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校務の情報化の目的は、教員の事務負担の軽減による子どもと向き合う時間の確保が目的だ。そのためには何から着手すべきなのか。校務情報化支援検討会(主査=堀田龍也教授・玉川大学教職大学院)は5月、校務の現状及び校務支援システムの機能の必要性に関する調査を実施した。その調査結果により、「校務支援システムの導入によって、教員の負担軽減」、「効率的な処理」、「情報共有」が改善されること、校務支援システム利用者は、未利用者よりも、その必要性を高く実感していることが明らかになった。調査の意図と顕著な傾向を、検討会主査を務める堀田龍也教授に聞いた。
“多忙感解消”に資する機能を調査
校種・職位で必要感に違いも 導入して初めて良さがわかる
■調査の目的
玉川大学教職大学院 堀田龍也教授 |
堀田教授は本調査の目的について、「校務の情報化についての全体調査は2007年にJAPET(財団法人日本教育工学振興協会)が実施しており、校務支援システムを利用したことがある教員ほどその必要性を強く感じているという注目すべき分析結果が出ている。しかし当時の校務用PC配備率は3割弱。今、校務用PC配備率が99・2%に達し、何らかの校務支援システムを導入している自治体は52・3%と普及が進む段階にある。整備状況が大きく変わった今、今日の状況を、より詳細に分析、明らかにする必要があると考えた」と述べる。
「教員にとって、校務支援システムのどの機能が、より『必要』であり、『有用』であるのか。調査によって優先度の高さを明らかにし、各自治体の財政がひっ迫する中、各自治体及び学校において何から着手すれば効果が上がるのかについて、明確に示すことが必要だ。本調査により、校務の情報化を広く普及させるとともに、教員の負担感軽減と質の高い指導につなげたい」
■調査手法
調査は、4月から6月にかけて実施。対象は32都道府県の公立小・中学校176校2573人。「校務支援システムの機能に関する調査」を全国の小中学校教職員を対象に行った(有効回答率61・5%)。
校務支援システムの持つ典型的な機能22項目(※表1参照)について「役に立つと感じているか否か(有用性)」(ただし利用経験がある教員のみが回答)、「必要であると感じているか否か(必要感)」を、また、校務支援システムによって期待される効果について5観点(※表2参照)をそれぞれ6段階で回答を求めた。
調査では、校務支援システムの利用経験や勤務先の校種や職名、分掌、年齢等属性についても明らかにしており、それぞれの属性によって回答状況がどう変わるかも分析した。
なお回答を得られた小学校及び中学校の教員の割合はほぼ半数ずつ。回答者の約76%が一般教員。その他は、管理職、養護教諭、栄養教諭、事務職員ほか。
教員経験年数や年代、性別についてはほぼ同程度の割合だ。
【調査結果】教員の9割以上 校務でPC使用
学校に普及したPCの利用状況から、校務でPCを使用している教員は9割以上に上ることがわかった。
授業で週に2〜3回以上PCを利用している教員は全体の3割弱でありながら、校務関連でPCを利用している教員は92・7%にも上る。毎日利用している教員は81・4%。この数値から、ほとんどの教員がPCを使って校務を行っていることがわかる。
一方、校務支援システムの利用について、現在利用している教員は52・8%。かつて利用したことがある教員も含め、「校務支援システムの利用経験がある」教員はほぼ半数といえる。
では、利用経験がある教員は、校務支援システムのどのような機能に「有用感」を高く感じているのか。
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6段階評価で5以上と高い「有用感」が示されたのは、22項目中12項目にも上る。最も高い値を得た3つは、「通知表の印刷」、「成績一覧表の印刷」、「通知表の『出欠の記録』の自動入力」と、全て通知表関連業務だ。
このほか、「出席簿の自動作成」、「名簿レイアウトの編集・印刷」、「テスト結果の集計・印刷」、「指導要録・調査書の印刷」の有用感が高く、名簿・帳票の印刷機能や入力データの再利用する機能に高い有用性を感じていることがわかる。
「必要感」は高まっている
調査では、校務支援システムを使ったことがない教員も含め、全ての教員について、「必要感」についても回答を求めた。
それによると、「非常に必要だと思う」、「必要だと思う」に相当する5以上の回答を得られた項目は、22項目中11項目。
