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フィンランドでは教員が「暗闇の中を照らすロウソクのともし火」とも言われるほど、教員の評価は高い。教育家庭新聞社では早稲田大学大学院教職研究科の田中博之教授、フィンランド在住の元・国語教員メルヴィ・ヴァレ氏をコーディネータとし、3月14日から21日までの8日間フィンランドの教員養成の実際を視察した。大学等の教員13名が参加した。視察先は、ヘルシンキ大学教育学部、教育省、ヘルシンキ大学附属ビーキ小中高等学校、ヘルシンキ市立パロヘイナン小学校、ヘルシンキノーマリセオ中学高等学校、ユバスキュラ大学教育学部、ユバスキュラリセオン高等学校、ユバスキュラ大学附属小中高等学校。教員養成のある担当官は、望ましい先生像として「自分で考え、研究し、評価できる先生。他の先生方と一緒に教えられる先生。分析能力のある先生」をあげた。
プロジェクターは天吊、黒板前にスクリーンを設置。 実物投影機で説明する。 |
フィンランドに大学は20校ありすべて国立だ。
ヘルシンキ大学教員養成システムは2005年に大きなカリキュラム改革が行われ、現行の形になった。学部で180単位、修士で120単位を履修する。1年間の最大修得単位は60単位で、最短5年間で教員になることができる(1単位=27時間)。多くの生徒は高校卒業後アルバイトや外国旅行などの経験後、大学に入学してくる。ビーキ小中高等学校には、40歳と34歳の女性が教育実習に来ていた。
教員は人気の職業で、ヘルシンキ大学の教育学部のクラス担当教員になるための競争率は10倍を超える。2008年のヘルシンキ大学のデータでは、クラス担当教員の応募者数は1258人。このうち、1次試験で1045人、2次試験で362人が合格。最終的にクラス担当教員養成課程に受け入れられたのは123人(9・8%)だ。
教員養成課程に入るための試験は記述試験と面接により行われる。面接では先生を志望する理由、教育内容への理解、子どもを対象にした職業経験、学校をいかに開発していきたいか、といったことが審査される。性格も重視され、性格が硬い、協調性がないとった人は採用されにくいという。
ヘルシンキ大学の教育実習は学部課程の第1ピリオドに7週間(12単位)、修士課程の第2ピリオドに5週間(8単位)行われる。第1ピリオドは大学附属学校で、第2ピリオドはその他の協定校で必ず行われる。
教員養成のカリキュラムや教育実習の方法は大学により異なる。例えばユバスキュラ大学では、大学1年生、2年生、3年生、修士課程と毎年のように教育実習をするシステムだ。
フィンランドの教員養成の大きな特色の1つが研究に基礎をおいた教職の積み重ねだ。社会や子どもの状況が変化する中で教え方をそれに対応しなければならず、「絶えず研究していく」トレーニングが教職課程のカリキュラムに設けられ、ヘルシンキ大学でもユバスキュラ大学でもますます重視されているという。
ヘルシンキ大学教育学部の修士課程の学生が協定校で5週間行っていた実習の内容は大要次のようなものだ。第1週=観察、第2週=ペアで教える、第3・4週=単独で教える、第5週=ペアで教える。1週間あたりの実習時間は20時間、5週間合計で100時間。
実習生に視察参加者の面々がインタビューすることができた。
Q 実習はどのように役に立っているか。
A「教育の実務は現場の学校でないと学べないので、一般校で実習できることはとてもプラス」
Q 実習生の自己改善課題テーマは
実習生A「ケアに関するエチケット」 B「子どもとのコンタクトの仕方」、C「包括的な教え方」、D「子どもの反応を見ながらの実習」、E「問題が起こった時の解決策」、F「計画的な授業の進め方」
実習生による英語の授業を視察した。
ヘルシンキノーマリセオ高等学校はレベルが高く、中学校の成績が9以上でないと入学できない。
英語の必修単位は6単位(1単位=45分×38h)でこの日の授業は必修最後の6単位目のコース。
実習生が実物投影機やPCを使いながら授業を進める。映画のビデオをスクリーンに数分間投影後、教科書In Touch(WSOY社)に関連したプリントを生徒に配る。ある状況下で「自分ならどう対応するか」について生徒がペアやグループで英語を使って話し合う。
教科書やワークブックを題材に、「君はこのテーマについてどう考える?」という授業が中心で、文法や語彙のチェック、詩の学習も間に入れられている。指導員は教室後方に座って見守っている。
スクリーンに映し出された「ホームワーク」の内容には、教科書の3ページを読んでくること、自分でlimeric(こっけいな内容の5行詩)を書き、その日の午後9時までにメールで実習生宛に送ること、とある。
ユバスキュラ大学附属中学校での教育実習生による3年生の英語の授業も、すべて英語で進められていた。映画など生徒が興味を引く事柄についての問いかけ、リスニング、ペアワーク、穴埋め問題・語彙チェックなどと展開。授業後、指導員と実習生が1対1でその日の授業を振返る。指導員は、問題を解かせる時には、時間を区切った方がいい。生徒が間違っても単に間違いを指摘するのではなく、…」などと具体的なアドバイスが行われていた。
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教育実習の協定校であるヘルシンキ市立パロヘイナン小学校は、児童数440名で、外国語は小学校3年生から英語、フランス語から1か国語を選択して週に2時間ずつ、4年生からは第二外国語としてスウェーデン語を加えた3か国語から1か国語を選択して学ぶ。各教室にプロジェクター、実物投影機、PCなどがあり授業で利用される。また、保護者が児童の出欠席や学習状況をインターネットを通じて把握できるシステム「Wilma(ウィルマ)」も運用されている。
【2010年5月8日号】