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最新IT教育―実践、成果を報告― |
学校現場のICT機器導入、活用・研修の要となる教育委員会。教育家庭新聞社では、ICT活用が学校現場に根付き、より効果的な活用の普及に役立つように、前回(2010年6月)に続き、教育委員会向けセミナーを2011年5月25日(水)に実施した。都道府県、市町村の成功事例や特徴的な事例・課題を取り上げた。
新宿版ICT化教室を構築 教員の8割が毎日使用
新宿区は機器常設のIT教室環境を独自に実現。教員のIT活用率も高く、注目されている。
新宿区(東京都)では、区独自に考案した(1)短焦点型プロジェクタ、(2)実物投影機、(3)教育用PC、(4)IT教卓、(5)スクリーン兼用ホワイトボード、の5点セットからなる「新宿版ICT化教室」を区内全小中学校40校の全教室へ展開中で、今年度に完成の予定だ。予算総額は27億円。「既存の授業スタイルを生かす」、「IT機器使用の準備時間をゼロに」がポイントで、教員が無理なくIT機器を使える環境を追求・構築する。
桑野氏は言う。
「新宿区は学校情報化の方針を『使いやすく管理しやすいICT環境』と定め、そのコンセプトに合致する環境を追求していく中で、新宿版ICT化教室として結実した。黒板は光を反射しないように、低反射型のホワイトボードを入れている。プロジェクタは壁に固定、さらに、新宿区独自開発のIT教卓にノートPCと実物投影機を常時接続したまま収納、使用時は実物投影機をIT教卓の上に置き、ノートPCはIT教卓内からスライドさせて利用することができるようになっている。この環境によりIT機器を使うための準備時間がほぼゼロになった。新宿区では機器の稼働率を上げる環境を構築した」
教員はほぼスイッチを入れるだけで、ノートPCの画面や実物投影機で映している教材を拡大投影できる。
今年3月1日現在の区内小中学校40校、養護学校1校を対象にした調査によると、ICT機器をほぼ毎時間活用している教員が2割、2回に1回程度活用している教員が3割、5回に1回(1日1回)程度活用している教員が3割で教員の約8割が1日に1回以上使う高い活用率を示す。
将来の発展性として電子黒板を追加していくことや教室を第2のパソコン教室化して教室内LANによる個別・グループ学習をすることも可能な設計になっている。
また、校務の効率化を図るために校務用ネットワークを構築。会議情報の共有を行うグループウェア、学籍管理・成績管理などの校務支援システムを導入、また、教員一人一台配布の校務用PCはシンクライアント型でセキュリティを強固に確保している、という。
また、教員のICT活用指導力向上のため、様々な疑問に答えるヘルプデスクに専門の担当者が2名常駐、さらにICT支援員が毎週1回は各校を巡回しているという。
朝学習反復学習徹底に効果 自作教材を教委で蓄積し共有
沖縄県金武町では2010年4月に町内小中学校4校の全教室に電子黒板を導入した。
電子黒板の導入は、各学校が朝学習による反復学習の徹底を図ろうとしていた時期と重なり、朝学習での活用が各校共通して工夫された。
ICT活用について、「スキルの開きが活用の差につながらないようにすることが大切」と宜野座氏は語り、導入後の「スキルアップ研修」にまず力を入れたという。教員各自がPC持参で、実習をメインにした形で講師の説明を聞きながら基本操作を体験・習得した。
その後の教材作成研修は、各学校の要望や実態に応じ、講師のアドバイスを受けながら教材を作っていった。
宜野座氏は、「多数の自作教材が作成され、教材データはすべて教育委員会で保存し、町内小中学校で共有、他市町村の要望にも応じている」とICT活用の普及に向けた取組みを語る。
町内の小中学校教諭、他市町村の教育委員会関係者も参加した「電子黒板活用実践報告会」では、大規模小学校、中規模小学校、小規模小学校、中学校に分けて授業での活用実践例を報告。今後の電子黒板活用充実発展に資することを趣旨に開催されたものだ。
宜野座氏は実践報告会や普段電子黒板を活用して行われている様々な授業例として、100ます計算を行う際に大きく電子黒板にタイマーを表示する、漢字のフラッシュカードを表示して音読、書画カメラで児童生徒の図画工作作品・立体的作品や教具などを電子黒板に提示する、書画カメラを活用して読み聞かせを行う、インターネット教材ソフトの活用、プリント教材を拡大投影、などを紹介した。
また、電子黒板活用の効果について、(1)板書では提示が難しい模式図やタイムリーな資料などをスピーディに提示して児童生徒の集中を持続させる。(2)板書データの保存、データ再提示により振り返りが容易にできる。(3)授業について行けなかった児童生徒が意欲的になっている。(4)朝の反復学習が楽しみで遅刻気味の生徒が早く登校するという効果が生まれている。(5)児童生徒の方を向いて授業を進める時間が増えた。(6)マルチメディア活用の応用発展に期待が持てる、とまとめた。
課題は、(1)若い先生に教師本来の授業力を身に付けさせる研修、(2)授業力のあるベテランの先生の助言を受けながら電子黒板活用の充実に資する、(3)電子黒板と板書の特長を生かした有効な活用方法の探究、という。
全校1〜2名必修受講 校内研修推進環境整備
三重県は教員のICT活用指導力が全国1位になり、研修の方法が注目されている。
文部科学省の情報教育の実態調査では三重県の教員のICT指導力の順位がなかなか平成19年度まで上がらなかった。そこで、「指導できる教員を100%に」を目標に、平成20年度から新しく「教員ICT活用指導力向上講習会」を設置した。