最も必要感が高い4つは、「通知表の『出欠の記録』の自動入力」、「通知表の印刷」、「成績一覧表の印刷」、「指導要録・調査書の印刷」だ。順位は多少入れ替わるものの、前述の「有用感」が高いものと同様の傾向にあり、通知表や指導要録、調査書など、重要書類作成を支援する機能について、必要性が高く認められている。
「導入効果」も浸透しつつある
堀田教授は、教育の情報化ビジョンに示されている「校務の情報化」の内容は、大きく3つに分けることができると述べる。
1つ目は、学籍・出欠・成績・保健・図書等の「情報管理」、2つ目は教員間の指導計画・指導案・デジタル教材・子どもたちの学習履歴その他様々な「情報共有」、3つ目が学校Webやメール等による学校・地域への「情報公開」だ。
これらを支援する機能により、教員の負担感が軽減され、子どもとの時間を確保することができ、教育の質も改善される、というのが「校務支援システム」導入によるあるべき姿であると言える。
そこで、すべての教員に対して、校務の情報化による「期待される効果」を5観点(情報共有、効率的な処理、子どもとの時間確保、個人情報保護、教員の負担軽減)について、6段階で聞いた。
それによると、「情報共有」、「効率的な処理」、「個人情報保護」については、平均値が4を超え、期待感が高いことがわかった。これは、校務支援システムの効果が学校で浸透し始めている項目であると言える。
一方、「教員の負担軽減」、「子どもとの時間確保」について、その効果についてはまだ半信半疑な教員が多いことがわかる。
利用経験がある 教員のほうが 必要感が高い
では、校務支援システム利用経験者と、未経験者ではどのような違いがあるのか。
調査では、校務支援システムの利用経験の有無による「必要感」と、「期待される効果」の比較も行った。この分析は、「校務支援システムを利用して初めてわかる効果」について明らかにすることが目的だ。
それによると、「必要感」については、すべての項目について、利用経験のある教員のほうが、必要感が高い。
中でも特に目立って差が大きかった項目は、「成績・所見の入力支援」、「出欠状況の把握」、「出欠状況の把握」、「学習履歴の把握」、「生徒指導情報の共有」、「家庭への連絡メール」、「通知表レイアウトの編集」、「成績一覧表の印刷」、「通知表の印刷」などの項目だ。校務支援システムを一度使うと、特に日常的な情報把握の機能や学期末処理の機能に必要性を高く実感できることが分かる。
「期待される効果」についても、5項目すべてについて、利用経験のある教員のほうが高い。
特に最も差が大きいのが「教員の負担軽減」だ。これにより校務支援システムを利用しなければ効果がわからない項目であることがわかる。
また、「効率的な処理」、「情報共有」についても差異が大きい。これら3項目は、校務支援システムを導入することによって改善を期待できる項目である、と言うことができる。
小学校と中学校 必要感に違いも
小学校と中学校において、「必要だと感じる機能」に違いはあるのか。調査では、両校種における「必要感」についても比較した。
校種により、大きく異なった項目は4点だ。
小学校で、より「必要感」が大きかったものは、「出席簿の自動作成」、「家庭への連絡メール」、「時数管理」。小学校では、名簿・帳票の作成や校務管理の機能に対して、より必要性を感じていることが分かる。
また、中学校で「必要感」がより大きかったものは、「テスト結果の集計・印刷」機能であった。
管理職と教員で 必要性が異なる
22項目中、「必要感」の値が低い項目イコール即不要な機能である、とは言い切れない面もある。
事務職員や養護教諭、管理職は、一般教員と比較して絶対数が少ない。一般教員に必要感はないものの、養護教諭や管理職には必要感が高い、という機能もある。
調査では、管理職と一般教員等での比較も行った。
一般教員と比較して管理職に、より「必要感」が高かったものは9項目あり、特にその差異が大きかった項目は、「出欠状況の把握」と「学校日誌の作成」であった。
「学校日誌の作成」は、他項目と比べると必要感が高くはない項目だが、管理職のみで見ると、4・5以上となっており、「必要である」と考えている管理職が多い。管理職等は、日常的な情報把握機能について、より必要性を感じているということが分かる。
検討会では、今後、より詳細な分析を進める考えだ。
調査結果詳細=http://www.koumu-shien.jp/
■校務情報化支援検討会=平成23年3月設立。校務用PC配備が行き渡りつつある現状と各自治体の財政状況を鑑み、より中立的な立場で校務の情報化の効果的な普及に資する情報を提供する目的。
http://www.koumu-shien.jp/