私が利用している東京の電車では、車両前後の優先席付近では携帯電話の電源を切るように求められている。それでも年配の大人の中でさえ守らない人がいる。
対応は鉄道会社によって若干違うが、ラッシュ時の乗客のほとんどは毎日乗っている人であって、電源を切ることを知らない人はいないと思う。それでも無視する人がいるのはなぜだろう。
●携帯電話の悪影響
このコラムでは「情報モラル」について書くのだが、電車の中での携帯電話の使用問題は、単なるマナーの問題ではなく、身体の安全や生命に関わるという意味で顕著な例だ。なぜダメなのか、理由について知っておく必要があると思う。
電車内での携帯電話の使用が制限される根拠は、心臓ペースメーカーへの悪影響が懸念されるからだ。厚生労働省が公表している「医用機器への電波の影響を防止するための携帯電話端末等の使用に関する指針について」において、携帯電話とペースメーカーなどの距離を22cm以上保つよう注意することが必要とされている。
02年の厚生労働省の調査によると、植込み型心臓ペースメーカーへの最大干渉距離は、最近のW│CDMA方式では1cmだが、従来型では11・5cmとある。ただ、全機種を対象にした調査ではなく、ペースメーカーは最新型を対象としたため、従来の指針(22cm)を遵守するよう求めている。
●不安が高まる人もいる
指針に従うとしても、このデータだけを根拠にすれば、22cm離れていれば携帯電話の使用に問題ないことになる。ところが、私が直接聞いた心臓ペースメーカーの利用者は、近くで携帯電話で話をされるだけで、機器の異常がなくても、精神的に不安感が高じ、その結果心臓がバクバクして気分が悪くなったりすると言う。こういう人に配慮するのがマナーであり、モラルではないか。
最近の子供たちは優しい。理由さえ知っていれば、モラルに反することはしないと思っている。先生や親には、こうした事実を子供たちに教えてあげて欲しい。
●理解し努力しよう
最近、中国やイタリアに行って電車に乗ることがあった。携帯電話のマナーは彼の地の方が数段ひどい。日本のマナーが悪いと言っても、まだマシだ。
私たちACCSが取り組んでいるコンピュータソフトの著作権保護活動では、20年前は世界のワースト3だと名指しされたことがあるが、最近の調査でベスト3になった。私は、日本の著作権保護のあり方やモラルについて声高に問題を指摘しているが、実は、日本は捨てたものではないとも思っている。
必要なことは、理由を理解し努力すること。とりわけ子供たちの教育のためには、まず親や教師が、率先して努力する必要があると思う。大人たちがみっともない振る舞いをしていては、教育どころではないのだ。
【2007年7月7日号】