「夢・情報・愛」が科学の根源
世界初のロボットスーツ「HAL」を開発し、新テクノロジー「サイバニクス」の生みの親の山海嘉之教授。介護・福祉分野にいち早く実用ロボットを送り込もうとしている大学発ベンチャー、サイバーダインの設立者でもある。テクノロジーとの出会いは、8歳の時。アシモフの小説「私はロボット」に衝撃を受けて以来ずっと「サイボーグ」と「ロボット」の世界を追求、現実のものとし、新しいテクノロジーで文字通り世界第一人者となった。
ロボットスーツ「HAL」は、「人間の脳の働きを察知して人の動きを拡張・支援する」テクノロジーを活用した着用形ロボットだ。しかも外観も美しく、魅力的。昨年11月、ワールドテクノロジーアワード(世界技術賞)・ITハードウェア部門で最優秀賞を受賞した。同賞は、60か国中最も優れた発明に贈られる賞だ。21世紀型人間支援型ロボットの発想、神経とロボットをつなぐ新しいテクノロジー、その応用範囲の広さが評価された。
小学生の頃から「ロボット科学者」と「サイボーグ」に憧れていた。「人造臓器機能とロボットを組み合わせたロボットスーツは、その両者が融合したようなもの」と言う。
「HALは、人間を支援していくことに焦点を当てています。ヒトの身体のしくみを利用し、神経の信号を読み取ってロボットに同じ動きをさせることができるロボットスーツです」。人の役に立つ動きをするためには、ヒトが「したい」と思うと同時にロボットスーツが動く必要がある。脳神経から信号が出たとたんヒトの動きを「先読み」するテクノロジーは、ロボットジャンルにおいて革命的だ。その新しいジャンルを山海教授は「サイバニクス」と名づけた。
「サイバニクス」というのは、脳、神経科学、行動科学、ロボット工学、心理学、IT技術、生理学など、さまざまな分野を融合させた新しいテクノロジー。その最新テクノロジーは、ロボットスーツという成果物に留まることがなく、医療福祉現場や重作業支援向けなど、応用範囲が広いのも特長だ。
「HAL」を健常者が着用すると、片腕で40kg程度は軽く持ち上げることができる。また、筋力の弱った患者が着用することで、自律動作の支援やリハビリ支援にも用いることができるなど、実用化に向けた実験・開発が進んでいる。既に発注案件もあり、今後は部分麻痺にも活用できるよう全身スーツではなく、腕のみ、脚のみといった部分ロボットの企画も進行中だ。
「『夢』『情熱』『愛』の3要素がテクノロジーの開拓を加速します。人のことをどれだけ思いやれるかがテクノロジーの発展に重要です」。
(取材 西田理乃)
【プロフィール】
(さんかいよしゆき)工学博士
筑波大学大学院システム情報工学研究科サイバニクス研究室
1958年岡山県生まれ。
87年筑波大学大学院工学研究科修了。
http://www.cyberdyne.jp/
【2006年9月9日号】