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対談小学校外国語活動「成功のポイント」を考える

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小学校外国語活動
「成功のポイント」を考える

対談
文部科学省初等中等教育局 教育課程課 国際教育課教科調査官 直山木綿子氏
小学校英語指導者認定協議会理事 株式会社mpi会長 松香洋子氏

外国語活動は「体験」学習です

子どもと担任の関係"キー"に

まつか ようこ
株式会社mpi (旧 松香フォニックス研究所)会長、NPO 教育支援協会特別顧問、J‐SHINE小学校英語指導者認定協議会理事・認定委員、放送大学教員免許更新講習講師。30年にわたり児童英語教育の普及に努め、のべ2000校の小学校で研修に携わる。3月26日、松香洋子氏による小学校教員向け『「英語ノート」の効果的な使い方』研修を実施。詳細=http://www.mpi-j.co.jp/
なおやま ゆうこ
文部科学省初等中等教育局 教育課程課 国際教育課 教科調査官。京都市の中学校で英語教諭を務めたのち、京都市教育委員会指導主事として小学校外国語活動を推進。平成21年4月1日より現職。小学校外国語活動に関わる研修会や講演で全国を飛び回る。週末には京都に戻り、家族の一週間分の食事の準備に費やす一面も。


 小学校外国語活動の本格実施目前となり、移行期間中の取り組みの成果が試される。準備万端な学校、進めていく中で軌道修正していく学校と、スタート地点のばらつきが予想される。小学校外国語活動において「ぶれない」ための判断基準が必要だ。中学校英語教師から指導主事として小学校外国語活動推進に努め、現在文部科学省の教科調査官である直山木綿子氏と、コミュニケーション能力育成に資する英語教育の推進と小学校現場の研修に15年以上取り組んできたJ‐SHINE小学校英語指導者認定協議会理事の松香洋子氏が「小学校外国語活動成功のポイント」について対談した。

「英語ノート」貢献度は高かった

直山 2年間の移行期間を経、いよいよ4月から外国語活動がスタートします。移行期間中、全公立小学校の99%が外国語活動に取り組み、さらにその約60%は年35時間実施しているという調査結果も出ています。地域や学校によりその取り組み内容に差はあると予想できますが、全国的に何らかの外国語活動には取り組んでいる状況です。

松香 その数字の高さには驚きます。そこに大きく貢献していたのが「英語ノート」という形ある教材でした。授業研究も進み、ようやく根付き始め、本格実施を迎える矢先での「英語ノート」の廃止や新教材の噂に、現場の教員たちは今、困惑しているようです。「廃止」という言葉には不安感をあおるニュアンスがあります。

直山 ご存知のように一昨年の政府の事業仕分けで「英語ノート」無料配布は廃止となりました。しかし現場からの強い要望もあり、平成23年度まではデジタル版だけではなくテキストとして全児童に無料配布します。さらに24年度以降に向け、新教材が作成されます。

松香  教材のトピックが1つ変わるだけで新しい研修が必要になるなど現場には大きな混乱が生まれることが予想されますから、新教材への移行は、文科省が予想している以上に大きな影響がありそうです。

  貢献度の高かった「英語ノート」ですが、各校の子どもたちの発達段階に応じてピックアップして使うという位置づけであるにもかかわらず、必ず使うように指導する担当者や、英語ノート全ページの答え合わせをする先生もいて、主旨が正しく伝わっていない場面も見られました。

直山 「英語ノート」は元来補助教材で、選択肢のひとつ。それは新教材も同様です。
  一部の報道が新教材を英語ノートの「衣替え」と表現していましたが、それは文科省の本意ではありません。新教材についての具体的な内容計画はこれからですが、「英語ノート」に頂いた建設的なご意見を反映させつつ、英語ノートの活用率が高いことを十分認識したうえで、これまでの研究成果が無駄にならず学校現場の混乱を最小限に抑える方向性を考えていくことになると思います。

担任不在の活動は子どもが育ちにくい

直山 外国語活動の目的は、外国語を使ったさまざまな活動を通じて外国語と日本語との違いや共通点、外国の文化と日本の文化の違い、外国語そのものの面白さに気づいていくこと、外国語を使おうとする態度を身につけていくことです。最終的には子どもが人と言葉をやり取りする楽しさに気づき、体験を積み重ねていき、コミュニケーションの素地づくりにつなげることを目指しており、担任あるいは外国語活動担当者が指導します。

松香 「担任主導」は望ましい方向性です。
 これまで多くの私立学校で小学校での英語に取り組んでいますが、それが連携しているはずの中学高校にうまくつながっていない面があります。これは、外国語講師に任せきりである場合に起きやすい問題です。担任不在の活動では、子どもが育ちにくいのです。それだけ担任が外国語活動に本気で取り組むことは、子どもたちに大きな影響力を持つということです。

 小学校教員はコミュニケーション能力に長けており、表情、目配せ、笑顔などで子どもの心に入り込んでしまうことができます。外国語活動は、そこに英語を乗せるということ。言葉のスキルは不十分ながらもコミュニケーションできる人は、どの国へいっても通用します。そんなコミュニケーション力の素地を小学校で身につけさせるという目標に則ると、小学校外国語活動は、「勉強」というよりは「体験学習」といえますね。

  私が小学生の頃は毎週のように各国から客人があり、コミュニケーションをとっていました。外国人と触れる機会があれば、学級担任は自分の持てる人間力を駆使して、少ない英語であっても、楽しくコミュニケーションしていけば良いと思います。

