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PISAから見る教育改革
5か国大臣・2か国有職者が報告

OECD Japanセミナー

 昨年12月にOECD(経済開発協力機構)が公表したPISA2009(学習到達度調査)の調査結果を踏まえ、文部科学省は、「教育の質の向上‐PISAから見る、できる国・頑張る国‐」をテーマに、6月28日・29日、第14回「OECD/Japanセミナー」を、東京都内で開催した。シンガポール、デンマーク、カナダ、ポーランド、日本の5か国の大臣と2か国の有識者が政策的観点から報告を行った。

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シンガポール 教育大臣 ヘン・スイキャット

 教育を高めていくためには教員の質の高さが重要だ。そこで専門的な能力を持つ教員を採用し、採用後も能力開発を続けている。教員の専門性を高めるためのプログラムとして、「管理職を目指す先生に向けたプログラム」、「勉強を教えるプロになるためのプログラム」、「指導法の改善を目指す先生向けのプログラム」の3種類を提供。シンガポールでは、学校を評価する場合、学力だけでなくチームワークやリーダーシップなど生徒の力を発揮させているかどうかを重視している。

 

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デンマーク 教育大臣 トールス・ルン・ポールセン

 2000年のPISAの結果が思わしくなかったことから、デンマーク政府は教育の改善に向けて取り組んだ。政治家、校長、教員が情報や意見を交換しながら教育改革を進め、学校に対してモニタリングを実施。それぞれの学区で教育の質に関するレポートを提出してもらうことで、問題点や課題を明らかにしていった。その結果、特に自然科学の分野において著しい改善が見られた。

  政府による2020年までの目標では、PISAのトップ5に入ることを目指す。小学校教育の中で読解力を高め、家庭学習を推進することで学力の増強に努めていくことで、実現できると考えている。

 

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カナダ アルバータ州 教育大臣 デイビッド・ハンコック

 カナダのアルバータ州はPISA調査で常に高い点をあげている。しかし現状に満足することなく歴史上最大規模ともいえる教育改革を進めている。子ども達にどのような教育を提供していくか、会合を開いたり、インターネットを利用するなどして何千人もの州民が議論に参加。その結果、「Engaged thinkers」(積極的に関与して考える人)、「Ethical citizens」(倫理観ある市民)、「Entrepreneurial spirit」(起業家精神の発揮)の3つを育てるというビジョンが打ち出された。

  教育改革は予算の縮小などが理由で頓挫する場合もあるが、アルバータ州では改革の後戻りはしないというコンセンサスで進めている。こうした改革に向けた意志の強さが成績の良さにつながっている。

 

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ポーランド 教育国務大臣 ミロスワフ・シェラティツキ

 ポーランドは政治的にも社会的にも変格の真っ只中にあり、教育改革の途上にある。ポーランドにおいて高等教育を受ける人は89年と比べて4倍となっている一方で、幼稚園に通う子どもの人数が低いことが課題だ。

  PISA調査では、成績下位層の底上げを図ったこと、特に女子の能力を高めたことが成果につながった。成績下位層の生徒を教師が集中して教えることで底上げが図られたが、今後は才能のある生徒を伸ばしていくことが課題となる。
この20年間で教職員の質を高めるための準備が整い、国際教育標準分類で5レベル以上の資格を持つ教員が教職員全体の98%を占めるようになった。大学の卒業証書を持っている教員が50%から98%となり、90%の教員が専門職としての能力開発に参加している。

 

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日本 文部科学副大臣 鈴木寛 

 2003年の調査では読解力において明らかな低下が見られ、PISAショックと呼ばれた。そこから学力低下が重要な課題として取り上げられるようになり、PISA型の読解力育成を目指した読解力向上プログラムや、各学校での朝の読書活動の取り組みを強化。国や教育委員会において国語力向上のための研修を実施し、2009年の調査では、読解力が65か国中8位に上昇した。

  2009年の調査結果を詳しく分析すると、他のトップレベルの国と比べて、日本は下位層の成績群の割合が高い。これは家庭で支出する教育費の割合が大きいので、教育費を支出できる家庭とそうでない家庭の学力格差が広がっていることが原因と思われる。

  また、「助けが必要な時に先生が助けてくれる」と回答した生徒の割合がOECD平均を下回っており、教員が生徒に向き合うことができていないことが考えられる。OECDの国の中でも、日本は教員一人あたりが抱える児童生徒数が多い。そこで本年4月に35人以下学級を実現した。

 

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フィンランド 国際流動・協力センター長 パジ・サールベルグ 

 フィンランドでは教員は将来の国づくりを担う若者を育成するための重要な職業だ。毎年5000人から7000人が教員養成課程を持つ大学を志望するが、合格者は10%程度。教員を目指す学生は、高校ではトップレベルの成績であるが、合格するのは難しい。

  大学で教員課程を学ぶ学生たちは現場の実習にも多くの時間を割いており、附属の学校や公立の学校で実習後、論文を書いて修士号を取得して初めて教員になることができる。

  フィンランドの教員は勉強を教えるだけでなく、自分でカリキュラムを作成する。また、生徒の学習の進捗状況を教員自らが報告し、学校の改善も教員が主体的に行うなど様々なことに関わっている。

 

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イギリス 学校訓練開発機構訓練局長 マイケル・デイ

 約200の教員養成プログラムの公認提供機関で、毎年約4万人が教員養成制度を受講している。学校訓練開発機構(TDA)は、教員養成の質を高めるため94年に創設され、大学の教育課程の査察などを行ってきた。その結果、小学校教員の養成課程を実施している施設で、「非常に良い」という評価を得られた施設は、2000年は14%だったのが2011年には50%に上がった。

  イギリスでは2000年以降、教師不足という問題が顕在化した。物理などを専攻する学生が少なく、他の仕事に就く人も多いため、専科教員の採用が困難になっている。そこで、物理や数学を強化するコースを大学に設置し、他学部の学生でも教員になれるようにしている。

【2011年8月1日号】


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