最新IT教育―実践、成果を報告―ICT|フィンランド教育 |
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「公民的資質の基礎」とは、「日本人としての自覚」をもって「国際社会で主体的に生きる」「持続可能な社会の実現を目指す」ことができる資質や能力の「基礎」を指す。その実現のために今回、より一層重視されているのが、「問題解決的な学習」と「言語活動の充実」だ。具体的には、調べ学習や体験学習などを通じ、自分の考えに基づいて情報を収集・選択・整理、相手に分かりやすく考えたことを加工・再構成、表現する活動を行っていく。
「これまでは、調べたことを分かりやすく表現することが中心だった。新指導要領では、調べたことから『考えたこと』を表現する、という点が強調されている」と澤井氏は述べる。
これらの活動に伴い、新指導要領では「考える」ための新しい視点が種々加わった。例えば、「法やきまり」(3、4学年)、「情報」(5学年)、「金融・経済」(5学年)、「防災」(3、4、5年)、「エネルギー・環境」(3、4、5学年)などだ。
これまで、エネルギー教育のゴールは「水や電気は人の努力で作られたもの、感謝して使おう」というやや道徳的傾向であった。そこに環境教育という「視点」のひとつ
「節水や節電」を加えることで、「限りある資源を大切に使わなければならない」というゴールへと導く。「資源やエネルギー問題に関心を持つように配慮する」観点から、その有限性や外国への高い依存度に触れ、未来の日本を担う1人として、「資源の有効な利用」や、それぞれの資源の有用性を考えたり、廃棄物を資源として活用することを考えたり、といった活動が生まれる。「持続可能な社会に向けた人材育成」への願いが込められた改訂内容といえる。
「ごみ処理」についてはこれまでも「地域のくらし」で扱ってきたが、そこに改めて「法やきまり」という視点を加えることで、「ごみ処理は法律やきまりに定められており、そのルールに則ることが良好な生活環境を維持するために必要である」ことがゴールとなる。
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主にテレビや新聞社などで働く人を調べていた「情報産業」では、新指導要領で、送り手の学習から受け手としての学習が加わった。これは、「より確かな社会の現実を知っていくために、情報の受け手としての立ち位置を明確にする必要がある」という判断だ。
さらに情報ネットワークを取り上げた点も、大きな改訂要素だ。ネットワークの例示として、医療や福祉、防災、教育の4領域で公共サービスの向上に取り組む例が教科書に取り上げられる。
小学校社会科として歴史を取り扱うための視点のひとつとして、「世界遺産」も取り上げられた。過去を学び未来を考える学習から、今に残り受け継がれてきた文化や文化遺産を通して、価値あるものが作られてきた、それは受け継いでいくべきものである、という見方を身につける。
「これまで日本は、古いものを新しく作り変えることにより価値を見出してきた。それを今一度振り返り、未来の担い手として育むことを期待している」と澤井氏は述べ、社会科の中で取り上げるべき「課題」「問題」については「社会に横たわっている問題をそのまま取り上げるのではない」と指摘する。
「学習内容から目標を設定し、その目標を達成できる課題を設定することが、教師の役割。大人が解決できない問題を子どもに議論させることは、議論としては白熱する可能性はあるが、無責任で非現実的な結論に辿りついてしまう可能性がある」
広い視野から概観して全体像を見るためには、基礎となる知識も必要になる。そこで3、4年生で「47都道府県の名称と位置」を、第5学年では「世界の主な大陸と海洋、主な国の名称と位置、我が国の位置と領土」を取り上げる。
「『47都道府県』や『世界地図』の暗記ばかりが注目され、社会科が暗記科目に逆戻りしたと言われているが、それは誤解。基礎的な知識として活用しながら定着していくべき内容であり、教室に地図や地球儀などを常設、『国土の学習』や『産業学習』などでフィードバックしつつ学習していくことを想定している。考えた結果が子どもたちの『知識』になる」
新しい教育課題に対応するためには、「ひとごと」ではなく、学んだことを自分に関わることとして捉え、自ら考え、「よりよい社会の形成に参画する」資質や能力の基礎を育むことが必要だ。新しい視点も、基礎知識も、すべてそれらの基盤作りのためといえる。
「歴史や地理を学ぶことは、話し合いながらより良い解決法を見つけ出し、バランスの良い社会の仕組みを考えることができる人材育成のための礎。明確に分けずに教えるところに小学校社会科の意味がある。それを専門的に学ぶのは、中学校に入ってから」
小学校社会科の役割の果たす役割は「新指導要領」により、ますます重要に、かつ明確になったといえる。
【2009年11月7日号】