中谷日出氏(NHK解説委員)
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「伝える力」そして「生きる力」の基盤ともいえる「言葉の力」の育成は、新学習指導要領の中核だ。現在、NHK解説委員として主に芸術文化、IT関連を担当する中谷氏は、CG番組の監督、小学校高学年用メディアリテラシー番組のキャスターも務めるなど、「伝える」ことに関してはプロ中のプロだ。中谷氏はどのようにして「伝える力」を育んできたのか。(「国語とメディアを追究する夏季セミナー2009」8月2日実施 基調講演より)
■企画・発想の面白さを伝える
91年、NHK第一期キャリア採用で入局した。94年にはマサチューセッツ工科大学・メディアラボ(MIT)に派遣、CGについて共同研究に参加。その後、念願であった「人体 パートU」が立ち上がり、企画に携わる。チーム解散後はNHK放送70周年記念事業のプロジェクトで、アートディレクターとして様々なアイディアを提供。3つの卵が並ぶ「NHK」のロゴは、この時期の中谷氏の作品だ。様々な経歴の中、常に新しい土壌を切り開き、これまでの流れを大きく変えてきた。
「私がしてきたことは、受注ではなく、造注=i仕事を自ら作る意)です。誰かに与えられた仕事ではなく、やると面白い、と感じたことを周囲に認めてもらい、実現する。そのためには、周囲に自分の企画や発想の面白さを理解していただく必要があり、これまでの流れを変えることにもつながります。流れを変えるのならば、1回や2回プレゼンしただけで変わるわけはない、と覚悟を決めてかかること。OKをもらえるまで、諦めずかつ爽やかに、練り直しながら何回もプレゼンを続けること。造注≠フためには、プレゼンであってもほぼ完成した作品を作ります」
■メディアリテラシー教育をもっと積極的に
いかに効果的に「伝える」か。それが「周囲を変え、思いを実現する」ポイントだ。
「伝える」というキーワードは、中谷氏が小学校国語教科書・4年下に提供した「アップとルーズで伝える」(光村図書)のテーマでもある。「同じシーンであっても、アップ映像や写真で伝えられることと、ルーズ映像や写真で伝えられることは異なる。受け手が知りたいこと、情報の送り手が伝えたいことは何かを考えて、使い分けされている」ことを述べ、それを「認識」することの重要性を指摘した文章だ。
「私が学生だった頃、『発想』するための教育、『目的に合わせた伝え方』に関する教育は、ほとんどありませんでした。しかし広告業界では、日々当たり前のようにやっている。発想を鍛え、プレゼンテーションをし、説得、それを実現していく。こうした手法は今、メディアリテラシー教育として少しずつ確立されつつありますが、学校教育でももっと積極的に取り組むべき」と考える。
中谷氏が常に携帯している「企画書」には、キーワードが羅列、整理して図解されている。
「例えば社説を読む。そのキーワードを抽出、グループ化、図解していく。すると、論理の筋が見えてきます。論理がずれていれば、それも分かります。これを3週間続けると、記憶や発想につながっていきます」
■ICTへの理解は不可欠
映像制作の経験から、「今、世界のクリエイティブな世界が均一化しています」と警鐘を鳴らす。「ハリウッドを目指すのは良いが、全てハリウッド化してしまっては面白みがありません。今後は、日本らしさを考えながら『表現』していく必要があります」
また、「テクノロジーの進化について子どもたちが学ぶこと」の重要性も指摘。国の方針で電子黒板の導入が予算化されているが、「黒板が電子化すると、何が起こるのか。デジタル広告はどんな影響をもたらすのか。10年後には、立体視できるテレビ映像が提供されるようになる。そんな世界が待っている中、子どもたちを、どういざなうべきか。それを考えるのは大人の役割。テクノロジーの進化は止められない。子どもたちはそれを知る必要があります」
【2009年09月05日号】
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