最新IT教育―実践、成果を報告― | ICT|フィンランド教育 |
● 日本国内でも世界の学生と就職を競う時代が訪れる インテル教育プログラム推進部部長 柳原なほ子氏
● 産学連携で活用しやすいプラットフォームを提案 マイクロソフト株式会社執行役 常務オパブリックセクター担当 大井川和彦氏
世界レベルで教育貢献に取り組むインテル、シスコシステムズ、マイクロソフトは、グローバル企業ならではの視点から世界の中の日本の教育についてどのようにとらえているのか。21世紀型スキルの育成においてどのような支援に取り組んでいるのか。3社に聞いた。(シスコシステムズについては次号掲載予定)
インテル教育プログラム推進部部長 柳原なほ子氏 |
米国のエコノミストは、現在の大学生は2060年頃に定年を迎えるまで、職業を15回変えるだろう、そしてその職業のほとんどが、今は存在しない職業だろう、と指摘しています。
まだ見ぬ未来の職業に就くために、子どもたちは今、どのようなスキルを身につければよいのでしょうか。
時代の変化に伴い必要とされる力が増えてくることから、米国では研究者や企業が集い、21世紀に必要なスキルについての検討会がスタート、これが「21世紀型スキル」の発端です。
基礎学力、語学力、情報に関する知識や経済観念、地球市民としての考え方など、必要と予測されているものは多くあり、さらに難しいのは、これを学べば大丈夫、というものはないという面です。
社会の大きな変化に対応していかなければならないのが今の子どもたちの宿命であり、これから起こる予想もできないことに対しても主体的に学んでいける人材である必要があります。
未来学者アルビン・トフラー氏(米国)は「21世紀の非識字者は、文字を読み書きできない人のことではない。これまで学んだことに固執し、新しいことを学び直せない人を指すことになる」と指摘しています。またマッキンゼーの試算では、アメリカの平均的な児童生徒がフィンランドや韓国の子どもたち程度の学力があれば、リーマンショックによる世界経済の消失をなかったことにできるほどの異なる経済成長ができていたはず、と言っています。
今起きている問題を解決するには、今起きている事象から考えていく必要があります。そこで、21世紀型スキルを恒常的に身につける学習スタイルとして「協働学習」の可能性が世界的に注目されています。子どもたちが学習の中心となり、自ら学び続ける仕組みを作ることで「21世紀型スキル」を育んでいくということです。
21世紀において学校は、建物ではなく「体験する機会」となる可能性が高いといわれていますが、ネットワークやテクノロジーを通じて公教育と地域や家庭などがシームレスに連携し、様々な人が学びの場にかかわっていくことで、より平等に近い教育機会を提供できる仕組みも可能になります。地域や人材など様々な格差をテクノロジーでなくしていく、というのが21世紀型学校の姿です。
この仕組みの実現には「学習環境の整備」、「教員養成・研修のしくみ」、「カリキュラム・指導方法」、「評価基準と測定」の4要素が必要条件となります。
協働学習を円滑に進めるには、先生方のスキルを上げていくことも重要な要素の一つです。
インテルでは教育研修プログラム「Intel(R) Teachプログラム」を提供しており、日本では2001年よりスタート、当初はICT活用にフォーカスされた内容でしたが、現在のプログラムはより21世紀型スキルにフォーカスされた内容になっています。
日本では36時間コースと4時間コースを提供しており、これまで3万4000人以上の方が研修を受講されました。
インテルではグローバル企業として教育支援を行っていますが、世界的に見て日本への社会貢献における予算が年々削減されてきている状況です。
これは「日本では成果が上がりにくく、韓国、中国、インドのように政府ぐるみで取り組み、より成果が確認できる国に予算をつける」という企業としての判断から来ています。
これはとても残念なことです。教員研修プログラムは米国ではオンライン教材もありますが、日本でまだ提供されていないのはこのような理由からです。
教育でのICT活用に関して新興国には大変な勢いがあり、「世界を舞台に働く」ことを視野に入れた教育を行っています。
また、英国の学校では、必ず海外に交流校を持たなければなりません。子どもの頃に世界に発信し、動かす体験があるかないかでまったく成長が異なる、というのがその理由です。
世界の中の日本の地位や価値が相対的に下がってきているという危機が訪れています。
グローバル企業にとって、日本市場に魅力がなくなれば、日本人を採用する率が減るのは目に見えています。
日本企業においても、採用する日本人の学生の割合が減ってきています。これは、日本の企業が海外進出を考えたとき、海外からの留学生を採用するほうが企業利益をもたらす、という判断です。
これからの学生は、世界の学生たちに負けない力を身につけていかないと、就職もままならないということです。
アメリカ合衆国国勢調査局(センサスビューロー)によると、日本の労働人口は2020年までに900万人不足するといわれています。
例えばインドでは逆に過剰ですから、インドを始め世界の労働力が日本に集まる日もすぐに来ます。日本国内で生活するにしても国際化の流れは止めることはできません。
