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INTERVIEW 「学校ITと確かな学力」37

理系の博士号取得者
もっと教育現場に

学校コミュニティに「変化」を
公立はこだて未来大学教授
美馬のゆり氏

美馬のゆり氏の写真

■新入生はノートPC必須

  はこだて未来大学はICT環境を整え人間中心の立場をとりながら新しい科学技術、情報技術、表現技術を身につける、全く新しい大学として生まれました。新入生は一定のスペック以上のノートPC購入が必須になっており、学内のどこででもネットに接続できる環境です。彼らは何かを始めるとき、考えるときにノートPCを開き、友人と情報をシェアします。特にグループ学習として設定せずともごく自然にそのような状況が生まれているのが特長です。

これまで3回の卒業生を社会に送り出しており、その社会的評価がそろそろ出始めていますが、企業から評価を頂いている点はプレゼンスキルなどのIT活用能力というよりは、チームの中でリーダーシップをとり、フォローするなど「チームでスムーズに仕事ができる」点が他大学の学生には見られない点、と評価を受けています。特にIT関連企業でメインの仕事であるソフトウェアやシステムの開発などは、個人ワークではなく、チームでのワークになります。そこで自分の役割を発揮し全体のスムーズな進行を考えられる人材が求められているということです。

 このような状況から考えると、初等中等教育でこれから必要になることが見えてきます。当初は目立っていた、インターネットで調べて編集してパワポで発表する、という活動が評価される時代は終わっており、本来の「賢い市民」の育成が最終目標で、それを達成するためにどうすべきか、が論点となります。

■学校も変化のとき 外部人材の登用を

 教師にICTを活用する能力が不足しているのであれば、現在の教師にスキルを身につけさせるだけではく、他の業界から人を手当てすることを考えてもよいはず。理系の博士号取得者で研究者経験があり、教育に意欲のある人がもっと小中高の教員になる道があってもいいのではないでしょうか。科学技術立国として日本が生きていこうとするならば、理科離れは深刻な問題です。子どもの理科離れはその多くが中学から始まり、特に女子生徒の理科離れが顕著です。そこに、理系の博士課程を出た素敵な女性が理科の教師として赴任したらどうでしょう。ロールモデル、というのはとても重要で、「あんなふうになりたい」と思うだけで授業に望む姿勢や関心が違ってくるものです。

 今では制度改正により、教委がその能力に足ると認められた人は教員として採用されることが可能になりました。学校教育法施行規則の一部改正で民間出身の学校長が生まれ、話題を集めましたが、このように教員採用にも広がるといいですね。

 弁護士や医師など閉鎖的な社会は多くありますが、改善が必要とされその世界が変わりつつあります。学校も同様に、大きく変化していいときではないでしょうか。ICTを普段から活用していてかつ社会経験を積んだ人たちがどんどん学校に入ることで学校というコミュニティの体質も変わるはず。団塊の世代が多く退職し、人員の大幅な入れ替えが可能になる今は、学校のコミュニティを変化させていく絶好のチャンス。これから数年間が、重要な時期となります。

<プロフィール>H12年4月同大開学時より現職(途中3年間客員) 現在文部科学省「科学技術・学術審議会人材委員会」委員 

(取材 西田理乃)

【2007年2月3日号】