密度高い事例内容 文部省・郵政省が共同して行っている「先進的教育用ネットワークモデル地域事業」及び「マルチメディア活用学校間連携推進事業」に関する「教育分野におけるインターネットの活用促進フォーラム」が通信・放送機構の主催で開催された。今後の両事業の取組みの方向についての説明とともに、密度の高い5つの事例発表が行われた。取組みの内容や進捗状況には差が見られたが、いずれも高度な実践内容が披露された。今回の発表を聞いて、最後に坂元昂メディア教育開発センター所長は、「教育環境が大きく変化している。ネットワーク社会がもうそこまで来ているという感じを受けた」と締めくくった。 |
1部の基調講演では、清水康敬・東京工業大学教授が、カナダ・カルガリ市では情報通信技術の生徒の達成目標を200項目以上に明確に規定していることなど、海外の進んだ情報教育の現状について。また、鈴木敏恵・千葉大学教育学部講師は、「なぜ情報通信技術を使うのか」を海外の先進校で聞いたところ一様に「知識や感動をシェア(共有)したいから」と答えたことや校内で高い地位を占めているテクノロジーコーディネーターの必要性、ポートフォリオ評価について講演した。 2部では、はじめに今後先進的教育用ネットワークモデル地域事業(以下、先進地域事業と略)の30地域とマルチメディア活用学校間連携推進事業の25地域のまとめ役となる、三鷹市教育委員会の大島克己指導主事が今後の方向性について、「1つは各地域で独自のコンテンツがどんどん作られること。2つは、開かれたネットワークにするということ。今の先進的教育用ネットワークモデル地域事業は、モデル校・地域センターでないと、何がされているのか中身を見ることができないことが大きな問題となっている。中央ネットワークセンター、地域ネットワークセンターとも、4月以降開けるものは少しずつ開いていきたい」と語り、今後30地域と25地域が手をつないでいく役割を背負っていく必要があると話した。 続いて、5つの事例発表が行われた。 ▽札幌市教育委員会学校教育部の藤村裕一指導主事は、先進地域事業で4つのコンテンツについて独自に研究開発していると発表。「1つは、小学校用のテーマ別成長型データベースで、インターネットの中だけで学習が完結するものではない。実際に何か体験した上で、コンテンツを利用して次の学習につながっていくようなものを意図している」。2つはマルチメディア教材データベース、3つは特殊学級用の対話型マルチメディア掲示板。チャットやゲーム、ソフトウェアキーボードなども組み込まれている。4つは、バーチャル総合学習。子どもたちを変身させて、3Dチャットをベースに共同学習の場を提供するもの。1、2階は先生が作るが、3階は子どもたちが作る。「子どもたちが一番苦手なキーボード入力についても音声でチャットできるようにしている」という。 また、独自に情報教育支援デスクを作っている。システムサポート部門と校内研修などに人を派遣する研修サポート部門の2つを作り、専門家が相談に乗れるようなシステムサポートSE(情報処理技術者)1人、各学校で設定の世話などをするフィールドサポートSEを8人雇用。校内研究会に派遣できる指導員を15人用意している。 課題は、高速回線も校内に入った途端遅くなってしまう学校もあること。 ▽上越市教育委員会の中島健一指導主事が発表。上越市では、電子メールによる連絡も正式な通知とする、という文書を出したり、絵画コンクールの名簿もエクセルで提出してもらう。Windowsの基本操作やワードの活用などを学ぶ夜なべ講座(平日6〜8時)を中学校で開催、上越ふるさと散歩のデータ入力を商業高校のワープロ実習でしてもらう、などの取組みを続けてきた。モデル校以外の市内の学校も全てインターネットに接続されているが、「高速回線は子どもたちが使える環境であり、42台のコンピュータでも一斉に接続できる」という。今後、地域間交流校を募集したい、とのこと。 ▽長野市では、長野市フルネットセンターと市内小中学校68校が光ケーブルで接続され、VOD(ビデオ オン デマンド)が利用できる環境になっている。これは平成10年度から整備されたもので、この環境に先進地域事業が重なった。10年度から長野市マルチメディア教育利用研究会が組織。「研究会を多く開こう」と2年間で101回の研究授業を行うとともに、教材の作成を進め、VOD教材163教材(863タイトル)、インターネットVOD26教材(520タイトル)、ホームページ活用教材9教材を作っている。 事例発表では、マット運動をするのにノートパソコンでVOD教材を見ながら実際にマット運動をしてタイミングの取り方をつかむ、生活科でお母さんにTV電話で作り方を聞きながら自分で料理を作る、人の体の学習で教師が作った3D映像で学習する、などVOD教材などを使った子どもたちの学習場面の映像などが映し出された。 ▽前橋市教育委員会の折田一人指導主事が発表。前橋市では、高速で市内20校が無線で接続している。モデル校はWLLで、モデル校以外の他の学校は独自予算で無線接続している。「前橋市総合教育プラザとISP(プロバイダ)間の通信量は右肩上がりで増えている。学校のコンピュータが増加していることもあるが、子どもたち、教師がサーチエンジンを利用して、各教科で使うようになっている」「高速回線は、非常に効果が高い。子どもたちの情報活用能力は飛躍的に高まっている」という。 課題の一つは専任でサポートする人間がいないこと。技術が進めば、それに合せたシステム構築、運用支援・研修、拡張が永遠に続くことになる、といった問題も。 ▽柏市教育研究所の西田光昭指導主事が発表。柏市で市内50校のうち、20校がモデル校に。柏インターネットユニオン(KIU)から技術支援を受け、安全な環境を確保するために柏教育バリアセグメントを設け、KIUに2段のファイアウォール、学校の入り口にルーター、職員室と生徒用コンピュータの間にルーターを置くなど、3段階でセキュリティを確保している。また、先進地域事業を利用して、共同学習と交流学習の取組みを進めている。UNIXについての研修会も夜行っている。「インターネットを授業に活用できるように教科単元別の学習用リンク集を作成している。また、地域学習素材のデジタル化も進めている。今後は、先生方がイメージする授業を行うにはどうすればいいか、といった相談にのれる場を作りたいと考えている」という。 (教育家庭新聞2000年4月1日号) |