先日、ある新聞の企画で東京都品川区教育委員会教育長の若月秀夫氏とお話する機会があった。
私は、ここまでの連載で繰り返し情報モラル教育の必要性を書いてきたが、その目的には豊かなコミュニケーションや地域の活性化といったことも視野に入れている。もちろん、セキュリティやネチケットといったことも情報モラルの重要な要素だと考えているが、保護者の立場からは、まずは情報安全教育が重要という意見が多いらしい。
情報安全教育
品川区の調査によると、学校外でのインターネット使用経験は小学1年生で既に5割を超えており、小学5年生から中学3年生の56%が、家庭での使用に何ら約束がないと答えている。携帯電話の所持についても、中学1年で5割を超えるにも関わらず、使用に関する親との約束があるのは半数に留まる。この生々しいデータを見れば、情報安全教育は焦眉の急なのだと分かる。
そして、親子の会話がないという家庭内のコミュケーション不足が、やはり一番の問題だと言う。私も再三書いてきたが、常にこのことが横たわっている。
実学としての市民科
こうした状況に対して、若月教育長は「実学」の重要性を指摘しておられる。品川区では「市民科」と称して小学1年から中学3年まで一貫したカリキュラムを作り実践しているのだ。
後日この教材を買って手に取ってみたが、私が主張してきた情報モラル教育の、まさに実践であった。
例えば、小学1年生向けの教科書の最初は、あいさつや、ありがとうの大切さなど、生活の基本的なことが書かれている。学校や家での生活態度だけでなく、通学路や遊び場など、児童のあらゆる生活場面の注意が分かりやすい言葉とイラストで示されている。不審者への対処法やルールについても学べるようになっている。
情報モラル教育の実践
情報モラルという言葉が登場するのは小学5年の教科書からだ。これ以前に既にモラルやルールが実学として教えられており、子供たちはスムーズに理解できるようになっていると思う。
それでも、この段階での重点は情報安全教育にある。私が情報モラルの目的として考えている地域文化を尊重した情報発信といったことは、中学2年から3年の教科書に出てくる。ただ、情報モラルと名付けられていないだけだ。
保護者が求める情報安全教育と、私が考えている情報モラル教育とは矛盾せず、言葉を使い分けていただけだと思う。いずれにしても、素晴らしい実践教育をされている品川区の例を見て、私の子供がまだ小学生だったなら、品川区に引っ越して教育を受けさせたいと思ったほどだ。
今回は品川区の実学「市民科」を紹介したが、次回は、ACCSの「情報モラル宣言」の概念を示そうと思う。
【2008年1月1日号】