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最新IT教育―実践、成果を報告― |
東京大学で「DO‐IT Japan 2011 秋季プログラム特別企画『障害のある子どもの高校入試を考える』シンポジウム」が開催され、巖淵守東京大学准教授が、デジタル教科書を普通学級で活用した学習支援の事例を報告した。
巖淵准教授らは、発達障害の児童を支援するために、国語の教科書の一単元のPDFをタブレットPCに載せ、拡大縮小機能や、触れればその箇所を読み上げる機能をもつデジタル教科書を作成。それを小学校2校の1〜6年生の通常学級全ての児童に配布した事例を紹介した。
実際の利用については児童自身に選択させたところ、1クラス約30人中、10人程度の児童が単元終了までデジタル教科書を使用し続けた。
単元終了後に行った到達度テストの結果を、デジタル教科書を使用しない単元と比較したところ、デジタル教科書を使用した児童のテスト成績が、4年生では平均11・85点、6年生で平均23・87点も大きく伸びるという結果が出た
「読んで理解」 を支援する
発達障害はスペクトラム障害だともいわれており、発達障害と認定されていなくても発達障害児が感じているのと同様の困り感を持つ児童・生徒は普通学級にも多数存在する可能性があると指摘されている。
発達障害がある児童の中には、「読んで理解する」能力に困難がある者が多く存在する。
障害の種別にかかわらず「読めない」ことで困り感を持っている児童は、「文字を音に変えることができない」という認知特性のために読んで理解することが難しいケースや、「視知覚のコントロールができない」という認知特性のため文字を追えないケースが多くあると考えられている。
そこで、今回使用したデジタル教科書は、文字を音に変えることが難しい子どもには、文字を音声化して提示する「読み上げ機能」を利用することで、書かれた情報についての理解が進むと考えた。また視知覚のコントロールに困難を抱える子どもには、文字や行間を大きくしたり、読むべき箇所をハイライトしたりできる機能で、文字に注意を向けることができる。
今回の取り組みでは、デジタル教科書と紙の教科書のうち、どちらを使用するかは、児童が自由に選択できるようにした結果、クラス約30人中10人程度がデジタル教科書を使うことを選んだ。これは発達障害と診断されていなくとも、読みに困難を抱えている児童が、普通学級にも相当数在籍している可能性を示しているとも考えられる。
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普通学級で 大きな成果
デジタル教科書を使用した単元と使用していない単元の到達度テストの結果を比較すると、デジタル教科書を使用した児童の成績が大きな伸びを示した。これは程度の違いはあるが、読みに困難を抱えていた児童がデジタル教科書で学習支援を受けることができたためと思われる。
こうした児童はデジタル教科書を使用しない単元の到達テストでは得点が低かったが、デジタル教科書を利用することで、授業への参加感が増し、理解度が上がったと考えられる。
さらに試験問題の音声化にも対応したところ、平均15点程度であった児童の得点が90点までになった例もあるという。
教員も高い評価
授業を行った担当教員からも高い評価を受けている。普段はTTとして補助教員が必要であった児童が読み上げ機能によって自力で授業を受けることができたり、グループ学習で積極的に発言したり物語理解が進んだ例が報告されている。
また、教員の授業準備なども特に紙の教科書と変わらず、教員の負担も少なかったという。
【2011年11月7日号】