この研修をメインにして、従来から取り組んできた「情報教育研修」、市町教育研究所と連携した「ブロック別研修」、eラーニングによる「ネットDE研修」、それぞれを「ICT活用指導力の基準」に対応した講座として開催。同時に従来の悉皆研修(初任者研修、教職経験10年研修)にも情報教育研修を位置づけ実施した。
さて、メインの「教員IT活用指導力向上講習会」は全公立学校の情報等担当者に必修受講してもらうものだ。内容は、(1)「ICT活用指導力の基準」の徹底、(2)授業などでの具体的活用事例紹介、(3)校内研修の事例紹介、であり、受講者は各学校に持ち帰って校内研修等を実施する、それによりすべての教員のICT活用指導力が向上することを狙いとした。
実施に当たっては、情報等担当者が受講後学校に帰って校内研修ができるように、県総合教育センターのホームページから校内研修で使える教材や資料、当日の講習会のテキストやプレゼン資料をダウンロードできるようにした。無理なく校内研修で活用できるように、と考えた。
「ネットDE研修」は全189講座あり、その中に情報教育関係の講座が18ある。三重県のすべての教員にアカウントが配布され、必要なときにいつでも知識やスキルを補え、自己確認できる。
「教員ICT活用指導力向上講習会」の内容は、1年目に「教員のICT活用指導力の基準」の基準AとD、2年目に基準BとCを主とした。
平成20年度は10日間延べ10回、各学校から1名必修受講で私どもが各地域へ出向き実施した。講義中心の内容だったが、講座の満足度は88・8%という比較的高い数字になった。平成21年度は実習を取り入れ、10日間延べ40回、情報モラル、授業での活用の両コースを午前・午後、2会場で同時開催、各学校の参加者は2名必修受講とした。講座満足度は94・8%にのぼった。平成22年度は一部任意受講でフォロー講習も実施した。
先進的なICT活用の実践というより、ICT活用指導力の18の基準の底上げを狙って行った。
20項目をチェック 経年・全国平均比較も
野中氏らは「学校情報化診断システム」(http://www.check-ict.jp/)を公開している。
「学校の情報化は本当に進んでいるのか、情報化の状況を診断し、次のステップを示すようなものを作れないかと考え、パナソニック教育財団の助成を得て『学校情報化チェックリスト』を開発した。Becta(英国教育工学通信協会)のシステムも参考にした」
Webサイトにアクセスし、「教科指導におけるICT活用」、「情報教育」、「校務の情報化」及び「情報化の推進体制」の合計20項目について自校の状況に近いレベルを選択する。情報化の進展状況に応じ、10回まで登録できる。
「経年変化の比較や全国平均との比較ができる。次に何をしたらいいのかをサイトで見られるようになっている」
情報化のレベルは「ほとんど取り組まれていない」のレベル0から先進的なレベル3まで。目標とするのは「充分な取り組みが行われている」のレベル2。
例えば、教科指導におけるICT活用でレベル0だった場合、大型ディスプレイやプロジェクタ、実物投影機を組み合わせ、教材の拡大提示を行う、など3つのアドバイスが出てくる。
学校教育の全体としての質向上を願って開発したシステム。研修会、教育委員会でも活用を、と語る。
学校IT基板はCMSで 人・場所・端末に依存しない
新井氏は、「今話し合うべきは、ICTを使って安心・安全な学校を実現することではないか」と語り、4月に開かれた文部科学省の学校教育の情報化に関する懇談会でも震災を踏まえた学校IT環境について提案した。新井氏は語る。
「震災により校務用PC、校務用サーバなど学校のIT基盤が使えなくなった学校があり、教育委員会のサーバも被災しなかなか復旧できなかったという状況がある。また、学校のウェブサイトも、ウェブ更新用の端末が被災してしまったため、情報の更新ができず、ウェブ用のサーバ自体が被害を受けた学校、さらに情報担当の教諭が被災してしまった学校もある。また電話はもちろん、メール連絡網も学校のPCから配信するシステムの場合は機能しなかった」
新井氏は被災した学校の状況を分析。大規模災害時の脆弱性を次のようにまとめる。
(1)固定電話は災害に非常に弱い。(2)特定のPCからしか更新できない学校ウェブサイトやグループウェアは災害時に機能しない。(3)一部の教員に頼るような学校IT基盤やウェブサイトは仮にその設備がどんなにりっぱでウェブサイトがきれいでも災害に弱い。(4)サーバを地元に置くとリスクが高まる。
では、どうすればいいか。
「学校のIT基盤としてCMSを位置づけることを提案したい。ウェブに接続できさえすればID、パスワードに守られた中で更新ができる。更新操作も簡単だ。
また、情報共有のためのグループウェアを普段から使い慣れ、困った時はここを見る、という習慣を作っておくことが重要。そして、CMSでメール連絡網を整備し、サーバはクラウドを利用する」と提案する。CMSの1つであるNetCommonsは学校などが簡単にWebサイトを構築できるオールインワンパッケージとして国立情報学研究所が開発したもの。現在全国2500以上の学校で導入され、携帯電話でもアクセスできる。
「NetCommonsでウェブサイトを作っていた茨城県潮来市立潮来第一中学校では3月11日に生徒に告げ、保護者に学校のホームページにアクセスしてネット上の「安否確認フォーム」に被災状況を記入してもらった。それにより週明け月曜日には全家庭の安否確認ができた」と被災時にも機能したと指摘する。
【2011年7月4日号】