最新IT教育―実践、成果を報告―ICT|フィンランド教育 |
堀田龍也氏
玉川大学准教授 |
補正予算などによる整備を含め、教員用PC1人1台配備は、今年度中に全国の教員の8割以上に完了すると予想されている。堀田龍也氏(玉川大学 准教授)は、「校務の情報化の本来の目的は、PC配備だけでは達成できない」と話す。堀田氏に「校務の情報化」の目的と進め方について聞いた。
校務の情報化の必要性はここ数年で、広く認識されてきました。それを受け教員用PC1人1台の整備は急速に広まり、8割以上の教員用PCが学校現場に整備されようとしています。しかし、PCを配備しただけでは、校務の情報化が完了したとはいえません。
校務の情報化の目的には側面が2つあります。
1つは、教員の多忙感の解消です。校務の情報化を進めることで、その多忙感が解消される可能性が大きいといえます。
2つめは、セキュリティの確保です。児童・生徒の個人情報を扱っている関係上、私物PCの使用やPC持ち帰りといった仕事スタイルを続けた場合、どんなに配慮していても、情報漏えいなど深刻な事態が起きる可能性は否定できません。それを一切起こさないようにするには、それなりのシステムやソフトの導入が必要です。
では、どのようなシステムやソフトが必要か。
教員は、いわば「教育専門職」。学校ならではの特殊事情があり、それに対応した「学校用」のシステムやソフトがなければ、多忙感の解消やセキュリティの確保など、校務の情報化の本来の目的を果たすことができません。学校向けの校務用ソフトを導入している自治体は増えつつありますが、その必要性を認識していない自治体の絶対数がまだまだ多いようです。教員用PCと汎用ソフトウェアだけで校務の情報化が達成できると思っている例も見られますが、これは誤りです。
大きく分けて校務用ソフトは、2つの機能に分けることができます。
1つは、電子掲示板などを中心とした、教員間の情報流通を円滑にするためのもの。教員が同時に職員室に集まる機会はそう多くはありません。セキュリティを保持された校務用PCで、それぞれの持ち場から各種連絡調整などを確認することができます。グループウェアとも呼ばれ、民間企業でも多く使われているもので、比較的導入しやすいシステムです。
2つめが、児童・生徒に関する情報を共有し参照するシステムです。成績や生活指導、出欠記録、健康情報などを、子どもの名前ひとつで自由に取り出せるものです。
これまで、子どもの成績情報は学級担任や教科担任が、健康情報は養護教諭がまとめており、ほかのクラスの先生が参照する機会はそれほどありませんでした。それを、必要な人が参照し、情報を共有して行動や成績の把握に利用することは、子どもの指導に役立ち、教員の多忙感の解消に大きく貢献するなど、学校経営に大きな変革をもたらす可能性が生まれます。管理職が児童・生徒の出欠状況をいち早く把握できると、学級閉鎖の判断や、課題のある児童・生徒への対応も迅速になります。通知表の所見等も過去に遡って参照することもできますし、保護者との連携も密にすることができます。
「教育専門職」である教員にとって特に重要なのは、この2つめの機能です。児童・生徒に関する情報の共有化ができてこそ、校務用PCを配備した意味がある、と言って良いでしょう。
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ここで問題になるのが、学校用の校務システムを決裁する立場にある財務課などの教育委員会担当者が、その必要性や機能に対するイメージを持ちにくい点です。財務課の予算担当者の多くは、学校現場で働いたことがないために、教員の仕事の特殊性を支援する校務用ソフトの導入の必要性を感じにくいのです。教育委員会の指導主事も、一度も校務の情報化を体験したことがないと、その有用性をアピールできず財務課を説得することが難しいという面もあります。しかしJAPETの調査(※)では、「校務の情報化」は予想以上に効果があるという結果が出ています。「導入して初めて良さが分かる」ものは、トップダウンでの導入が向いていると考えられます。
次の課題は、出席簿の書式や通知表の様式など各校にあわせたカスタマイズや研修など、導入当初は手間がかかる点です。解決策としては、まず教育委員会が「校務の情報化」で必要な「児童・生徒の個人情報を共有できる学校用ソフト」が必要であると認識し、教育委員会主導で予算立てしていくこと。同時に、学校管理職や教務主任は「学校経営の効率化」という視点からその効果を信じ、「校務の情報化」に勇気を持って踏み出していくことです。
地域や学校間の調整の必要性も生まれてきます。校務の情報化は「授業改善」ではなく「学校経営の改善」なので、担当は管理職や教務主任になりますから、実務の担当責任者である教務主任を各校から集めて「連絡協議会」のような組織を作り、校務の情報化の本質と導入事例や効果についてのレクチャーからスタート、手間がかかる最初の山を越える組織立ても必要です。
教員用PCの導入は、あくまでも必要最低条件であり、スタート地点。越えなければならない山はいくつかありますが、必ず学校改善に役立ちます。教育委員会、管理職、教員それぞれの立場から、本来の目的達成に向け、力を合わせた取り組みを期待しています。
【実施自治体ほど重要性を認識】
調査(学校9500校、教育委員会500箇所)によると、多くの学校が校務の情報化の必要性を認識。校務の情報化を実施している場合と実施していない場合では、実施している方が効果が大きいととらえている。実際に校務情報化を実施しているところでは、校務情報化による副次的効果が肯定的に評価される割合が高い。
(※)平成18年度文科省委託事業「校務情報化の現状と今後の在り方について‐教員一人1台PCから、教育委員会・学校・家庭・地域等が一体となった校務情報化へ」
http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/19/06/07061208.htm
校務情報化を実施しているところは効果を実感している
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【2010年3月6日号】