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最新IT教育―実践、成果を報告― |
新学習指導要領では、言語活動の充実によって、習得した内容や得た情報を表現、思考、判断するなどの「活用」型学力を子どもたちが身につけることが求められている。5月21日に京都で実施された情報教育対応教員研修全国セミナー(JAPET主催)では、子どもたちが様々な言語活動を通して表現力を身につけることができる「活用型授業」実践をテーマに「伝える活動ワークショップ」が行われ、小学校の教員らが参集した。
中川一史教授 |
講演で、中川一史教授(放送大学ICT活用・遠隔教育センター)は、学習指導要領改訂のポイントのひとつは「習得型」「活用型」「探求型」学力が盛り込まれている点であるとし、「現状の学力感では、『習得型』学力が主に基礎基本力であり、『活用型』『探求型』学力は応用力である、というイメージがある。同時に、基礎基本を習得しないと応用力はつかない、という固定観念もある。この考え方はもはや通用しないのではないか。これからは、『習得型』『活用型』『探求型』3つの力の新しいバランスを探り、協働学習の手法を通して『伝える力』を育てていかなければならない」と話す。
現在文部科学省や総務省で検証中である、子ども1人1台PCの学習環境と学習者用デジタル教科書・教材については「シンガポールのフューチャースクール報告書によると、新しいICTシステムは従来の活動に新たな試みを加えていくというアプローチが望ましいとされている。これは日本にとっても参考にしたい知見」と述べた。
ワークショップ
ワークショップでは、「新聞」「ニュース番組」「プレゼンテーション」3種類の表現活動を体験した。いずれも達成感のある表現活動だが、「完成したことで満足する」だけの活動にならないよう、子どもたちに身につけさせたい力を明確にし、「練り合う」活動が意識的に盛り込まれた。
「プレゼンテーション」ワークショップの進行役小林祐紀教諭(金沢市立小坂小学校)は、「協働学習とは、最初からみんなで一斉に話し合ってひとつのものを作り合うという活動ではなく、良いものを1つ選ぶ活動とも違う」とし、「最初に個人プレゼンを作成することで、次の段階のグループ活動で話し合いを通してより良い妥協点を探るという練り合いが生きてくる」と述べる。
「ニュース制作」のワークショップ担当は、山本直樹教諭(京都市立桂徳小学校)。適切な動画編集や音声テロップを交えることでより伝わるものを作り上げ、その目的が果たせているかどうかを確認した。ナレーション録音で味わう、ほど良い緊張感もニュース番組制作の特長といえる。
「新聞制作」のワークショップ担当は、佐藤幸江教諭(横浜市立高田小学校)。各学年各教科にちりばめられている新聞制作だが、今回は小学校4年生の学習として設定し、写真の選択によって記事の書き方が異なる点、グループ活動で記事や見出しがより良いものになっていく過程を重視した。参加者からは「達成感がある」と笑顔がこぼれた。
総括パネルで中橋雄教授(武蔵大学)は、「作りっぱなしの授業から脱却することが重要。伝える力を育むポイントは、相手意識と目的意識を押さえた授業デザイン」とまとめた。
▲絵コンテの順番を話し合う |
▲完成した新聞紙面を検証 |
今回ワークショップで活用されたのは、今年度より発売開始した表現活動支援ソフト「伝えるチカラPRESS」だ。これは、子どもたちが「発想」し、「表現」する力を新聞制作、ニュース番組制作、プレゼンテーション制作を通して身につけることができる教材だ。既に京都市立の小学校20校に導入されている。
教材の監修は「伝えるチカラプロジェクト」。同代表の中川教授はプロジェクト立ち上げのきっかけについて「プレゼンや新聞制作、動画編集などのソフトは数多くあるが、いずれも制作するためのもので、学習のためのものではなかった。そこで、先生方にとって学習目的を果たしやすい授業デザインを提案できる教材を提供したかった」と述べる。
▲研修教材はWebで更新 |
研修パッケージも作成、導入時の校内研修や実際の授業でも使えるようにした。内容は、ワークショップの手引き、提示用スライド、各種資料、授業展開事例やワークシートほか。今回のワークショップも、研修パッケージに則った形で展開されている。教材の更新は専用Webで提供される。
中川教授は「思考力、表現力、PISA型学力育成をどうすれば実現できるのか、デジタル教材やICTで今後もサポートしていく」と話した。
【2011年6月6日号】