直山 外国語を通じて人とのかかわり方を勉強するのですから、担任と子どもの関係はとても重要になります。担任が子どもといい心の交流があれば、のり越えなければならない壁は低くなるという事例を数多く見てきました。他教科等ですばらしい授業をされる先生が外国語活動に本気で取り組むと、やはりすばらしい授業を展開されています。

日本語の使用は臨機応変に

『日本語禁止』も挑戦して

松香  ここで外国語活動に取り組む先生が一歩を踏み出すためにトライして頂きたいことは、自分に日本語を禁じてみること。そうすることで必要な表現に気づき、表現方法を調べる、といった積み重ねで上達していく方が多いのです。日本語を禁じてみないことには、どういう表現が必要なのかが見えてきません。

直山  学級担任が英語だけで授業をしたい、またその自信のある方は大いにやっていただきたいのですが、その際注意していただきたいのは、子どもの身の丈にあった英語表現を使うということです。

  その一方で、これまで外国語活動を担当したことがない先生の中には日本語使用禁止といわれると困ってしまう方もいると思います。「子どもとの良い関係性」が外国語活動の成功を左右することを考えると、外国語活動に困難を感じていらっしゃる先生には必ずしもオールイングリッシュにこだわる必要はないと申し上げています。

 外国語活動で学級担任が英語を使う3つの段階があると考えます。
第1に「英語ノート」に載っている語彙や表現です。第2段階はStand upとかSit downなどのクラスルームイングリッシュ。これを自然に使えるようになるとオールイングリッシュが無理でも、かなり英語の使用頻度が高まります。
第3段階は子どもにすべて英語で対応する力ですが、これは中・高やネイティブの先生にお任せすればいい。オールイングリッシュで積極的に進める場合も、子どもの身の丈にあった英語を使うことに留意していかなければなりません。

松香 もし外国語活動に苦しさを感じるのであれば、無理せずにはっきり「助けてほしい」と表明していただきたいですね。学級担任主導は大前提ですが、すべてを1人でやらなければならないというわけではないでしょう。ALTや地域にいる英語の出来る日本人をもっと活用しても良いのではないでしょうか。私たちはそれに対応できるノウハウも人材も持っていますので、ぜひ声をかけていただきたいですね。

  かつて外国にいた経験のある方や子どもに英語を教えることのできる人材3万人を「J‐SHINE」という団体で確保し、ボランティアで各所に派遣してきた経験がありますが、外部に対し閉鎖的な学校も多いと感じています。

直山 担任以外の指導補助や人材確保に関しては地域の実情に合わせていただくしかありません。地域によっては人材が存在しない場合もある一方、積極的にボランティアで参加してくださる方々が多い地域もあります。
国としては、ALTや国際交流員(CIR=語学指導等を行う外国青年招致事業「JETプログラム」で、国際交流活動に従事するために地方自治体に配置された外国人青年)を毎年一定数確保しています。これをどう拡大、活用していくかは自治体や学校にかかっています。

  大切なことは、外国語活動に悩む先生や外国語活動担当者が孤立してしまう状況にならない学校体制です。該当学年だけ、積極的な人だけに任せるというのではなく、学校長・教頭などの管理職が外国語活動の必要性や目標、内容を十分理解し、それを踏まえて全員で取り組む校内体制をきちんと整えている学校は浸透が早い。教員同士の交流・ネットワークとそれを支援する学校体制は外国語活動の成功に必要不可欠といえます。

松香 「コミュニケーション能力の素地」の評価は難しいところですが、評価基準が決まれば、子どもにとって何が必要なのかが見えやすくなります。ペーパーテストでは「体験学習」としての意味を失うので、スケートや体操のようにパフォーマンス評価が望まれます。英語技能という面ではなく、子どもがどこの社会に行っても活き活きとやっていけるという面を評価の観点に据え、それについては親にも理解を図る必要がありますね。

直山 外国語活動は評定する対象ではなく、評価基準があるわけではありません。ご指摘のように国も観点別学習状況の評価を行うこととし、外国語活動についても評価の観点を例示していますが、設置者が設定することとしています。

外国語活動の目標はそのままで教科化を

身の丈にあった英語表現を

松香 諸外国の多くは小学校3、4年段階から、あるいはもっと低学年から教科化し英語教育をスタートしています。それに対して日本では英語教育は中学からという前提は崩れていません。グローバル化された現代世界の中で、IT化や国際化など世界の動向を無視することはできません。日本だけが独自の路線で良いというわけにはいかないのではないでしょうか。

  教科化することで、大学の小学校教員育成課程も必然的に変わってきます。大学でしっかり学ぶためにも、教科化という制度は重要ではないでしょうか。そこで提案なのですが、体験活動という目標はそのままに、教科化するという方法もあるのではないでしょうか。

直山 教科化を推進する方々のほとんどは、英語スキルの強化を目標にしていらっしゃいますから、目標はそのままで教科化を図るという提案は新しい考え方ですね。

  私自身は国、自治体、教員の連携を強くし、現場を最大限ケアできる体制作りを目指したいと考えています。学級担任だからこそ、子どもが言いたい、聞きたい、やってみたい、という活動を作り出すことができるのですから、ご自身が学級担任であることに自信を持って取り組んでいただきたいですね。

【2011年2月5日号】


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