ろう/花を見つける手がかり▼5年=すいせんのスピーチをしよう/大造じいさんとがん【東京書籍】▼4年=ヤドカリとイソギンチャク/みんなで新聞を作ろう▼5年=ゲストティーチャーをすいせんしよう/大造じいさんとがん【光村図書】▼4年=新聞を作ろう/アップとルーズで伝える▼5年=大造じいさんとガン/すいせんします
【共通ツール】【やってみよう・使ってみよう】ローマ字しりとり、ローマ字めいし作り、仲間集めゲーム、漢字ビンゴ、なぞかけ選手権、古典を読もう、漢字の筆順、辞典の使い方、言葉の貯金箱、学習のめあてと計画、ふりかえろう【道具箱】ノート、マップ、分類カード、ストップウォッチ、カウントダウン【その他】新聞作成ソフト
算数 教科書単元
【啓林館】▼4年=分数/面積/垂直・平行と四辺形/折れ線グラフ▼5年=整数/平均とその利用/角柱と円柱/割合【教育出版】▼4年=分数の大きさとたし算、ひき算/面積/垂直・平行四辺形/折れ線グラフ▼5年=整数の性質/平均/角柱と円柱/帯グラフと円グラフ【東京書籍】4年=分数をくわしく調べよう/広さを調べよう/四角形をつくろう/変わり方をグラフに表そう▼5年=整数をなかま分けしよう/平均/立体をくわしく調べよう/割合
小学校外国語 学習指導要領に準拠したオリジナル目次のみ掲載
▼5年=世界の友だちとあいさつしよう/気分やようすを伝えよう/数で遊ぼう/好きなものを言ってみよう▼6年=アルファベットで遊ぼう/誕生日を言ってみよう/できることをしょうかいしよう/道案内をしよう
佐賀市立西与賀小
算数「平均」の学習で
学習者用デジタル教科書
フューチャースクール実践校のひとつである佐賀市立西与賀小学校は、算数の学習者用デジタル教科書を使った模擬授業を公開した。授業者は大石文枝教諭ら。算数5年「比べ方を考えよう」で、「平均」の求め方を理解する単元だ。
児童用PCには「大きさが異なるオレンジ」が6個並ぶ。それを絞ってジュースにすると、量はバラバラだ。これを6人が公平に飲むためにはどうすれば良いのか‐‐それについてデジタル教科書上に考え方を書き込ませた。模擬授業の受講者は大人だが、式の立て方や計算方法など、いくつか異なる考え方が出る。大石教諭はそれを任意に選択して電子黒板上に1人分ずつ提示、発表させていった。
「次は『ならした量』の求め方を考えよう」と、ワークシートを児童用PCに配布。それに考え方を書きこませる。書き込んだ自分の考え方は、教師用PCや友人のPCに送ることもできる。一通り学習内容を終えた後はシミュレーションで学習を振り返り、練習問題を解く。学習のまとめとして受講者は、デジタルノート「OneNote」を起動し、その日の学習で理解できたことについてまとめた。これらは全て記録として残り、教師はそれを成績や評価などにも活用することができる。
亀岡市立南つつじヶ丘小
電子黒板、理科のデジタル教科書、実物投影機
「大きさの異なるオレンジを絞ったジュース を公平に飲む」方法について考える |
自分の考え方をTPC上に書き込んでいく |
「まとめ」では他の児童のノートを はりつけることもできる |
文科省電子黒板研究校の1校である亀岡市立南つつじヶ丘小学校の廣瀬一弥教諭は、小4理科「人の体のつくりと運動」の模擬授業を展開した。筋肉がどのような動きをするのかについての学習をテーマに、「予想」「計画」「観察」「結果」「考察」の流れの中で、電子黒板、理科のデジタル教科書(指導者用)、実物投影機を活用した。
デジタル教科書の挿絵の一部を拡大提示し、骨にどのように「筋肉」がついているのかについて、電子黒板上で書き込ませる。次に「腕を伸ばしたとき、曲げたとき」の筋肉の違いについて、グループごとに話し合わせ、その予測を記入したワークシートを実物投影機に数グループ分取り込み、発表させていく。その後、デジタル教科書上で筋肉の動きについて説明した。廣瀬教諭は、「実物を見せる学習は子どもにとって魅力的。大きく映すことで興味をひくことができる」と話した。
横浜市立洋光台第一中
校内情報配信システム
横浜市立金沢中学校の北見俊則副校長は、電子黒板研究校である前任校の横浜市立洋光台第一中学校での実践を紹介した。
同校では職員室の教材サーバに動画や写真、音楽等を保存できる校内情報配信システムを導入している。これにより、前時や前年などの実験や作品等録画・保存した教材を教室の電子黒板やデジタルテレビにリモコン1つで提示することができる。
職員室から教室のテレビ・電子黒板の電源を入れることもでき、テレビには連絡事項や校内放送も配信できる。
異なる教室で同じコンテンツに同時にアクセスしてもストレスなく再現できるなど、学校現場にとって実用的なシステムである点を強調した。
防災教育教材で 被害を最小限に
小笠原敏記氏(岩手大学工学部准教授)は、同学部で開発したデジタル教材を用いた防災教育の事例について報告した。
男鹿市加茂青砂海岸に遠足で来た秋田県の小学生13名が日本海中部地震により犠牲になったことが、同教材開発のきっかけだ。
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学校での防災教育が十分でない理由を聞いたところ、「教師の知識不足」と「津波防災教育にあてる授業時間の不足」が主な原因として挙げられた。そこで、小中学校教員と連携するため、宮古市教育委員会へ協力を要請、津波防災教育の在り方について検討委員会及びワーキンググループを設置。講習会やモデル授業を実施して、平成17年、理科、社会、総合学習などの教科と関連した防災教育教材が完成した。
ワーキンググループには、市内の小中学校長や教諭、岩手県総務部総合防災室職員、防災関連企業、岩手大学工学部及び教育学部教職員が参加。
教材は、地域の特殊性を考慮し、児童生徒の理解能力にあわせた資料約600から担当教諭が自由に選び、独自の授業を組み立てられるようにした。
具体的には、津波の恐ろしさ、発生の仕組み、その特徴、被害や対策についてなど、モデルケースや解説書、被害写真の動画や浸水予測のシミュレーション、復興の体験談などだ。
例えば防波堤で守られている海岸に、仮に1896年に起きた三陸津波が来襲した際のシミュレーションを見ると、たとえ防波堤で守られていても多くの地区が浸水することが分かる。
沿岸12市町村の教諭を対象にこれら教材を使った授業についての講習会も実施した。講習を受けた12市町村の小中学校のうち約3割・30校は東日本大震災において津波の被害を受け、約5校は3階以上の浸水被害を受けたものの、迅速な判断と避難行動により、全員無事であったという。
今後は、東日本大震災を踏まえた教材の改訂や、Webによる津波防災学習教材の開発に取り組む考えだ。
なお同教材については、岩手大学工学部より無料で提供していく考えだ。
【2011年12月5日号】