解決策は、やはり「21世紀型スキルの育成」に見出していくしかありません。
PCやプロジェクター、デジタルテレビ、LAN整備など、日本でも土台は整備されつつあります。今、デジタル教科書が注目を浴びていますが、ただPDFで置き換えて印刷代を浮かす程度では意味がありません。興味や関心を引き起こす21世紀型スキルに対応したものを目指し、各国で開発が進んでいます。
教育における日本のブランドはまだ健在ですから、ここで再度世界のトップランナーとなるチャンスが生まれる可能性もあるのではないでしょうか。
【インテルの社会貢献】
Intel(R) Teach プログラム 児童・生徒が自ら考える力を育てる“思考支援型”授業のための研修プログラム。プロジェクトの設計や思考スキル育成のノウハウについて学ぶことができる。
実践例 http://www.intel.co.jp/jp/education/teach/index.htm
Intel ISEF 世界各国から優秀な高校生が集まり、その研究成果を披露する国際学生科学フェアを開催している。
マイクロソフト株式会社執行役 常務オパブリックセクター担当 大井川和彦氏 |
政府とマイクロソフトや協力企業が連携して、世界的に、21世紀型スキルを育成できるインフラ整備を視野に入れた戦略的な動きがスタートしています。
イギリスでは現在、Home Access Projectを実施し、低所得層の家庭にPCとネット環境を提供する取り組みを行っていますし、ポルトガルのマゼランプロジェクトでは、2005年からほぼ4年間で、約100万人の小中学校の子どもたちに教育用ノートPCを普及させました。このノートPCは小学校低学年用、高学年〜中学生用、大人用と3種類が用意された低価格モデルで、子ども用PCには50もの教育用ソフトウェアが収録されており、低所得者には補助金も用意されています。
子ども向けPCの普及は、生徒の学びの機会を広げていくことができます。またPCを活用することによりコミュニケーション能力と協調性を高める助けになります。
子ども手当が始まりますが、21世紀型スキルを考えたとき、どのような使い方が望ましいか。現在弊社では小学生にも簡単にオフィスが使えるためのアドインツール「オフィスキッズ」や小中学生向けテンプレート(http://office.microsoft.com/ja-jp/suites/FX102139941041.aspx)を無償で提供していますが、遊びのなかにうまく学習要素を埋め込んで提供するという手法も含め、受け入れられやすい仕組みを提案しつつ、21世紀型スキルの育成についてさらに一般に理解を求め、その重要性を訴求していきたいと考えています。
補正予算などの整備もあり、日本でもようやくスタートラインにつくことができました。このインフラをさらに有効な学習につなげ、社会に求められている能力を身につける必要があります。
マイクロソフトでは、1人1台のPC環境を最大限に活かした教育効果について、実証的にNEXTプロジェクトを行ってきました。ここで培ったノウハウを共有し、21世紀型スキルを育成しやすいプラットフォームを提案、実現していきたいと考えています。
NEXTプロジェクトでは、コラボレーションやグループワークを可能にしており、家庭や地域など学校内外で情報にアクセスできるITツールの提供や、遠隔地とコミュニケーションできるITツール、使いやすいコンテンツ、情報にアクセスするための理想的なデバイスなど、様々な提案が可能です。
ITを活用することで、学校の情報を親子で共有しやすい環境を作ることもできますし、先生から保護者に対する情報も提供しやすくなります。子どもの学習能力や進捗度合のチェックも可能になります。
また、遠隔地とコミュニケーションできるITツールを活用することで、入院時や不登校児のサポートも実現しやすくなります。
タブレットPCを使って「お絵かきリレー」で 作品を完成させる (和歌山市内小学校) |
何より重要視したいのが、21世紀型スキルの育成につながる協働学習の実現です。
NEXTプロジェクトで取り組んだのが、マイクロソフトの提供するデジタルノートソフトウェア(Microsoft OneNote)を活用した授業で、情報共有機能を活用することにより、グループでの共同作業を促進したり、生徒が授業に参画する意欲を高めると共に、生徒が自分の意見をクラスで共有し、生徒自身のさらなる発見へと繋げていくことが可能になります。また、強力なICT基盤の構築により、海外との交流はもちろん、幅広いコミュニティの形成が低コストかつ簡単なツールにより実現できます。
シンガポールでは、2003年から政府とマイクロソフトが連携し、タブレットPCを使って、学校と家庭の緊密な情報共有が可能になるICT基盤を整備しています。これにより子どもたちがいつでもどこでも学べる環境を実現し、生徒が教員や学習コンテンツにいつでもアクセスできる環境を提供しています。総務省の原口大臣も学校を視察され、そのインパクトが政策という形で結実しつつあります。総務省のフューチャースクールの構想の大きなきっかけとなったプロジェクトです。
ダイナミックな動きが全世界で起こっていることを、政策立案する方はもちろん、学校現場や保護者も含め広く知って頂き、21世紀型スキルの促進に尽力していきたいと考えています。
【2010年5月8日号】