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◆座談会◆
江戸川区教育委員会 × 玉置崇氏(愛知県教育委員会義務教育課主査)

校務情報化‘肝’は通知表の電子化
学校LANで情報共有進む


研修は管理職を重視

赤津一也氏
江戸川区教育委員会・指導主事
赤津一也氏

玉置 スキルの習熟や活用についての研修は多くの教員が対象になりますが、ご苦労があったのではないでしょうか。

原野 まずは校長会、副校長会で時間をとり、管理職向けに導入のガイダンスを行いました。ここでは、機能や操作の説明ではなくて、校務支援システム導入の意義や管理職として理解しておくべきことを中心に話をしてもらいました。

佐藤 その後、12月から1月にかけ、まずは管理職と情報化推進リーダーがシステムの内容を理解してもらうことが重要と考え、約300名を対象に操作研修を実施しました。その後、全教職員を対象にした研修を実施しました。研修内容は主にグループウェア操作で、データ持ち帰り用USBの使い方、生体認証の方法なども行いました。江戸川区ではIDパスワード管理ではなく、個人の指紋で認証・管理するシステムを導入しています。
年度が明けてから実施した各学校での操作研修会を含めると延べ154回もの実施は大変でしたが、「情報化を待っていた」いう声もあり、多忙な中に喜びもありました。

玉置 管理職研修に最初から重きを置いた点は素晴らしいですね。

校務の情報化は学校経営を変えるものです。ところが実際に研修に参加するのは、若手の情報担当が多い。そうなると、技術的なノウハウの飲み込みは早いのですが、それをどう学校経営に活かすかという視点が弱い面があります。

赤津 研修を実施してみると、教員の私物USBやPC持ち込み解消のためには教員1人1台のPC配備が必要である、という意見もあり、今回の整備を歓迎している声があることも分かりました。

玉置 研修は、学校経営を効率化するためのものです。グループウェアを動かすためのものではありません。掲示板ひとつでも、使い方次第で学校が変わります。そのリーダーが、学校長です。

「いいとこみつけ」で生まれた新しいコミュニケーション

佐藤 校長先生が積極的な学校は、やはり進んでいますね。今回取り入れた「いいとこみつけ」の元々の考案者は玉置先生だと聞いています。

玉置 「いいとこみつけ」は、私が教頭時代、すべての教職員で子どもを育てる、という教育について、保護者から「それはどこを見れば分かるのか」と聞かれたことがきっかけで生まれました。すべての教職員で子どもの「いいところ」を見つけて通知表に全て記載したところ、大変評判が良かった。「20ページを超える通知表」ということで、当時、ローカルニュースにも取り上げられました。

「いいとこみつけ」は、どの先生がその子についてコメントを書いたのかも分かるので、廊下ですれ違ったときに子どもたちが「先生ありがとう」と声をかけてくるというシーンも見られ、とても気持ちが良いコミュニケーションが生まれました。こんな瞬間を生むことが出来るのも、IT活用の魅力。これが実感できると、無理なく拡がっていきます。

佐藤 「いいとこみつけ」は特に小学校の校長先生にとても好評です。小学校の先生は、子どもたちの「いいところ」を見つけることがとてもお上手。ところが中学校の先生は「いいところ」を見つけるのに苦労されており、対称的だと感じました。

玉置 「いいところ」を見つけやすい子、見つけにくい子、も確かにいます。見つけにくい子に対しては、改めて指導に活かしていくべき課題となります。

「いいところ」を見つけられない、という中学校の先生に対しては、 「いいとこみつけ」は、「所見」ではない、ということをお知らせしたいですね。目にとまった事実を書けばいい。「当番ではないのに掃除をしていた」「委員会でこんな活動をやっていた」という記述が、本人はもちろん、保護者にも喜ばれるのです。

佐藤 薫氏
江戸川区教育委員会・教育推進課 係長
佐藤 薫氏

不十分な整備は情報漏えいの原因

玉置 校務の情報化で教員1人1台のPCを配備した際、課題となるのはセキュリティです。

赤津 セキュリティ確保は譲れない部分です。しかし学校の実態から、仕事の持ち帰りは致し方ない現状もあります。そこで、ある程度のデータの持ち出しを前提に、暗号化USBを配備しました。

環境を整えずして、あれはダメ、これもダメでは協力も得られません。未整備が原因の情報漏えいであれば、できる限りの整備を行っていく必要があります。

佐藤 万が一データを落としても情報が漏れない、というシステムは先生や子どもを守るためのもの。セキュリティ研修も実施し、日々意識の向上を図っています。

きめ細かい対応で現場の理解を得る

玉置 一気にPCを整備したことで、苦労されたことはありますか。

原野 誰でも、やったことのない世界に足を踏み入れる前は不安なものです。子どものためとはいえ、先生方に無理をお願いする部分もありますから、みんなでサポートしていく姿勢が大切です。

佐藤 どうしてもPCが苦手、という先生が中にはいらっしゃいます。そういう方には個別対応で、使いやすいようにPCやキーボードにテープで目印をつけ、手順が分かるようにし、困っていると連絡が来たときには学校にすぐに訪問をするなどの対応も行いました。

玉置 きめ細かい対応が現場の先生の心に届いたのでしょうね。今後は、徐々に学校内部で教え合う体制が出来てくると思います。

原野 条件が整うのを待っていると整備が進まない、という例を見てきました。個別対応もしつつ、勢いのある整備も重要ではないでしょうか。今の課題は、PCやネットワークを当たり前のように活用する、という段階に一日も早く持って行くこと。その次に目指すのは、「地域に見える学校づくり」です。

給食メニューや学校行事の報告など、学校情報を積極的に地域の方々に公開し、意見を頂くことも考えています。そうすることで、地域の方の学校への理解も深まり、江戸川区の教育目標の一つである「学校応援団作り」にもつながります。学校をバックアップしていただけるような体制を実現していきたいですね。

玉置 学校の「見える化」が進むと、学校は応援してもらいやすくなります。学校を応援してくれる地域の方が増えると、確実に子どもたちは育ちます。江戸川区の今後が楽しみですね。

【2009年10月10日号】

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関連情報リンク
→校務情報化 大規模・一斉整備の成功事例を全国に伝えたい愛知県教育委員会 玉置 崇氏(091010)


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