山西潤一氏
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行政刷新会議における事業仕分けについては、無駄な部分を整理し、より意義のある事業に国民の税金を投資するための取り組みとして大いに期待されました。しかし、今回の「学校ICT活用推進事業」仕分けにおいては、電子黒板など一部の機器の導入に関する個人的見解をもとに議論がなされただけで、事業の成果に関する何ら客観的データに基づく議論もなく、「学校ICT活用推進事業全てが廃止」との結論でした。
「教育の情報化」は、国際化、情報化の進む21世紀を生きる児童生徒の情報活用の実践力や情報社会に参画する態度を育てる教育を行う上で極めて重要であり、欧米先進国はもとより、近隣のアジア諸外国でも積極的な教育予算の投資による整備充実を行ってきています。
我が国の「教育の情報化」については、インターネットやコンピュータの整備はもとより、教員のICT活用指導力についても地域格差が広がり、これらの格差の影響が、教育を受ける児童生徒の能力格差となってくることが危惧されます。ましてや、2012年より実施される新しい学習指導要領においても、各教科の中での情報活用能力の育成に関わる授業や、授業におけるICT活用による学力の向上等も期待されているなかで、この地域格差は問題となりつつあります。
事業仕分けの中で、各自治体の予算で行うべきとか、各学校や地方にゆだねるべきとの意見もありましたが、日本の次代を担う人材育成に関してそのような方法では、ますます地域格差ができ、将来的には国全体の教育力の低下につながります。
日本教育工学協会では、国際化、情報化時代に呼応し、「教育の情報化」を望ましい方向に進めるために、毎年全国大会を開催し、教員の日々の実践的研究の成果を共有し、学力向上に向けたより良い授業改善や次代を担う児童生徒の情報活用能力の育成につなげてきています。他方、校務情報化も含め、ICTを学校課題の解決に向けて、学校が一丸となって取り組むためには、校長など管理職の意識改革が重要とのことで、管理職のための戦略的ICT活用研修も行ってきています。これらの活動を通して、現場の教員からは、ICT活用の先進的かつ実践的取り組みを知り、整備されたICTをより効果的に活用したり、新たな学習環境構築の手掛かりになったという多くの声が聞かれます。
「教育の情報化」による教育・学習活動の質を向上させるためには、このような先進的事例研究とその普及活動が不可欠です。ソフト・ヒューマンに焦点を当てた今回の「学校ICT活用推進事業」が廃止されたことは、今後の「教育の情報化」推進にとって大きなブレーキではないでしょうか。
仕分けで廃止となった事業の中には、形を変えて既存の事業の中で実施されるものもあるようですが、「教育の情報化」で目指してきた教育改革のビジョンが見えにくくなってしまったことが大変残念です。
しかしながら、我が国が、国際化、情報化に対応した次代を生きる児童生徒の能力開発で世界をリードすべく、日々のたゆまぬ実践研究を続けていきたいものです。
【2010年02月06日号】
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